
大学時代に芽生えた起業への憧れ、東日本大震災を機に経験した、父による介護事業への献身と会社再建。そして、IT業界への再挑戦と「ファウンダーマーケットフィット」という運命的な出会いを経て、ウェルネス業界に新風を吹き込む株式会社hacomono。代表取締役CEOの蓮田健一氏は、既存のレールに乗ることを良しとせず、常に「常識を疑う」姿勢と「andの思考」で、誰もが当たり前に運動ができる社会を目指す。
本記事では、蓮田氏の挑戦の軌跡と、hacomonoが描く未来像に迫る。そこからは、特に20代から30代のビジネスパーソンやキャリアを模索する新卒学生にとって、自らの手で未来を切り拓くためのヒントが見えてくるはずだ。
原体験から介護事業承継へ
ーー社長が起業を意識された原点と、お父様の会社を継がれた経緯についてお聞かせください。
蓮田健一:
父が中小企業の社長だったこともあり、独立した経営者を身近に見て育ち、大学の頃には、いつか自分で事業を起こしたいという夢を持っていました。その後、東日本大震災で父の会社が経営危機に陥り、それまで全く手伝っていなかった介護事業を継ぐことを決意しました。学生時代から経済的な支援を受けていたので、親が苦しい時に何もできていないという思いがあり、親孝行の一環でしたね。
ーー介護事業ではどのようなことに取り組まれ、そこから何を得られましたか。
蓮田健一:
お客様のケアプランを作成する居宅介護や訪問介護に加え、私が参画してからは介護タクシーや介護用品レンタル事業も立ち上げました。特に事業所があった地域は交通弱者のお年寄りが多く、孤独になりがちという課題があり、その解決を目指しました。売上や利益が劇的に伸びたわけではありませんが、地域課題の解決に貢献できたという実感は大きかったです。この経験を通じて、自分で課題を見つけること、解決策を打ち出すことのやりがいや達成感を改めて学びました。
ITへの再挑戦と運命の「ファウンダーマーケットフィット」

ーー介護事業を経て、再びIT業界でhacomonoを設立された経緯を教えてください。
蓮田健一:
父の会社が安定してきた頃、自分の得意なIT分野で再び独立したいという思いが強くなりました。父の会社の経営に携わった経験から、会社を始めること自体へのハードルは全く感じていませんでしたし、既にレールが敷かれているような環境は、自分には合っていないと思っていたので、プロダクトが決まっていない段階でも再挑戦を選びました。
ーーウェルネス業界との出会い、「ファウンダーマーケットフィット」について詳しくお聞かせください。
蓮田健一:
海外のフィットネスクラブで見た、手続き業務から解放されたスタッフが顧客と向き合う姿に感銘を受け、人が人らしく、いきいきと働けるインフラを作りたいと考えるようになりました。
フィットネス業界には、個人情報の取り扱いやDXの課題があり、この課題を心から解決したいと思い、起業家の思いとターゲット市場が合致する「ファウンダーマーケットフィット(FMF)」を強く感じたのです。このように、様々なチャレンジの中で原体験がうまく作用し、顧客ニーズと自分自身の挑戦がフィットすることもあるのだと思います。
「常識を疑う」「andの思考」で変革を
ーー新しい事業を立ち上げる上で大切にされている価値観は何でしょうか。
蓮田健一:
「常識を疑う」こと、そして「今までの延長線上ではないことをやる人を増やす」ことを常に意識しています。新しいことを始める時には不満や反対も出ますが、それは変革のチャンスだと捉えています。以前マネージャーミーティングで、『ドクターストーン』という漫画の中の言葉を引用し、「いつまでも石斧を一緒に磨いていては、スマートフォンは作れない。常識を疑い、非連続な成長を目指そう」と話しました。
また、「andの思考」も重要です。たとえば、ミッションドリブンであることと売上を追求することは両立すべきですし、スピードとクオリティも同様です。こうした「and」を追求することが、イノベーションを生み、社会を豊かにすると信じています。
hacomonoが描くウェルネスの未来
ーーhacomonoのサービスの独自性と、今後のビジョンについてお聞かせください。
蓮田健一:
当社の強みは、フィットネスクラブなどのウェルネス業界に特化し、会員管理や予約、決済といった業務手続きの主導権をエンドユーザー自身にお渡しするシステムを提供している点です。単にお客様に求められたものを作るのではなく、5年後、10年後を見据えた業界の未来の業務フローを我々が作っていくという気概を持っています。
将来的には、誰もが知っていて、使われているような、社会インフラともいえる大きな事業を生み出し、時価総額数千億円、数兆円規模の企業に成長させたいと考えています。
ーー日本の運動実施率向上という大きなテーマには、どのように貢献していきたいですか。
蓮田健一:
「週に2回運動する習慣」といった、誰にとっても良いことを、どうすれば社会に普及できるか。「ソートリーダーシップ」を発揮し、未来の考え方そのものを業界やエンドユーザーに伝えていきたいです。子供の頃からの教育、運動を通じた自己肯定感の向上、そしてフィットネス事業者が店舗だけでなく、公園やオフィスなどあらゆる場所で運動の機会を提供する。そういった多角的なアプローチで、日本のウェルネス文化を変革し、介護予防や国民全体の健康寿命延伸に貢献したいと考えています。
編集後記
蓮田健一氏の言葉の端々からは、現状に甘んじることなく、常に先を見据えて挑戦し続ける起業家としての強い意志と情熱が伝わってきた。東日本大震災という困難を乗り越え、父の会社を立て直した経験は、同氏の経営哲学の礎となっているのだろう。
「ファウンダーマーケットフィット」という独自の視点、そして「常識を疑い、andで考える」という姿勢は、変化の激しい現代を生きる私たちに重要な示唆を与えてくれる。hacomonoが日本のウェルネス業界、ひいては社会全体にどのような変革をもたらすのか、その挑戦から目が離せない。

蓮田健一/大学卒業後、エイトレッド株式会社の開発責任者として関わる。東日本大震災を機に父の介護事業会社を承継し再建。2013年、株式会社まちいろ(現 株式会社hacomono)を設立、代表取締役CEO就任。ウェルネス業界のDXを推進。