※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

ITやデジタル技術の力で企業のビジネスモデルを変革していくDX(デジタルトランスフォーメーション)が各業界で推進されている。金融・物流・医療業界などの各領域で急速に変革が進む中、オフィスや物流施設などの商業用不動産業界のDX推進を牽引するのが株式会社estieだ。創業5年間で頭角を現し、現在は第2創業期を迎える同社の代表取締役の平井瑛氏に、創業エピソードや現在の事業内容・今後の展望をうかがった。

世界に遅れをとっていた不動産データの情報流通に商機を見出す

ーー創業に至るまでの経歴を教えてください。

平井 瑛:
大学卒業後は三菱地所株式会社に入社し、長らく海外の不動産投資業務を担当しました。米国など諸外国の不動産市場に関わる中で、海外では不動産データのプラットフォームが構築され、投資の意思決定の材料となる情報が素早く手に入ることを知りました。

しかし、異動してスタートアップ企業向けのオフィスビル営業を担当するようになってから、それが日本では当たり前ではないことを痛感しました。

海外不動産投資を担当していた頃は、東京からマンハッタンのデータをすぐに入手できたのですが、同じ東京の不動産情報はなかなか手に入らない。賃料水準や空室率といった物件の情報を得るために、地道に聞き込みをしたり、人を介して情報をもらったりと、情報を得るのにとても時間がかかってしまいます。日本の不動産業界がデータ基盤の整備といった点で遅れを取っていることを痛感しました。

これは見方を変えれば、不動産業界の情報流通にはまだまだ成長の余地があるということ。不動産のデータ活用に将来性を感じたことや、業務を通じてスタートアップの世界の面白さを知ったこともあり、本格的に事業化しようと2018年に独立しました。

データの力で商業用不動産ビジネスをより円滑に

ーー現在はどのような事業をされていますか?

平井 瑛:
「商業用不動産」と呼ばれる、居住用以外のあらゆる不動産のデータベースやソフトウェアを開発・提供しています。オフィスビルや物流施設に関する日本最大級のデータベースを構築しており、それを不動産業界向けに業務インフラとして提供するビジネスモデルですね。

主な導入先は不動産会社や不動産ファンド・金融機関などで、「これまで1ヶ月ほどかかっていた不動産の投資判断のための初期調査が1日で終わるようになった」とお客様からの反響もいただきました。顧客の価値最大化を目標に、エンジニア・デザイナー・ビジネス部門の社員が一丸となって事業開発を行っています。

ーー新規事業のアイデアはどのように得ていますか?

平井 瑛:
お客様のニーズに真摯に応えることに尽きますね。最初の事業でオフィスビルのデータベース化に着手した理由も、お客様からのニーズが1番多かったからです。後にお客様の方から「物流施設のデータベースはないか」「不動産物件の売買を効率化するシステムはないか」と更なるご要望をいただき、その声に応じる形で次々とサービスを開発してきました。

今できることを、真摯にサービスとして提供する。その結果として、お客様から次の期待をかけていただく。このサイクルは今後も大切にしていきたいですね。

データに基づいたアプローチで日本経済や都市・地域の未来を支える

ーー社長の考える、貴社の社会的価値は何ですか?

平井 瑛:
弊社の事業は、将来的に大きく2つの面で日本社会にインパクトを与える可能性があります。

1つ目は、ミクロな実体経済(モノやサービスなど、実体をともなう経済活動)に与える影響です。私たちは商業用不動産を「人間が何らかの経済活動を行うときに使う物理的なスペース」と捉えています。目の前の商業用不動産が、誰に、どのような用途で使ってもらったら最も価値が出るのか。データの力で意思決定の精度を高めていくことで、世の中全体の生産性向上に寄与していけると考えます。

2つ目は、グローバルな資金流入の推進です。現在、東京を含めた日本全体の課題として「国外からの長期投資が少ない」という点があります。10年以上投資を続ける安定的なコア投資をグローバルに集めていくことは、日本の都市や地域の未来を決める上で必要不可欠であると考えています。世界の投資家が活用できるデータ基盤を弊社が提供し、国外からの投資を日本に呼び込んでいきたいですね。

お客様を一気貫通でサポートするマルチプロダクトの構想

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

平井 瑛:
データを活用した不動産ビジネスはとても大きなマーケットですが、日本では穴が空いている状態です。自分たちがその穴を埋める気概で取り組んでいきたいと考えています。

現在掲げているのは「コンパウンドスタートアップ戦略」です。この戦略の「コンパウンド」とは、複数の要素を組み合わせるという意味や、複利のように段階的に成果を積み上げていくという意味があります。お客様の課題をシームレスに解決するべく、大きく4段階でのプロダクト展開を計画しています。

第1に、データサービスの提供(DaaS)。第2に、業務の効率化促進(SaaS)。第3に、物件の売買や貸借ができるプラットフォームの構築(Marketplace)。そして、第4に、ヒト・モノ・カネ・情報などの企業の経営資源を統合管理する仕組みを提供していく(ERP基幹システム)という計画です。

これら複数のプロダクトを結びつけるのが、私たちが保有する不動産データなのです。プロダクト間の連携を意識しながら、一気貫通でサービスを広げていきたいですね。

また、弊社は「産業の真価を、さらに拓く。」をパーパスに掲げる企業です。不動産業界を通じて、その先にある日本の産業全ての力を高めていく存在になることを目指しています。事業拡大に向けて志を同じくする方を仲間に迎えながら、第2創業期もさらに飛躍できればと思います。

編集後記

国内ではまだまだブルーオーシャンな領域である、商業用不動産のデータ基盤の提供に乗り出した株式会社estie。目の前のお客様の課題解決を起点とするミクロな視点と、日本社会全体の発展を見据えたマクロな視点を両立させ、本質的な価値を世に生み出し続けていることが同社の魅力ではないかと感じた。今後も同社の活躍に注目していきたい。

平井 瑛/東京大学経済学部卒業後、三菱地所株式会社に入社。米国、英国、東南アジアなど海外市場における不動産投資・運用に従事。その後、東京を中心とするオフィスビル事業部門にて、スタートアップ向けインキュベーション施設の開発や営業を担当。2018年12月、株式会社estieを創業。業界のDX推進を目指し、日本最大級の商業用不動産データ分析基盤「estie マーケット調査」を始め複数のプロダクトを提供。