熱を加えない製法で酵素の活性を保ち続ける青汁から、温泉水を乾燥させてつくる温泉末入り入浴剤まで、独自の製品開発にこだわり続けているケンプリア株式会社。研究開発の視点を持つ同社代表取締役社長の深田秀樹氏は、データ分析による経営判断と、伝統を守り抜く製法へのこだわりで、ブランドのさらなる価値の向上を目指している。今回は、変化の激しい健康食品市場における同社の挑戦についてお話をうかがった。
研究開発の知見を経営に活かし、進むべき道を見定める
――社長就任までの経緯を教えてください。
深田秀樹:
私は長らく研究畑を歩み、神戸大学大学院をはじめとして、京都大学や繊維メーカーの医薬研究所などで研究をしていました。弊社には医薬事業立ち上げの際に入社し、細胞を培養する医薬品をつくる工場の設計から運営まで携わっていました。しかし、研究が進み、いざ医薬品としての申請を行うという段階でさまざまな課題が見つかり、研究を続けられなくなってしまったのです。
その後、転職して千葉大学で准教授を務めていましたが、当時の弊社社長から「戻ってきてほしい」とお誘いを受け、2009年に再入社を決意しました。最初は生産部長として大分工場を担当し、その後も研究開発や国際品質保証、マーケティングなどさまざまな部署を経験。2020年に代表取締役社長に就任しました。
――研究者としてのご経験は、どのように経営に活かされていますか?
深田秀樹:
物事をしっかりと分析する力が活かされていると感じています。たとえば、業績が思わしくない時は売上の増減の話をしがちですが、その背景にある状況を過去のデータまで振り返って分析することが重要です。そのために、社内で使えるツールを開発し、スマートフォンでいつでも売上や製品ごと、店舗ごとのデータが確認できるようにしました。これにより、どこに課題があり、どのような対策をとるべきかが見えやすくなりました。理論立てて話ができる強みを活かし、社内にもデータに基づいて方向性を示せていると考えています。
56年間守り抜いてきた、独自の生エキス製法へのこだわり
――貴社の事業内容と製品の特徴について教えてください。
深田秀樹:
弊社は青汁をはじめとした健康食品の製造販売を行っています。特に青汁については、日本で初めて、酵素の活性を保ったまま粉末化に成功したパイオニアです。弊社の生エキス青汁は、大麦若葉を丁寧にすりつぶして搾り汁をとり、それを瞬時に乾燥させてつくっています。これは昔ながらの本来の青汁のつくり方なので、葉を乾燥させて粉末にした製品とは根本的に異なります。葉を粉末にした製品は葉の繊維が多く含まれているため、すぐに沈殿してしまいますが、有用成分の吸収に焦点を当てた弊社の製品は吸収をじゃまする繊維をわざわざ取り除いているため、なかなか沈殿しません。また、熱を加えずに粉末にしているため、熱に弱い酵素などの有用成分が生きた状態で保たれています。
他には、温泉末を活用した入浴剤も製造しています。これは、大分県別府市にある海地獄の温泉水を乾燥させた温泉末入りの入浴剤です。このように弊社では独自性の高い製品にこだわって開発を行っています。
――社名を「ケンプリア株式会社」に変更された理由をお聞かせください。
深田秀樹:
昨年(2023年)の55周年を機に、「日本薬品開発株式会社」から「ケンプリア株式会社」へと社名を変更しました。これまでは医薬品メーカーというイメージが強く、また、商品名だけで販売を行ってきた面があったのです。しかし、これからは健康を第一に考える会社として、「社名」=「ブランド」として前面に出していきたいと考えています。通販では13年ほど前から「ケンプリア」の名称を使用しており、徐々に認知度も得られてきているので、この資産を活かしながら、さらなるブランド展開を図っていきたいと考えています。
変化する市場に、変わらぬ良さで挑む
ーー経営者として直面した課題を教えてください。
深田秀樹:
コロナ禍は事業において、とても大きな影響がありました。積極的な販路拡大を計画していましたが、行動制限により営業に出られず、販売店へのお客さまの来店も減少してしまったのです。特に影響が大きかったのは、お客さまの購買行動の変化ですね。感染症法上の扱いが5類へ移行した後は、健康食品よりもレジャーにお金を使う傾向が強まり、また通販に慣れたお客さまが増えたことによって、販売チャネルも変化しています。
対応しなければならない課題は多くありますが、弊社の製品の継続率は高く、上質なものを提供しているという自負があります。一度ご使用いただければ、その良さを分かっていただけるはずなので、ブランドの展開とあわせてしっかりと魅力を伝えていきたいと思います。
――今後の展望についてお聞かせください。
深田秀樹:
現在は、海外展開を積極的に進めています。アメリカに子会社、台湾に支店があり、マレーシアやシンガポールにも顧客基盤があります。今後は先方の要望にあわせて柔軟に対応しながら、特にアジア圏を中心に展開を広げていく計画です。
国内では、これまでの対面でのカウンセリングによる推奨販売を中心に据えた上で、セルフ販売の強化を重要な戦略として位置づけています。変わり続ける市場に対応するためには、私たちも変化し続けなければなりません。伝統的な製法や高い品質といった変化しない良さを大切にしながら、時代に合った販売方法を模索して「ケンプリア」の魅力を広げていきたいですね。
編集後記
取材を通じて印象的だったのは、深田社長の研究者としての視点が随所に生きている点だ。データに基づく経営判断、製品の品質にこだわり抜く姿勢、そして市場変化への冷静な分析。これらは全て、研究者として培われた論理的思考から生まれているのだろう。「本物の価値は変わらない」という信念と、「変化を恐れない」という決意。その両輪が、伝統ある同社の未来を確かなものにしていくのだと感じた。
深田秀樹/1957年生まれ。兵庫県在住。1982年、神戸大学大学院理学研究科修士課程生物学専攻修了。1987年、北海道大学より理学博士号取得。日本薬品開発株式会社(現:ケンプリア株式会社)中央研究所所長、千葉大学大学院医学研究院特任助教授、千葉大学予防医学センター特任准教授などを経て、日本薬品開発株式会社に再入社。2009年生産部長、2011年取締役、2019年常務取締役、2020年代表取締役社長に就任。