※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

熊本県で物流や食肉加工を手がける株式会社共同は、昭和初期に海運業として創業した歴史ある企業だ。同社が構える熊本ミートセンターでは、枝肉から骨と肉を分ける1次加工からハムやソーセージ製品をつくる3次加工まで一貫して行っている。

本業である物流サービスと加工の2次産業、販売まで手がける3次産業まで一貫して手がけ「食の6次産業化」を進めるのは同社の代表取締役社長である山下海南子氏だ。父の経営理念に感銘を受け、この世界に飛び込んだ。新たな物流の形を模索する彼女の狙いや経営哲学をうかがった。

祖父の会社へ入社したきっかけはビジネスモデルへの深い共感

――株式会社共同に入社された経緯をお聞かせください。

山下海南子:
大学では法律を学び、試験勉強に励んでいましたが、その学びが実生活でどう役立つのかが見えなくなってしまいました。そんなとき、父である会長の話を聞く機会がありまして、これが私にとって将来を考える大きな転機となりました。

幼い頃から自宅が事務所の2階にあったため、ドライバーさんたちが行き来する様子を見て育ち、弊社を普通の運送会社だと思い込んでいました。ところが、父の話を聞くうちに、業界の構造や株式会社共同の理念に感銘を受け、面白そうだと感じるようになったのです。

ーー感銘を受けたことについて、詳しくお聞かせください。

山下海南子:
父は運送業界の多重下請け構造に課題を感じ、ドライバーの社会的地位を向上させたいと考えていました。今、運送業は「2024年問題」で大きな注目を集めていますが、価格競争や従属的な上下関係に苦しむ人が多い業界です。このような現状を見た父は、運送業に携わる一人ひとりが、誇りを持てる仕事を提供したいと考えていたのです。

その一環として、当時ヤマト運輸の代表であった小倉昌男氏に師事し、物流の未来を見据えて考えていたようです。こうした取り組みによって生まれたのが、「物流は商品である」という視点でした。ヤマト運輸さんの仕組みからヒントを得て、共同配送というものに取り組み始めたそうです。私はこの話を知ったときに、「弊社はただの運送会社ではない」ということに気づき、深く感動しました。

ーー入社後はどんな仕事に取り組まれたのでしょうか?

山下海南子:
父が経営者ではありますが、他の社員さんと同様に弊社の思いやビジョンに共感したので、一般枠で2005年に入社しました。入社後は、物流営業や品質管理、食肉営業や自社商品ブランド「ママトコ」の立上げなど、さまざまな業務を経験しました。その中でもとくに障がい者雇用に注力しました。以前から会長が力を入れて取り組んできたものを引き継ぎ、障がい者枠で採用された方たちが働きやすい環境を整えてきました。

弊社では障がい者採用枠で雇用された従業員は、健常者と同じセクションで働いてもらっています。私たちの基本的な考え方は「障がいのある方が働きやすい現場は=全ての人にとって働きやすいはず」という視点です。一方で、5S:整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)習慣(Syuukan)のローマ字読みの頭文字「S」をとって5S活動と名づける職場の環境改善や効率化に取り組みました。一人ひとりがどのような環境で働きやすいかを考えることで、現場の改善が進み、ひいては経営改善にもつながると思います。

ーーDXはあらゆる業界、企業にとって大きな課題です。これまでどのように推進してきたのか、お聞かせください。

山下海南子:
昨今、企業のとるべき戦略がDXといわれています。弊社では、2024年2月に「Kyodo DX Vision」を策定し、DX宣言を行いました。同時に社内にDX推進委員会を立ち上げ、各部署の業務フローを見直してきました。その過程でさまざまな無駄が見つかり、これを一つひとつクリアにしながら、効果的にDXを進めています。

単なる物流の枠を超えて食肉加工やキッチン事業も展開

――貴社が現在展開している事業について教えてください。

山下海南子:
弊社は主に食品物流に関する事業を展開しており、特に南九州エリアでの共同配送が特徴的です。複数の県をまたいで食品の共同配送を行える企業は少なく、地域にとっても重要な役割を担っていると思います。

また、熊本県内に3箇所の物流センターがあり、量販店や卸売業者、メーカー、さらにはEC関連のお客さまにも対応しています。お客さまのご要望が年々多様化しているので、これに応えられるよう、物流IT化も進めています。例えば、作業者間で音声指示を受けながらピッキングを行うボイスピッキングという新しいシステムを導入しました。ボイスピッキングは両手が塞がることなくピッキング作業できるため、効率的な物流を実現しています。

ーー多岐にわたるサービスを展開されていますが、他にはどのようなサービスがありますか?

山下海南子:
生きた牛や豚の輸送、いわゆる「生体輸送」も手がけています。熊本は日本有数の酪農地帯です。「共同配送」の応用で牛一頭単位での輸送も対応しており、複数のお客さまの牛を同時に運ぶトラック内での混載を行っています。このように複数の牛をまとめて運ぶことで、お客様の輸送コストを低減し、熊本の畜産農家さんのインフラとなっています。

ーー貴社の強みについて教えてください。

山下海南子:
弊社は食の6次産業化を目指し、生体輸送から食肉加工まで一貫して対応しています。輸送した牛を衛生的な環境で加工し、スーパーで見かける精肉や、ハム、ソーセージなど三次加工まで一貫して行うことが、弊社の大きな強みです。また、こうした取り組みをさらに深化させるために、レストラン事業も開始しました。

加工センターの隣にレストランと直売所を併設した「ママコトキッチン」をオープンし、私たちが輸送した牛を使い、地元のお客さまに提供するまでの過程を一貫して手がける仕組みを構築しています。

物流のその先まで手がけているからこそできることをもっと!

――今後の事業展望についても、お聞かせください。

山下海南子:
今後、物流センターをさらに新設し、この強みを一層伸ばしていきたいですね。物流業界の旧態依然とした構造を打破し、社員さんたちにとって魅力的で働きやすい環境を整えていきたいと思っています。

物流そのものも弊社にとって大切な商品であり、熊本ミートセンターは消費者に安心安全な食品を届ける現場です。今後は商品開発にもより積極的に取り組み、自社製品をつくることで、物流事業のお客さまにも新たな価値を提供できる流れをつくりたいと考えています。

弊社は、障がい者雇用に積極的に取り組んでいるだけでなく、新卒採用を積極的に行っていることも、地元の運送会社では珍しいケースです。働き手と経営者が従属的な関係ではなく、パートナーとして対等な関係であることをこれからも大切にしていきます。

また、2021年にスタートした「フードバンク ママトコ」は弊社の物流ネットワークや倉庫を利用しています。経済的な困窮者を支援する団体や子ども食堂などをサポートしており、今後もこうした社会貢献を継続していくつもりです。

編集後記

畜産業が盛んな地域に密着し、発展を遂げてきた株式会社共同。同社の若き経営者山下社長は、業界の常識にとらわれず、挑戦を続けるその姿が印象的だった。創業50年を超えた同社は、目先の利益に固執することなく、自社の事業がどのように社会にインパクトを与えるかを常に考えている。新たな時代を切り開く光が感じられた。

山下海南子/1981年熊本県生まれ、熊本大学卒。2005年に株式会社共同に入社。2023年に代表取締役社長に就任。2021年6月のコロナ禍に「フードバンクママトコ」を設立。フードロスの削減と困窮者支援に尽力している。