※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

物流業界は大きな転換期を迎えている。労働力不足や原油価格の高騰に加え、EC市場の拡大による配送需要の増加、さらに働き方改革への対応など、解決すべき課題は多岐に渡る。

そうした中、西日本エリアを中心に食品や日用品の物流を手がける丸善運輸関西株式会社は、社員一人ひとりの個性を活かした経営と、独自の共同配送システムで着実な成長を遂げている。設立から12年、物流業界の固定観念を打ち破る企業文化を築き上げてきた同社。その挑戦を牽引してきた前田正久社長に、成長の軌跡と今後の展望をうかがった。

M&Aを機に独立、共同配送で新たな価値創造

ーー最初に貴社の創業経緯についてお聞かせください。

前田正久:
私の経歴は、物流業界ではやや異色かもしれません。大阪体育大学でアメリカンフットボールに没頭し、卒業後は大手アパレルメーカーに入社しました。その後、33歳で運送業界に転身し、40歳で取締役社長に就任。順調に事業を進めていた矢先、46歳のときに会社がM&Aされることになったのです。

M&A後、新しい経営陣から示された柔軟性を欠く方針に、現場から反発の声が高まりました。長年築いてきた現場との信頼関係が崩れていく状況を見て、「このままではいけない」と危機感を覚え、49歳で起業を決意したのです。その際、現場の多くの部下が「前田さんについていきます」と言ってくれたことが、大きな励みになりました。

創業当初、多くの方々からご理解と温かい支援を賜り、惜しみないご協力によって大きな後押しをいただきました。そのご厚意に報いるべく、支援してくださった方々とは今もなお、強い絆で結ばれたパートナーシップを大切に築き続けています。

ーー事業内容を教えていただけますか。

前田正久:
弊社は食品・日用品の物流に特化しており、大手洗剤メーカーの西日本エリアの物流をはじめ、食用油メーカーや製糖会社など、生活に欠かせない商品の配送を手がけています。さらに、滋賀営業所では、洗剤化学メーカーから出荷される輸送業務の元受けとして、配送や管理業務の運営を行うほか、業務用洗剤や日用雑貨の保管・管理・配送といった倉庫業的な業務にも取り組んでおります。

特に力を入れているのが、共同配送システムです。メーカー様から商品を受け取り、注文に応じて適切に仕分けし、効率的なルートで配送します。また、誤配送を防ぐため、独自のシステムを構築してきました。

過去に何度か直面した配送課題を教訓に、商品を見分けやすいよう作業指示書に工夫を凝らすなど、現場の声を反映した改善を重ねてきました。このノウハウを岡山や福岡など、関連性の強いパートナー様にも展開し、誤配送率の低下に成功したのです。

計画的な部署異動が生み出す多様なスキルと成長機会

ーー物流業界では珍しく、若手社員が多いそうですね。

前田正久:
はい。ドライバーの平均年齢が50~60代と言われる中、弊社は30~40代の社員が中心です。これは意図的に若手を採用しているわけではなく、自然な流れでそうなりました。

弊社のもう一つの特徴は、社員同士の交流が活発なことです。世間では飲み会や歓送迎会が減少する風潮にありますが、弊社では事業所ごとに定期的な食事会を開催しています。このような場を設けることで、業務中に顔を合わせる機会が少ない社員同士の絆を深めることができています。

特に、ドライバー職は一人で長時間運転することが多い仕事ですので、だからこそ、人と話し、つながりを感じられる機会を大切にしているのです。私自身も社長という立場ながら、乗務員との距離が近く、社員全体が一つのチームとして機能することを心掛けています。

ーー人材育成はどのように考えていますか。

前田正久:
社員に多様な経験を積ませることが弊社の人材育成の柱です。3~5年ごとに部署異動を実施し、乗務員、倉庫管理、営業所長など、さまざまな役割を経験することで、幅広いスキルと知見を身につけてもらう狙いがあります。

現在、私と取締役の二人で営業活動を担っていますが、今後は営業人材の育成を一層強化する方針です。現在、大手食品メーカーで営業の経験を積んでいる息子が、いずれ新しい時代に即した営業スタイルを確立してくれることを期待しています。

「5人の社長」を目指す組織作りへの挑戦

ーー今後の展望をお聞かせください。

前田正久:
「グループ会社の社長を5人育てる」ということが、私の夢です。会社を設立したときから、この目標を掲げてきました。単に規模を拡大することが目的ではなく、社員一人ひとりが経営者の視点を持ち、自らの判断で主体的に仕事に取り組める環境を作りたいと考えています。

経営者を目指す人がいる一方で、ナンバー2として会社を支えたいと考える人もいるでしょう。それでも、自らの裁量で事業を切り開きたいという意志を持つ人材は必ずいるはずです。そうした社員が自分でお客様を開拓し、リーダーシップを発揮できる環境を整えることが、私の役割だと思っています。

ーー最後に、求職者へのメッセージをお願いします。

前田正久:
私たちが求めるのは、自身の成長を追求できる方です。特に、社会人経験を積んだ方を望んでいます。多様な経験を持つ人々が集まることで、会社全体が成長できると考えているからです。

弊社は設立から12年目を迎えた会社です。研修制度はまだ発展途上にありますが、社員の意見を反映しながら、ともに会社を作り上げていける環境があります。今までの経験を活かしつつ、さらなる成長を目指したい方、ぜひ一緒に働きましょう。

編集後記

取材を通じて感じたのは、前田社長の社員一人ひとりへの深い信頼と愛情である。創業時の苦労話から現在の経営方針まで、前田社長の話の中心には常に「仲間」への深い信頼と愛情があった。若手が多い理由を尋ねた際も、明確な戦略があってのことではなく、自然な結果であるという。それは、互いを大切にする文化が、社員の定着と成長につながっている証なのだろう。

前田社長が目指す「グループ会社の社長を5人つくる」という夢からは、人と人との信頼関係を基盤とした経営の重要性が感じられた。創業からわずか12年で確固たる地位を築き上げた背景には、こうした経営哲学があったのだと確信した。

前田正久/1964年大阪府生まれ。1986年大阪体育大学卒業。株式会社オンワード樫山入社。高校時代よりアメリカンフットボールを続け、樫山退職まで継続。33歳で運送業へ転身。49歳で丸善運輸関西株式会社を設立、代表取締役に就任。