※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

1989年に滋賀県草津市で創業したベクセス株式会社(現在の本社は静岡県浜松市)。戸建て住宅の建築現場を中心に、ガードフェンスやトイレといった仮設資材を提供してきた。代表取締役社長の横山哲郎氏に、就任のきっかけや自社商品の魅力、今後の展望についてうかがった。

建築現場で役立つ資材を提供。転職を決めた「トイレは文化」という価値観

ーー事業内容と企業の強みを教えてください。

横山 哲郎:
建築業に使う仮設材(仮設資材)のレンタル業として、多様な資材を保有しています。一番の特徴は、創業当初から戸建住宅の現場をメインフィールドとしていることです。安全確保・環境保全が求められる建築現場に、作業員用トイレ、ガードフェンスやゲート、通路用マットなどを設置するほか、近年は各種催事にもオリジナル仮設トイレのレンタルを行っています。

また、弊社の仕事には、建築工事の「準備」と作業終了後の「資材撤去」があります。最初に現場に入るということは、現場の仕上がり具合でハウスメーカー様の印象を良くも悪くもできてしまう立場でもあります。そこで、私たちが徹底しているのが「現場一礼運動」です。

スポーツ選手がグラウンドに入退場する時のように、現場に入る前と作業終了時には必ずヘルメットを脱いで一礼します。現場を大事に思う「心」こそが会社の強みだと言えます。

ーー社長のご経歴をお聞かせください。

横山 哲郎:
新卒で入社した広告代理店に約34年勤めました。最も印象深い仕事はJリーグの立ち上げです。1988年当時、日本サッカーリーグ(JSL)の総務主事を務めていた川淵三郎さんから「プロリーグを作りたい」と相談を受け、スポンサー集めからスタートしました。

その流れで立ち上げたのが日本野球機構(NPB)であり、各プロ野球チームの運営方法がアメリカのメジャーリーグのようなマーチャンダイジング(MD)となりました。ゼロから新しいものを生み出すプロジェクトの一員として、社会に大きな影響を与えられたことは非常に名誉かつ、環境にも恵まれていたと感じます。

ーーどういった経緯で貴社に入社されたのでしょうか?

横山 哲郎:
創業者である叔父から「仕事を手伝ってほしい」と常々言われていたのですが、昔の私はまったく興味を持てずにいました。転機となったのは、「トイレは文化だと思うよ」という妻の一言です。たしかに、家庭用も公衆トイレも日本のトイレは進化し続けています。

世界的に見ても「トイレは地域発展や文化のバロメーターの一つ」という考え方にふれた私は、企業が成長する面白さや社会的意義を感じられる仕事だと思えるようになり、57歳で入社を決めた次第です。

「仮設トイレの悪臭は当たり前?」疑問からの商品開発で建築業界の常識を変える

ーー社長就任後の取り組みをお聞かせください。

横山 哲郎:
入社から4年が経った2009年に社長を任され、役員らと今後の方針を話し合ったところ、誰もが「小さな会社のままではいたくない」と考えていました。事業をシステマティックにすることで「より良いサービスをお客様に提供したい」という共通の思いがあったのです。

「仮設トイレが臭うのは当たり前」という、建築業界の常識を変えられたことは大きいですね。私は「周囲が臭くならない構造を考えよう」と訴えかけ、合成樹脂で個室内の隙間を埋めることにより、臭いが外に漏れにくい仮設トイレを開発しました。

当初はお取引先に売り込んでも疑心暗鬼な反応でしたが、少しずつ受け入れられ、弊社の売上規模は社長就任時から2倍にまで成長しました。トイレメーカーも参入したことで、仮設トイレをとりまく環境はだいぶ向上したと思います。

ーー商品開発に関するエピソードもお話しいただけますか。

横山 哲郎:
社員には、日頃から周りを観察する気構えと、何かを発見したら「自分たちが関われることはないか?」という視点を持ってほしいと伝えています。もしかしたら、今の事業から新しいものが生まれたり、異なるジャンルの商いが思いついたりするかもしれません。

花火大会やスポーツ大会など、多彩な用途に対応できる「トイレカー」は、まさにその視点から開発された製品です。ウォシュレット、エアコン、ベビーベッド、オストメイトなどを完備した「多目的タイプ」は、日本トイレ大賞とグッドデザイン賞をいただきました。

そのほか、「ユニバーサルタイプ」はお子様連れや女性、車いすの方も安心して入れるように、「7個室タイプ」はプロゴルファーがギャラリーの目を気にせず快適に使えるトイレという発想から生まれました。

通常の仮設トイレは汚物が汲み取り式であるところ、トイレカーは自走式であるため、車が走行できる場所であればどこでも設置が可能です。バキュームカーが容易に来られない災害現場でも大いに活用できるアイテムです。

「仮」ではない「要」の仕事という誇り。営業と採用の強化で目指す新境地

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

横山 哲郎:
弊社は「自分たちの仕事は『仮』ではなく『要(かなめ)』の仕事だ」という意識のもと、建築業界における仮設材を「要材(ようざい)」と呼んでいます。これからも「要材」が必要とされる場所を広げるため、営業・教育体制を強化しながらハウスメーカー様とのお取引を増やしつつ、大手ゼネコンなど未知の商圏にも進出していきたいです。

現在は、注文を受けて現場に伺うことが大半ですが、若手にはもっとコミュニケーションの取り方を教える必要があると考えています。自分の顔をしっかりと見せる営業活動をしなければ、お客様のお困り事や不満といった本音を聞き出せないと思うのです。

採用においては「仮設トイレを運ぶ仕事」という印象で終わらないよう、世の中の役に立つ方法を考え続けている企業であるとアピールするべきでしょう。私は「粒ぞろいより粒ちがいが良い」と考え、いろいろな人間が出会い、混ざり合うことを求めています。「この会社で自分のアイデアを発揮したい」と、興味を持った人に来ていただけると嬉しいです。

編集後記

「仮設トイレは臭うもの」。この欠点について、利用者だけでなく建築業界やメーカーすらも諦めていたと言う事実には驚いた。異業界から来た横山社長だからこそ、「なぜ課題を放置するのか」と「常識」への違和感を抱き、ポジティブに行動できたと言える。業界の変化に感謝した筆者は、快適かつ安全に感じる現場できっと「ベクセス」の名前を探すだろう。

横山 哲郎/1948年、愛知県生まれ。1971年に成蹊大学経済学部を卒業し、株式会社博報堂へ入社。テレビ部、営業部担当を経て、営業部長、支社長を歴任。Jリーグ創設、日本野球機構(NPB)設立、日産自動車、ハウス食品、武田薬品等を担当。2005年、ベクセス株式会社(当時株式会社トワレ)に入社。2007年に常務取締役、2009年に代表取締役社長CEOへ就任。