※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

日本のみならず、世界中に広がる学習サービス「KUMON」。年齢や学年に関係なく、一人ひとりの能力にあわせて進む「ちょうどの学習」はよく知られているが、それゆえに、多くの国でKUMONが受け入れられている。

2023年に株式会社公文教育研究会の代表取締役社長に就任した田中 三教(たなか みつのり)氏。「現場主義―現場にこそ、真の課題・知恵と工夫が存在する―という信念のもと、技術と知見を磨いている」と語る田中社長が大切にしている価値観や、会社の今後の展望を聞いた。

創業者の「悪いのは子どもではない」という言葉

ーー貴社で大切にしている考え方を教えてください。

田中三教:
私は創始者・公文公が遺した「悪いのは子どもではない」という言葉が好きなんです。この言葉の裏には、「子どもの能力の可能性の高さは計り知れない」「子どもたちに損をさせてはいけない」という考えが根底にあります。もう少し具体的に申し上げると、子どもが勉強でつまづいたり、わからない問題などに直面したりしたとしても、その時点でその子の能力の限界を決めつけるということを私たちはしません。

そこに関わる私たち大人が、「この子にどのような環境で接してきたか」「今後どのような指導をしたらいいか」と反省し、「この子の能力はどんなふうに伸びていくのだろうか」「そのためにどのように動機付けし、環境を整えていけばよいか」…など、常に、子どもたち一人ひとりの可能性をあきらめずに模索し、追求していくのだという思いがあるからです。

私は長年この会社に勤める中で、たくさんの子どもたちに出会ってきました。まさにこの「悪いのは子どもではない」という言葉の通り、例えば子どもへの接し方、問題の与え方一つで、子どもたちの学習に取り組む姿勢や態度が大きく変わっていくという変化を幾度も目の当たりにしてきました。

公文式教室での指導者の大切な役割の一つは、子どものやる気を引き出すこと。そして、子どものやったこと・できたことをきちんと認め、褒め、励ますことで、子どもの自己肯定感を育むことです。指導者の細やかな指導やフォローを通じて、「自分はやればできる」と思えるようになった子どもは、自ら難しい問題にチャレンジし、教えられなくても自分で回答を導き出せるように成長していきます。

また、弊社の「研究会」という社名には、子どもの可能性を追い求め続ける(=研究し続ける)という創始者の想いが込められています。弊社は、世界各地の子どもの学習の様子を観察・データ分析し、その子どもの指導にあたる指導者の声を聴きながら、常に教材と指導法を「研究」し、改善し続けています。

コロナ禍で改めて実感した強みは「現場力の高さ」

ーー教室づくりや国内外の教室展開において意識していることをお聞かせください。

田中三教:
公文式教室は、「くもんの先生」として子どもたちを指導する公文式指導者が運営しています。国内外合わせて約2万名の指導者がおり、その指導者同士の広大なネットワークも私たちの強みであり財産でもあると思っています。

前述の「悪いのは子どもではない」の精神で、日々真摯に指導にあたる姿勢はどの教室も共通なのですが、指導者お一人おひとりにも様々な個性があり、教室の発展に向けた課題も教室ごとに異なります。

例えば「小さな子どもの対応・指導に力を入れる」「より子ども・保護者とのコミュニケーションを密に行う」「教室スタッフを育成し教室の指導・運営体制を高める」など、全国の公文式教室の先生方は、日々、公文式で子どもたちの可能性を最大限に伸ばすための工夫や研鑽に努めています。

私はこの指導者の、子どもに対するエネルギーを「現場力の高さ」と表現することがあります。例えば社会に大きな変容をもたらしたコロナ禍で外出が難しかった時期があったかと思います。ある国ではロックダウンにより教材の配送が禁止となり、子どもたちに教材を届けられない状況に陥りました。

そのとき現地の先生たちは、「子どもたちの学びを止めたくない」という一心で、オンラインツールの活用を見出し、子どもたちをモニター越しに指導することに挑戦し、外出できない子どもたちの学習に寄り添う形で学習の継続を維持しました。

このときに改めて、弊社の現場力の高さを実感しました。ありがたいことに公文に対して高い信頼をいただいたことで、現在、国内で約15,100教室、海外で8,200教室を展開し、それぞれの地域で子どもたちの「学習の場」を担っています。そしてこれからも一人でも多くの子どもたちに公文式学習に取り組んでいただける機会と場を作っていきたいと考えています。

ーー公文式教室がここまで教室展開を広げてこられたのは指導者、そして公文式学習法への信頼があってこそだと改めて伝わってきました。重ねてのお伺いになりますが、貴社の強みについて教えてください。

田中三教:
KUMONグループの強みとは、先ほど申し上げた「子どもに確かな学力をつけ、意欲を引き出す指導者の存在」ですが、同時に、教室指導の具体的なツールとなる「自学自習できる公文式教材」と、「教室をサポートする社員の存在」についても欠かすことができないものです。

「公文式教材」は、子どもたちが「自学自習」できるように工夫がなされており、内容は、小学校などの教科書レベルにあわせたものではなく、将来必要となる分野に絞り込み、そこにむけて子どもが自分で進んで取り組み、少しずつ力をつけていけるように、「スモールステップ」で構成されています。

例えば算数・数学だけでも、数字を知らない幼児さんが学習を始める教材から、高校数学相当、さらにその先の大学教養課程相当のレベルまで含めると実に5,000枚の教材が用意されています。これだけのきめ細かな段階別の教材を、指導者が子どもの状況によって「セッティング&調整」していくことで、子ども一人ひとりに合った個別の学習が可能になるのです。

学齢・学年にこだわらず、幼児から学習を始めることができ、将来にわたって必要な力をつける学習を一貫して続けられる教材は、他に類をみない公文ならではの特長だと考えています。

さらに、現場の営業所(ブランチ)に所属している弊社の社員は、指導者一人ひとりをサポートする役割を担っています。それぞれの教室がどのようにして発展できるかについて指導者と一緒に考え、計画を立て、活動を実践しています。また会社では、よりよい指導について研鑽を重ねる講習会やゼミ活動など、子どもたちのために「よりよいもの」を探求するための学び合う風土づくりを推進しています。

これらの「自学自習できるユニークな教材」と、「社員と指導者との信頼関係」が、私たちの独自性であり、また他社と一線を画す強みであると考えています。

私たちの公文式学習法とは、世界でも類のない唯一無二の存在であり、だからこそ世界中に広がったのだと私は確信しています。

社会貢献/海外展開について

ーー社会貢献にも積極的に取り組んでいるとのことですが、考え方を聞かせていただけますか。

田中三教:
「社会貢献に取り組んでいる企業」というイメージを持っていただけているのであれば大変光栄です。私の感覚としましては、「本業を持ちつつも一方で社会貢献にも取り組む」という主旨のCSR的事業活動ではなく、弊社の主ミッションである「一人でも多くの子どもたちの学力や能力を伸ばすこと」そのものが社会貢献にダイレクトにつながっていると考えています。

最近では様々な場面で耳にするSDGsですが、17の目標の中の4番目の目標として、「質の高い教育をみんなに」があります。この目標の背景には、世界の隅々まで見渡すとまだまだ教育を受けられない子どもたちがたくさんいるという事実があります。そうした様々な教育事情を抱える国や地域に、私たちの教育サービスを届けることへの挑戦を続けています。

公文式という「あらゆる人たちが質の高い教育を受けられるようにする」ための、現実的かつ具体的な方法論をもつ企業として、私たちの果たさねばならない役割は大変大きいものがあると考えています。

ーー海外への展開、というところで具体的な活動について教えてください。

田中三教:
海外での展開は、1974年のニューヨークでの教室を皮切りに、1970年代のうちに、台湾、ブラジル、ドイツと教室が開設されました。当初は日本からの海外赴任者のお子様向けの学習提供でしたが、次第に公文式学習の効果の高さが地域で評判となり、徐々に現地の子どもたちも通い始め「現地の指導者による、現地の子どもたちが学ぶ公文式教室」が急速に広がっていきました。

現在は、23,300教室(21,500名の指導者)を、日本、南北アメリカ、アジア・オセアニア、ヨーロッパ、アフリカ、中東…と、60を超える国と地域に展開し、115拠点に、3,300名の社員が従事しています。

近年では教室事業の展開だけでなく、海外各地のNGOなどの教育パートナーと協働することも多くなってきました。昨年手掛けた、バングラデシュのストリートチルドレンの養護施設への公文式導入は、世界最大級のNGOであるBRACとの協働によるものです。

また、2024年の4月にスタートしたネパールの公立・私立小学校への導入は、現地で地域コミュニティや社会全体への貢献を理念に掲げる企業体IGC社との連携によるものです。

バングラデシュ、ネパールでの活動はいずれも、タブレットで学べる学習サービス「KUMON CONNECT」を活用しています。「紙と鉛筆を手に教室で学習する」イメージが強い公文式学習ですが、デジタル化を進めることで、教室に通うことが難しい地域の子どもたちにも学習の機会を届けられるようになりました。

今後もデジタル技術を積極的に活用しながら、国内外問わず、グローバルで求められるニーズに対応していきたいと考えています。

編集後記

「悪いのは子どもではない」という言葉をはじめ、創始者の様々な言葉や想いを大切にしている田中社長。そしてそれは社長だけでなく、社員と現場の指導者にもしっかりと浸透しており、一緒になって「公文式学習法」の進化と普及に挑戦していることが強く伝わってきた。

60年を超える長い歴史がありながらも、今なお多くの子どもたちが通い続ける背景には、常に時代とともに進化し続ける指導法と教材があり、子どもたちに損をさせないための学び合う風土がある。世界にはさまざまな事情から教育の場にアクセスできない子どもたちが多くいるが、同社ならこの社会問題の解決を諦めず、これからも前に進み続けてくれるだろう。

田中三教/1986年、株式会社公文教育研究会に入社。1998年、事務局長に就任。2014年、取締役に就任。2020年、常務取締役に就任。2022年、代表取締役副社長に就任。2023年、代表取締役社長に就任。