※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

日常にある「水滴ストレス」を解消する吸水ツールを開発し、多くのヒット商品を生み出しているアイオン株式会社。吸収性と保水能力が高い吸水セームの技術を活かし、掃除用品やタオルなどを展開するほか、半導体製造装置に必要な部材やハードディスクを作るのに不可欠な砥石などの製造も行っている。

アイオン入社当時の驚きのエピソードや、会社の体制を大きく変えた取り組み、自社の強みなどについて、代表取締役社長の小西紀行氏に話をうかがった。

ひょんなことから就職が決まり、全国各地で営業活動に明け暮れた日々

ーーまずは親会社である日東化学株式会社(現:株式会社ソフト99コーポレーション)に入社した経緯をお聞かせください。

小西紀行:
大学生4年生の秋に、リクルート雑誌に載っていた求人を目にしたのがきっかけです。その時すでに数社から内定をもらっていましたが、車が好きだったため、カー用品を扱う仕事に興味を持ちました。ただ、時期的にすでに採用は締め切っているだろうなと思っていました。

それでもダメ元で会社に電話をかけ、履歴書を本社へ送付しました。すると2週間ほど経って連絡があり、取締役営業部長と会うことになりました。

一通り話をした後、一旦部長が席を外し戻ってくると「内定出すから」とさらりと言われたのです。こうして本社での採用試験や面接は後になりましたが、就職が決まりました。

ーー入社後はどのようなキャリアを歩んできたのですか。

小西紀行:
まずは会社の寮に住み、2週間の研修を受けました。その後は大阪の本社に営業職として配属される予定でした。しかし、同期の入社時期が遅れたため、代わりに急きょ東京支店に配属されることになったのです。

当時は手紙が主なコミュニケーションツールだったため、地元の福岡から遠く離れた東京で働くことが決まったときは、とても不安でした。

その後、仕事は東京の一部エリアと新潟県全域を担当し、月に3〜4回は東京と新潟を往復し、片道7時間かけて車を走らせ、帰宅する頃には夜中になっていました。今では考えられないスケジュールですが、それが当たり前だと思っていましたね。父の他界を機に福岡へ転勤で戻りましたが、その後再び東京に戻り、営業の責任者として全国をフォローしました。

職場の環境改善と独立採算体制で業績を伸ばす

ーーその後アイオンの経営に携わることになったときには、どのような思いを持っていたのですか。

小西紀行:
2014年に消費材の営業役員として入社しました。会社全体の売上は約47億円で利益も5億円あり、優秀な人材がそろっていたため、会社のポテンシャルは高いと思っていました。しかし、商品の販売はすべて代理店任せだったため、上手く実力を活かせていないことに歯がゆさを感じていました。

そこで、商品の販売や流通といった商流の下流部分まで関わるようにした結果、業績が右肩上がりに伸びていったのです。2023年度の売上高は約77億円にまで成長しました。

ーー社長就任後に行った改革について教えてください。

小西紀行:
社長の仕事は、まず社員が働きやすい環境をつくることだと考えました。そこで取り組んだのが、職場の環境づくりです。オフィスの移転を機に内装を一新し、明るく快適な職場にしました。これは社員の働きやすさだけでなく、お客様に製品の良さをつたえることの大切さを理解してもらい、新しいつながりへ広がっていったと思います。

工場周辺は、外灯が少なく真っ暗だったため、イルミネーションを設置し、社員が安全に通行できるようにしました。また、製品開発に関しては口出しせず、すべて社員に任せるようにしました。

それに加え、各組織を細分化し、それぞれが独立採算制を取り市場の変化に迅速に対応できる体制としました。これにより、ひとつの商品の売上が悪くても、他の商品の売上でカバーできるようになりました。その結果、各商品の売上はそれほど大きくないものの、じわりじわりと伸びてきています。

吸収性と保水能力の高さを活かした吸水グッズが大ヒット

ーー貴社の強みについて教えてください。

小西紀行:
まず挙げられるのが、自社商品の技術力の高さです。弊社の主力商品である、洗車後に水を拭き取る吸水セーム「プラスセーヌ」は、吸収性と保水能力が高いことが特徴です。国内で吸水セームを製造しているのは弊社だけですので、商品開発や製造、そして供給は強みと考えています。

この技術を活用し、掃除用のスポンジやスポーツ用タオルなどを展開しています。また、日常の水滴ストレスを解消する吸水ツールブランド「STTA(スッタ)」を立ち上げました。スティック型スポンジタオルや水切りマット&クロスは、大手家具量販店でも販売されており、一気に販路を拡大しました。

もうひとつの強みは、社員の真面目さですね。工場で働く従業員も営業も、毎朝全員で品質方針と環境方針を唱和しています。東京・大阪にある営業、茨城にある工場ではラジオ体操を行うなど、普段のルーティーンを怠らず、真面目に取り組んでいます。この真摯な姿勢が、お客様からの信頼につながっていると思います。

数字をつくりにいったらダメ。ビジネスにおける重要な視点とは

ーー組織づくりに関して心がけてきたことをお聞かせください。

小西紀行:
特に力を入れてきたのが、社内のコミュニケーションの活性化です。メールの文面だけでは真意が伝わりにくく、相手の誤解を招くこともあるため、面と向かって対話する大切さを大事にしてきました。

また、互いに腹を割って話す時間をつくろうと、以前はよく社内で飲み会を開いていました。今では社員同士のコミュニケーションが活発になったと感じています。

このように社内の風通しを良くすることは、数字を追いかけるよりも会社の業績に良い影響を与えると思っています。

ーービジネスをする上で大切にしてきた考えを教えてください。

小西紀行:
仕事全般で重要なのは、周囲に目を配ることだと思っています。たとえば私は店舗に訪問する際に、店長と売り場責任者の好きなことやお互いの共通点を見つけるように心がけていました。

「クルマをキレイにされていますがお手入れはどうしているのですか」「クルマに積んであったゴルフバックを見ましたけどどれくらいコースに行っていますか」などを会話の切り口として、相手と関係性を築いていくことが、ビジネスで重要なポイントですね。

まずは全体を俯瞰することが必要です。枝葉を先に見るのではなくバードビューの視点で森や木を見て、徐々に細部を観察することではじめて本質が見えてくると思っています。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

小西紀行:
現在、新設した第三工場の本格稼働に向けて準備を進めています。この工場の投資額は売上の約3分の1に相当する大プロジェクトなので、実際に稼働できるまで見届けたいですね。

また、コロナ禍以降のEC市場の急速な拡大に伴い、EC事業を強化していく予定です。さらに、世界的な半導体メーカーとの取引を通じ、製品開発に積極的に取り組んでいきます。これからも新しいことに挑戦する文化を大切にし、持続的な成長を目指していきます。

編集後記

インタビュー中に人が好きだと話してくれた小西社長。社内のコミュニケーションを大切にし、お客様との会話を重視するのも、こうした温かな人柄が大きく関わっているのだろう。アイオン株式会社は、これからも社員のアイデアを積極的に取り入れ、顧客や消費者が求める商品を世の中に生み出し続けていく。

小西紀行/1960年、福岡県生まれ。大学卒業後の1983年に日東化学株式会社(現:株式会社ソフト99コーポレーション)に入社し、営業責任者として全国のお客様に商品の提案を行う。2014年よりアイオン株式会社の取締役を兼務し、2019年に代表取締役社長に就任。