オーティファイ株式会社は2016年にアメリカで創業した、ソフトウェアの品質保証を包括的に支援するプラットフォーム「Autify(オーティファイ)」を展開する会社だ。アメリカの著名なアクセラレーター「Alchemist Accelerator(アルケミストアクセラレーター)」のプログラムを卒業した初の日本人チームとしても知られている。
生成AIの活用を見据えて2024年にリブランディングを行った同社の、創業から現在に至るまでの道のりをCEO/共同創業者である近澤良氏に聞いた。
世界で通用するサービスを目指して海外で起業
ーー創業前はどのような仕事をしていましたか?
近澤良:
大学在学中に友人と起業して、匿名性のSNSを運営していました。広告収入は学生のお小遣い稼ぎぐらいの金額でしたが、自分たちでつくったサービスをユーザーに使ってもらえる喜びを知る原体験となりました。
大学卒業後は、Web制作会社や大手企業でエンジニアとして経験を積んだのち、CTOとして共同創業も経験したのですが、「起業して、世界に通用するサービスをつくりたい」という思いが強くなり、1年で退職を決意。その後、シンガポールやアメリカでエンジニア・プロダクトマネージャーとして働きながら事業軸を確立しました。そして、2016年に弊社の前身となる会社をアメリカで創業し、現在に至ります。
「バーニングニーズ」の解決で生まれたテスト自動化ツール
ーーどのような経緯で「Autify」というサービスを立ち上げたのですか?
近澤良:
創業当時は翻訳支援ツールを開発していましたが、マーケットサイズが限定的だったため、思うような成果が出せませんでした。2018年に「Alchemist Accelerator」というBtoB専門のアクセラレーター(※)のプログラムに受かったことをきっかけに方針を変え、考えた末に辿り着いたのが、テスト自動化ツールです。
Alchemist Acceleratorでは、「創業者が売れないものは売れない。自ら売りに行きなさい」と言われました。セールスはあまり得意ではなかったものの「とにかくやってみよう」と思い、約70社の顧客と話したのですが、誰も買ってくれませんでした。
そんな中で行動の指針となったのが、Alchemist Acceleratorの「顧客のバーニングニーズを解決せよ」というアドバイスです。「バーニングニーズ」とは、頭に火がついていて今すぐ解決しなければならないようなニーズを指します。顧客企業のバーニングニーズを見つけるために、これまでのミーティングを徹底的に分析して考え抜いた結果、「Autify」の原案が生まれました。
その結果、2018年中に製品がまだない状態でいくつかの有償契約を獲得でき、Alchemist Acceleratorを無事に卒業できたのです。卒業後、弊社のサービスが日本のメディアで取り上げられたことで、さまざまな大手企業から問い合わせがあり、売上も伸びていきました。
(※)アクセラレーター:スタートアップ企業や起業家を支援する支援事業者のこと。
生成AIとプロフェッショナルサービスで包括的にソフトウェアテストの品質保証を支援
ーー「Autify」には3つのサービスがあるということですが、それぞれの内容についてお聞かせください。
近澤良:
「Autify」のサービスは、これまでエンジニアがコストと時間をかけて行っていたテストフェーズをなくすことを目的としています。2019年に正式リリースした「Autify NoCode(オーティファイ ノーコード)」は、コードを書かずにテストを自動化できるツールです。
しかし、ツールの自動化だけで開発の現場におけるすべての課題を解決することには、限界がありました。そこで、弊社がAIを起点としたソフトウェア品質保証のソリューションカンパニーとなるべく、2024年にリブランディングを行いました。そして、生成AIを活用した「Autify Genesis(オーティファイ ジェネシス)」のβ版と、品質保証・自動化プロフェッショナルによるテスト自動化導入支援・品質保証サービス「Autify Pro Service(オーティファイ プロ サービス)」をリリースしたのです。
「Autify Genesis」は、生成AIによってテストケースとテストシナリオを作成し、「Autify NoCode」のテストシナリオとしても利用できるようになります。
さらに「Autify Pro Service」では、弊社が培ってきた自動化の知見を持つプロフェッショナルな人材が、包括的なソフトウェア品質保証の支援を提供します。業務の自動化を推進し、企業の品質保持とコスト削減に貢献することがサービスの目的です。テスト戦略の立案から品質評価、テストの自動化・運用までワンストップで支援を行い、弊社ツールによるテストのAI化・自動化をサポートします。
海外顧客の拡大でグローバルナンバーワンを目指す
ーー今後はどのように事業を成長させていきたいとお考えですか?
近澤良:
弊社サービスでサポートできる対象を増やしていきたいです。「カバーできるプロセスを広げる」という横軸と「カバーする対象を増やす」という縦軸の、2軸のアプローチでソリューションの幅を広げたいと考えています。より充実したサービスで、グローバルナンバーワン企業を目指したいですね。世界に通用するサービスをつくることは、創業時から私の夢でした。既存の海外のクライアントを、さらに増やしたいと考えています。
ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。
近澤良:
「諦めない」ことが一番大切だと思っています。新しい技術やビジネスの世界では、さまざまな壁にぶつかります。しかし、そのときに理由をつけて諦めるのではなく、続けることで道が開けていくでしょう。私自身、何度も壁にぶつかりましたが、諦めずに挑戦し続けたことで今があります。
弊社では、粘り強く挑戦を続け、AIでソフトウェアテストを全世界で変えていきたいという志を持つ仲間を募集しています。弊社は社員の主体性を重視しているため、フルフレックスや無制限有給制度を導入しています。また、社員同士の交流を深めるために、入社ランチやノンアルコールビールパーティー、ポーカーナイトなどを開催しています。このように風通しの良い環境で、テスト自動化の未来に共に挑戦していける仲間との出会いを楽しみにしています。
編集後記
「Autify」のリブランディングにあたってリニューアルしたキービジュアルは、「HUMAN」のつづりの中に「AI」の文字が浮き出るデザインになっている。これは、「人間の中にAIがある」ということを意味しているという。人間中心のAI社会を実現するべく、AIによってエンジニアの生産性を向上させる同社サービスの重要性は、ますます高まっていくだろう。テスト自動化の領域で世界を目指す同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
近澤良/ソフトウェアエンジニアとして日本、シンガポール、サンフランシスコにて10年以上ソフトウェア開発に従事。DeNAにて全米No.1となったソーシャルゲームの開発を行ったのち、シンガポールのVikiにて、プロダクトエンジニアとして製品開発をリード。その後サンフランシスコへ移住し、現地スタートアップに初期メンバーとして参画。2016年にAutify, Incを創業。