※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

1941年創業の日の丸ハイヤー株式会社は、大阪と兵庫エリアに営業所を有し、宮崎・静岡・神奈川・山形とグループ会社を拡大してきた日の丸ハイヤーグループの老舗会社だ。役員が現場で培った経験を活かした柔軟な経営戦略と、80年以上の歴史に裏打ちされた信頼を併せ持つ同社は、時代の変化に対応しながら、地域の交通インフラを支え、住民の暮らしを守っている。

今回は、同社の代表取締役社長である暮部光昭氏に、これまでの歩みとこれからの展望について話をうかがった。

多様性との出会いが培った、柔軟な視点

ーー貴社に入社する前のご経験についてお聞かせください。

暮部光昭:
私が中学卒業後の進路について考えていたころは、ちょうどバブル期で英語への関心の高まりとともに、イギリスにある日本の学校が流行っていたのです。野球推薦で日本の高校に進学する選択肢もありましたが、父の方針もありイギリスにある全寮制の高校へ進学しました。

私は英語が得意ではなかったのですが、父に大学への進学について相談したところ「これからの時代は英語だから、海外の学校で英語を覚えた方がいい」とアドバイスをもらい、英語圏の大学に進学することにしました。

ところが、大学入学前に私はバイク事故に遭い、大怪我をしてしまったのです。奇跡的に一命を取り留めたものの留学の話はなくなり、しばらくは日本で英語を学ぶことになりました。そうして、1年後にようやくオーストラリアのWilliams Business Collegeに入学したというわけです。

ーーオーストラリアでの留学生活はいかがでしたか?

暮部光昭:
現地での生活を通じて、アジアやヨーロッパ各国など、さまざまな国の人たちと交流する機会があり、多様なバックグラウンドを持つ人々と接することで、文化の違いを肌で感じることができました。

父はよく「一流の大学を出なくても、一流の経営者は多い」と口にしていましたが、私の場合は海外での経験が大きな財産になりました。当時は反発もありましたが、今となっては自分の視野を広げることができたため、この選択が良かったと心から思っています。

創業より受け継がれてきた安全への誓い

ーー日の丸ハイヤーに入社後は、どのような業務を経験しましたか?

暮部光昭:
当時、弊社はホテルも経営していたので、フロント業務や、タクシーの夜間営業、経理など、多岐にわたる仕事を担当しました。ときには、ホテルのレストランでホールスタッフをしたり、マイクロバスでお客さまを空港まで送迎したりもしましたね。

特に印象に残っているのは営業活動です。父は「ビルがあったら1階から上まで全部回って見てこい」というタイプだったので、会社のある大阪だけでなく、出張先の高知や神戸でも旅行会社をすべて回りました。

人見知りのため最初は緊張しましたが、次第に慣れていきました。こうした経験が、人前で話す力や、お客さまとのコミュニケーション能力の向上につながったのだと思います。

ーー貴社の事業内容について教えてください。

暮部光昭:
弊社は、昭和から平成、そして令和へと時代を超えて培ってきたノウハウを活かし、安全で質の高いタクシー・ハイヤーの配車サービスを提供しています。私は社員に「毎日、初心に戻ることが大事」「事故・違反・苦情のない毎日を」ということをよく伝えています。全車両にドライブレコーダーを搭載するだけでなく、こうした日々の取り組みが、お客様に安心してご利用いただける体制につながっていると自負しています。

父の代から引き継いだ言葉に「お客さまは王様、乗務員は宝」というものがあります。お客さまを大切にするのはもちろん、それを実現するドライバーも同じように大切にする。この精神は今も弊社の根幹にあります。お客さまを安全・安心・快適に目的地までお送りし、その対価としてお金をいただく。そして、会社とドライバーでそれを分け合うという意識を常に持っています。

ーー貴社の強みをお聞かせください。

暮部光昭:
一つは、経営陣が現場のことを分かっていることですね。弊社は、私を含め50代前後の役員が中心となって経営していますが、現場を知る役員が多いので、迅速な意思決定と柔軟な対応が可能です。会議に参加できない場合も、ZOOMなどのオンラインを活用して情報共有を密に行っています。

もう一つは働く人の生活スタイルを重視した勤務体制です。フレックスタイム制を導入し、自分の都合に合わせて働ける環境を整えています。たとえば、お子さんがいらっしゃる方であれば、出勤してから子どもの送り迎えをすることも可能です。こうした働きやすい環境づくりが、結果としてお客さまへのサービス向上にもつながっていると考えています。

地域社会との共生を目指す、新たな事業展開

ーー今後の展望をお聞かせください。

暮部光昭:
今後、ますます社会は高齢化が進んでいくでしょう。特に地方では、公共交通機関の減少による、移動手段の確保が課題となっています。弊社は、こういった社会問題に対応するため、地域の特性やお客さまのご要望に合わせた乗り合いのデマンドバスや、路線バスを代替するジャンボタクシーなど、新しいサービスの提供を始めています。

同時に、業界を盛り上げるためには、馴染みの薄い世代にもタクシーの魅力を伝えていかなくてはなりません。SNSを活用して情報発信を強化し、人材の採用にも力を入れています。旧態依然としたタクシー会社のイメージを払拭し、さまざまな世代が共感できる、新しいタクシー会社の姿を示していきたいと考えています。

編集後記

暮部社長の「お客様は王様、乗務員は宝」という言葉からは、人を大切にする経営哲学が伝わってきた。特に印象的だったのは、テクノロジーの活用と人間味あふれるサービスの絶妙なバランスだ。SNSを活用した情報発信や、フレックスタイム制の導入による柔軟な働き方の実現から、時代の変化を敏感に捉える経営者の眼力を感じた。

暮部光昭/1972年、大阪府生まれ。Williams Business College卒業。1994年、日の丸ハイヤー株式会社に入社。2002年、代表取締役社長に就任。