※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

龍田産業株式会社は、1967年の設立以来、五月人形や雛人形などの伝統的な商品を手掛けてきた老舗企業だ。少子化によるターゲット層の縮小、日本文化への関心低下、物価高騰による消費傾向の変化など、業界全体が直面するさまざまな課題にどのように立ち向かってきたのか。そして今後、どのような戦略で成長を続けていくのか。代表取締役社長の田渕龍一氏に同社の歩みと未来のビジョンについてうかがった。

ECサイトの成功が、家業を継ぐきっかけに

ーー社長就任までの歩みについて教えてください。

田渕龍一:
弊社は1967年に設立され、私は3代目の経営者として家業を引き継いでいます。

もともと、業界の未来を考慮する周囲から家業を継ぐことを反対されていました。そのため家業を継ぐことへのプレッシャーを感じることも、継ぐ意思もありませんでしたね。しかし、入社した東京のベンチャー企業を辞めたことが転機となり、再就職をしようと実家に戻ったタイミングで家業を手伝うようになったのです。

当初はアルバイトで軽い気持ちでしたが、正社員になり、ECサイトを活用した通販事業の拡大を任されたことが、家業に向き合うきっかけになりました。

ーーECサイトの立ち上げ時に苦労はありましたか?

田渕龍一:
長年伝統的な販売方法で事業を展開していましたが、入社2年目にオンライン販売の可能性に着目し、リスクを覚悟で通販事業に力を注ぎました。当初は思うような結果が出ませんでしたが、翌年から徐々に効果が現れ、売上が大幅に増加したのです。

想定以上のご注文をいただき、製造や対応が追いつかない悩みも生じましたが、オフシーズン中の製造を強化することで乗り越えました。

EC事業の強みは地方に拠点を置きながら、全国の顧客にアプローチできる点です。これにより、都市部を含む新たな顧客層にもアプローチできたことは大きな成果でしたね。

高品質な商品をお手頃価格で、経費節減で生まれる競争力

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

田渕龍一:
弊社の主力商品は5月の端午の節句と3月の桃の節句の人形ですが、関連する名前旗も取り扱っています。そのほかに、クリスマス商品をはじめ、季節ごとの商品や知育玩具、観葉植物など、幅広く展開しています。特にクリスマスのツリーやオーナメントは、ヨーロッパの製品を販売することで他社との差別化を図っています。

競合他社がブランド価値を訴求して高価な値段設定を行っているところ、弊社は同水準の高品質な商品を購入しやすい価格帯で提供することが強みです。

これを実現するために、社長に就任してから経費削減に注力してきました。無駄を省き、まとまった数量を複数の企業に発注することで、品質を安定させ、価格競争力も高めました。物流コストに関しても、国内の安価で利用できる拠点を使用するなど、コスト削減に努めています。

関連商品やインテリア業界への参入でターゲット層を拡大

ーー今後の事業展開について具体的なビジョンをお聞かせください。

田渕龍一:
海外在住の日本人向けの販売を強化したいと思っています。海外に住んでいると、日本の商品が欲しくても入手することが困難です。スムーズに商品をお届けできるよう、輸送の課題を解決する取り組みを進めています。

また、既存の販売商品に関連する商品の拡充を図るため、メインターゲットであるファミリー層に向けたベビー用品や子ども向け商品を発売しました。

さらに、インテリア業界への参入を考え、ヨーロッパのスタイリッシュなインテリア商品を取り扱う新規にサイトの立ち上げを準備中です。これにより、会社の発展に貢献しているECサイトでの通販事業の幅を広げていきます。

衰退傾向にある日本の伝統文化に関連する商品の今後を考え、新たな層への展開が未来に向けての鍵となるでしょう。海外製品を増やしてターゲット層を広げ、より多くのお客様に販売できるよう体制を整えつつ、利益率向上を目指した品揃えの強化を進行中です。

事業運営においては、これまで実施してきた業務改善をさらに推し進め、アウトソーシングや協力会社との連携強化により、一層の効率化を実現する考えです。同時に、従業員が快適に働ける職場環境づくりにも注力してまいります。

編集後記

田渕社長の言葉からは、経営者としての責任感と挑戦心が伝わってきた。家業を継ぐことへの葛藤から通販事業拡大に成功するまでの軌跡には、多くの示唆が込められている。特に注目すべきは、伝統的な商品を扱いながらも、時代の変化に果敢に適応する姿勢だ。

競争激化やコスト上昇といった課題に対し、ECサイトの活用や労働環境の改善など、現代的な経営手法を積極的に取り入れるその姿勢は、際立っている。伝統産業の未来を見据える上で、龍田産業株式会社の取り組みは一つの指針となり得るのではないだろうか。

田渕龍一/1990年兵庫県生まれ、甲南大学卒業。大学卒業後、2013年にベンチャー企業に入社し、2日で退社。その後龍田産業株式会社に入社。2024年に代表取締役社長に就任。