※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

滋賀県大津市に本社を構える株式会社 叶 匠寿庵(かのう しょうじゅあん)は、素材にこだわり、四季の風情を感じさせる和菓子を製造・販売する企業だ。

口の中でほろほろとやさしくほどけるような小豆を使った「あも」が代表銘菓として知られ、最近は里山保護のプロジェクトにも力を入れるなど、お菓子づくりにとどまらない多彩な活動を行っている。

今回、2012年に3代目代表に就任した芝田冬樹氏に、同社のお菓子づくりへのこだわりや会社の強み・展望について聞いた。

創業時から改良を加えながら受け継いできた伝統の味

ーー代表就任の経緯を教えてください。

芝田冬樹:
もともと和菓子屋になりたいという夢があったわけではありませんでしたが、美術や工作、音楽など、何かを表現する芸術的で感覚的なものが好きでした。叶 匠寿庵へ入社したのは、自分を表現したいという気持ちと、お菓子づくりが合うと感じたからです。

会社で働く中で、先代の娘とのご縁があり、結婚して婿養子に入り、代表取締役社長に就任しました。結果として代表に就任しましたが、代表になりたいという思いよりも、叶 匠寿庵を営む芝田家に恩返しをしたいという思いのほうが強かったですね。

ーー代表就任後に手がけたヒット作にはどのようなものがありますか。

芝田冬樹:
最近の商品でいうと、梅ゼリーの「標野(しめの)」です。弊社が育てている梅の木から収穫した梅を1年以上お酒に漬け込み、そこでできた梅酒をゼリーに使っています。

標野はもともと着色料を使っていた商品ですが、現在は果肉まで真っ赤な梅「露茜(つゆあかね)」の色を生かす製造方法に改良したため、着色料を使っていません。和歌山県の農家に露茜の栽培をお願いしており、一定の量を確保できるようにしています。

このように、着色料を使わないなどの調整はしていますが、創業時から今まで、お菓子づくりへの考え方は大きく変わっていません。実際に現在、販売している商品ラインナップの6〜7割は、初代と2代目が生み出したものです。

トップダウン型組織の改革や、環境保護に向けた「里山プロジェクト」への挑戦

ーー代表就任時の気持ちや取り組みについて教えてください。

芝田冬樹:
就任してからは、絶対に赤字を出さないという強い気持ちがありましたね。また、私は一般の社員から代表になったので、社員たちの気持ちがよく分かり、社員たちが「代表の言う通りにしていれば成功するだろう」と受け身な姿勢でいることを感じていました。

初代も2代目もカリスマ的存在だったため、今まではトップダウン型の組織構造でした。そこで、私が代表取締役に就任してからは、社員たちからも、各自が挑戦したいことやそれを達成するために必要な取り組みを提案してもらうようにしました。

また、商品をお客様に届けるまでには、農業をする人やお菓子をつくる人、経理をする人、販売する人など、たくさんの人が関わっています。お互いの仕事を尊重することが大切なので、店舗で働く人も山に行って農業を体験するなど、互いの仕事を理解できるような機会を設けるようにしました。

ーー社内で新たに始めた取り組みについても聞かせてください。

芝田冬樹:
社内有志のチーム「里山プロジェクト」を発足させました。これは本社 寿長生の郷の豊かな自然や、そこで暮らすさまざまな生き物と生態系を保護し、次の世代へ残すことを目的としています。

お客様には良い環境の中で育った原料を使ったお菓子を食べてもらいたいですし、美しいお菓子をつくるためにも、そして将来の子どもたちのためにも、綺麗な環境を整えることは私たちの使命だと考えています。

社員や生産者などの仲間に恵まれているのが最大の強み

ーー今後の展望についての説明をお願いします。

芝田冬樹:
弊社は小さな商店から1968年に会社へと急成長したため、会社としての環境が完全に整備されているとはまだ言えません。そのため、設備投資などに力を入れて、より利益が上がるよう、社内環境から改善していきたいですね。また、徐々に体制を整えながら、EC販売にも力を入れていけたらと考えています。

ーー最後に、代表として大切にしている考え方を聞かせてください。

芝田冬樹:
弊社の自慢は、やはり社員です。そして、最も投資しなければいけないのも社員に関するものだと思っています。そのため、まずは社員の働く環境や福利厚生の充実を優先し、そのうえで対外的なところにも着手するようにしています。

また、弊社は技術だけ見れば他社に劣るところもあるかもしれませんが、良い原材料を使うことなど、ものづくりへのこだわりは他社には負けません。生産者の方々には私の考え方を伝えて、それに共鳴してもらえるよう、働きかけるといったこともしています。

編集後記

「価格を決めるのは自分たち、価値を決めるのはお客様」と、自身の考えを話した芝田代表。その言葉からは、いくら売り上げが伸びても品質が伴わなければ意味がないという、ものづくりへの真摯な姿勢が垣間見えた。

トレンドの移り変わりが早い昨今。和菓子を通して古き良き日本の魅力を伝え、日本の文化を残す同社の活躍を引き続き、応援したい。

芝田冬樹/1964年、滋賀県生まれ。1984年、株式会社 叶 匠寿庵に入社し、生産部で菓子製造や商品企画に携わる。その後、執行役員生産本部長、副社長を経て、叶 匠寿庵の3代目として2012年、代表取締役社長に就任。