テイクアウト商品の普及やフードデリバリーサービスの登場により、料理をしなくても質の高い食事を楽しむことができる現代。料理の時間をできるだけ削減し、他の活動に時間を割きたい人は少なくない。
そんな時流の中でも、高品質で幅広い食材を提供して「料理をつくる楽しさ」を伝え続けているのが、創業105年目を迎えた製菓・製パン材料専門店の株式会社富澤商店だ。手間をかけずに料理したいニーズにも意欲的に応える。今回、代表取締役社長の富澤淳氏に、長い歴史を持つ同社の強さの理由と今後の展望を聞いた。
「お客様が本当に求めるもの」と「企業価値の向上」の両方を意識してきた
ーー富澤商店の社長に就任してから考えてきたことや、実践してきたことを聞かせてください。
富澤淳:
社長に就任した2009年当時、弊社は既存のお客様から厚い信頼を得ている一方で、限られた人にしか商品の魅力を伝えられていない状況にありました。
オンライン販売もしていないし、都心にも店舗がない。せっかく良いものを販売しているのだから、より多くの人に魅力を届けたいという思いが強くありました。
このような状況の中、社長に就任してから特に考えてきたのが、お客様が何を求めているのかという点です。
「お客様のため」を前提に商品価値と価格のバランスを考え、またオーナーとしての目線を持ちつつ、経営者として企業価値を高めることにもこだわり続けてきました。
こだわりの商品を適正価格で販売できる仕組みが強み
ーー事業内容について聞かせてください。
富澤淳:
弊社は、実店舗とEC、卸売りを通じてパンやお菓子の材料を中心に販売する製菓・製パン材料専門店です。直営店は全国の都心部を中心に、約80店舗展開しています。
パンやお菓子の材料のほかにも、調理器具やラッピング資材、スパイスなど、8,500以上の幅広いカテゴリーの商品をリーズナブルな価格で提供しており、またプロが使う業務用材料を小分け販売しています。
実店舗とECが弊社の主な事業で、それに加えて自由が丘でクッキングスタジオも運営しています。パティスリーやパン屋でしっかりと技術を磨いた講師陣が丁寧に教えてくれることや、製菓・製パン材料専門店ならではの本格的な材料や道具を使用できることが特徴です。
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
富澤淳:
一般のスーパーでは売っていないような特別な商品だけを集めており、お客様にワクワク感を持ってもらうことにこだわっています。こういった商品は単価が高くなりがちですが、弊社は自社で製造や物流を手がけることでコストを抑え、適性価格で販売できることが強みです。
商品そのものを他社と差別化している点に加え、こだわりの商品を適正価格で売る仕組みを持っていることが最大の強みだと言えます。
ーーどういった年齢層の顧客が多いですか。
富澤淳:
主に30代後半から40代の女性の方ですね。ライフステージが変わったことをきっかけに、より健康への意識が高まり、添加物が入っていない材料を求めるお客様も多くいます。
最近はそうした層以外にも、手間をかけずに料理を楽しんでもらえるよう、材料や型がセットになったキット商品の開発から行い、料理を楽しむきっかけを作る取り組みを強化しています。
今後の夢は「料理をつくる楽しさ」を国内外で広めていくこと
ーー今後注力したいことを聞かせてください。
富澤淳:
弊社ではより多くのお客様に商品を知ってもらうため、地方のスーパーのスペースを間借りして商品を販売する「パートナー制度」を取り入れています。今後はそのパートナー制度を利用した販売網を更に50箇所ほど増やす予定です。
そのほか、採用の強化にも注力していきたいですね。弊社は積極的で好奇心の強い人が多い傾向にあるので、そういった人が来てくれると嬉しいですね。
ーーここ最近で会社にとって一番の出来事はなんでしたか?
富澤淳:
昨年(2023年)に、大きな引っ越しをしました。これまで別々だった本社と、倉庫・物流が一つの大きなビルに集約したことです。倉庫には商品品質保持のため、3,000坪の倉庫全てに空調を入れています。こんなことをしている企業はなかなか珍しいと思います。
この事により、品質保持だけでなくスタッフも快適な環境で働くことができます。様々な機能が集約されたことにより、コストが押さえられ、価格競争力の面も高めていけるようになりました。
ーー最後に、社長の夢を教えてください。
富澤淳:
弊社は、料理をする楽しさを提供できる数少ない会社です。最近は利便性の高いサービスや商品が存在しますが、料理の楽しさをこれからも伝え続けて、国内外で広めていくのが私の夢です。料理をつくる楽しさ、そしてそれを味わうことのできる幸せを世界中の人々に感じてもらえるよう、事業を通して尽力していきたいと考えています。
編集後記
100年以上の歴史を持つ富澤商店。長い歴史を持つ会社でありながら、EC販売やSNS発信など、時代に即した手法でファンの獲得に成功している。
「世界中の人々に料理をつくる楽しさを感じてもらいたい」という富澤商店の思いが届き、世界中で同社の商品が愛されるようになる日もきっと近いだろう。日本を代表する製菓・製パン材料専門店として、同社が海外で活躍するのが楽しみだ。
富澤淳/1977年、東京都生まれ。2009年、株式会社富澤商店に入社し、同年代表取締役社長に就任。