コロナ禍を経て、多くの観光客が再び押し寄せる京都。2023年における府内の観光客数は7518万人に達し、22年比で13%の増加と京都市が発表した。そんな観光地にありながら「脱・観光依存」を掲げるのは、創業120年のよーじやグループだ。
あぶらとり紙のイメージが強いよーじやだが、実は全身のスキンケア用品の販売や飲食店の運営も手がけている。代表取締役の國枝昂氏に、経営の多角化や新たなブランドづくりへの思いをうかがった。
ゴールから逆算した代表取締役までの道のり
ーー代表取締役になるまでの経緯をお聞かせください。
國枝昂:
1904年の創業以来、弊社は家族が事業を引き継いでいます。私は一人っ子で、幼い頃から「いつかは会社を継ぐのだろう」と思い、逆算してやるべきことを選択してきました。大学卒業後に、EY新日本有限責任監査法人への就職を選んだのも、経営者として会社の結果責任を負うために役立つと思ったからです。
2019年に先代である父が倒れたことをきっかけに、30歳で5代目の代表取締役に就任しました。当時、会社の業績は右肩下がりだったので、就任早々に状況を打開することが求められていました。
ーー代表取締役のプレッシャーや苦労はありましたか。
國枝昂:
就任から約半年でコロナ禍に直面し、観光客の激減で非常に厳しい状況が続きましたが、会社が抱える根本的な経営リスクと向き合う良い機会になりました。
長く勤める社員には「老舗だから売れて当然」という意識が強く、売上に対しての意識や危機感がありませんでした。コロナ禍で客足が遠のき、ボーナス削減を避けられなかったことを機に、私が抱く危機感への訴えに初めて耳を傾けてくれるようになったのです。苦労の多い時期でしたが、会社を変え、観光依存から脱却するきっかけとしては絶好のタイミングだったと思います。
「脱・観光依存」を掲げた大胆な社内改革
ーー「脱・観光依存」の考え方について詳しく教えてください。
國枝昂:
コロナ禍で売上の減少を目の当たりにし、改めて弊社が観光需要に大きく依存していたことを痛感しました。
これからは、観光客だけでなく地元の方をはじめ幅広い人に向けて、よーじやブランドの魅力を発信し「あぶらとり紙以外の魅力」を知っていただくことが不可欠です。お土産としての需要だけでなく、日常使いできるブランドへの転換が重要だと考えています。
「脱・観光依存」は「脱観光」ではなく、京都の観光業ブランドとしての価値をしっかりと意識したうえで、よーじやブランド自体のファンを増やしていくことを目指しています。
ーー「脱・観光依存」に向け、どのような取り組みをしたのですか。
國枝昂:
商品ラインナップを大幅に拡充しました。観光地のお土産といえば、多くの方が定番商品を選ぶため、新商品や季節限定品は売れにくい傾向があります。しかし、「脱・観光依存」では地元の方やリピーターを増やすことを重視し、普段使いできるスキンケアアイテムが重要になります。
これまで注力してこなかった新商品の開発スピードを格段にあげ、豊富なラインナップをそろえました。「観光地の京都でしか買えない価値」から、「いつでも買える価値」へと転換を図っています。
ーー新事業の立ち上げにより、手応えを感じていることはありますか。
國枝昂:
新しい取り組みにはリスクもあり、意思統一が難しい面もありますが、リスクに挑むことが未来につながると信じ、常にアフターコロナを意識して取り組みました。先行投資を惜しまず、コミュニケーション環境を整えたことが功を奏し、コロナ禍を受けて実力を底上げできたのが大きな成果です。若手が活躍できる会社に変わりつつあるという手応えもあります。
今年の創業120周年イベントは、新入社員8名を中心に企画しました。記念商品のPRやSNS運用、ECサイトも若手が主導しています。確立されたよーじやブランドのイメージを進化させるために、若手社員の活躍は不可欠です。年功序列ではなく、企業理念を理解している社員であれば、誰にでもチャンスがある社風へと変化しつつあります。
進化する老舗。若手が牽引する未来戦略
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
國枝昂:
京都の人にとって欠かせない企業を目指しています。老舗として、京都に住む人にとって必要な存在でなければ、この地で商売を続ける意味はないと思います。会社の存在意義を示すために、目先の利益にとらわれず、地元の方たちへの還元を重視することが「脱・観光依存」につながるはずです。
企業としては、新商品の開発、次世代の採用育成が注力テーマです。
リピーターの確保に向けて魅力ある商品を生み出し、若手社員が長く働き続けたいと感じる企業であるために、弊社と価値観が合う人材を採用することを重視しています。
「あぶらとり紙のよーじや」という従来のイメージから脱却し、今後10年で新しい姿を築くために、会社全体で改革に取り組んでいきます。
編集後記
「脱・観光依存」を掲げ社内改革に取り組むよーじやグループ。若い世代の積極的な起用に、老舗企業の社内改革への本気度が感じられた。コロナ禍でも守りに入らない攻めの経営戦略で、新規顧客獲得でも成果を上げてきた同社が臨む地域密着型の新たな挑戦に今後も期待が高まる。
國枝昂/1989年京都市生まれ。大阪大学経済学部卒業後に公認会計士試験合格、EY新日本有限責任監査法人へ入社。2019年によーじやグループに入社、代表取締役に就任。