※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

駅や公共施設などで何気なく目にする周辺案内地図だが、その製造元を考えたことはあるだろうか?今回紹介する表示灯株式会社こそが、その製造元であり、全国に994ある主要駅(1日あたりの乗降者数3万人以上)のうち、なんと814駅に同社の周辺案内地図が設置されているという。(2024年3月末時点)

代表取締役社長である德毛孝裕氏は、極めて高い設置率を誇る周辺案内地図をビジネスの基盤と考え、そこに新たな価値を付与する道を模索している。今回のインタビューでは、50年以上にわたって周辺案内地図をつくり続ける同社の事業内容や強み、そして新たな挑戦について、德毛社長の視点から語っていただいた。

全国に設置された広告付き周辺案内地図「ナビタ」を作り続けて50年以上

ーー貴社の事業内容について教えてください。

德毛孝裕:
弊社のコア事業は「ナビタ」と呼ばれる広告付き周辺案内地図です。ナビタは全国の駅や病院、自治体庁舎など、さまざまな場所に設置されており、地域の周辺地図とともに多くの広告を掲載しています。皆さんも1度は目にしたことがあるのではないでしょうか?

ナビタは地域に密着した広告ビジネスとして、創業当時から50年以上にわたって弊社を支え続けています。弊社の年間売上は約100億円ですが、そのうち約80億円はナビタに由来するものです。

そのほかの事業としては、駅構内に設置する交通広告やマス広告・バス広告・屋外広告といった広告類、公共施設や交通機関向けのサイン(看板)、デジタルサイネージ広告、経路案内やショップ検索などのWebサービス等があります。

ーー「ナビタ」を作るうえで、重視してる点をお聞かせください。

德毛孝裕:
ナビタには大きく3つの要素があります。

まず1つ目は「地域に根ざした広告」という点です。ナビタは地域の方が親しみやすいように、そのエリアの各事業者様を中心に、地域に根差した情報を多く掲載するようにしています。さらに、複数の広告主様を集めた連合広告として掲載することで、広告費を抑える工夫もしています。

2つ目は「地図の向き」です。通常の地図は北を上にしますが、ナビタは見やすさへの配慮として、利用者が向いている方向が上になるように制作しています。これにより、構造が複雑な駅構内や複合施設などの場所でも、地図を見て左右を把握できるため、目的地に向かいやすくなっています。

3つ目は「色覚多様性に配慮した配色」です。ナビタの配色は専門家のアドバイスのもとに決定されており、色の境目が認識しやすくなっています。これは、公共の場に地図を設置する弊社が果たすべき責任だと考えています。

NTTで学んだ情報通信技術を活かし、社長へと躍進を遂げる

ーー社長に就任するまでの経歴をお聞かせください。

德毛孝裕:
私が社会人になったのは、バブル末期の1990年のことです。当時の私は「情報通信が未来のインフラになる」と信じていたことから、就職先には最先端の技術が学べるであろう日本電信電話(NTT)を選びました。実際、NTTでは地域通信から長距離・国際通信、固定通信からモバイル通信まで幅広い分野に携わることができ、今の仕事にもつながる多くの知見を得られました。

以前から弊社の経営層は「デジタルやWebとの連携による成長」を目指しており、そのための人材として縁あって私に声がかかったのです。弊社に入社した2020年以降は、まず生産本部の副本部長を任され、ナビタの製作や印刷、デジタルサイネージの制作などに携わりました。それから約1年後に、名古屋支社長として異動します。そして、支社長を約1年経験したのち、社長に就任し、今に至ります。

ーー2022年の社長就任後に苦労したエピソードを教えていただけますか?

德毛孝裕:
社員たちとの知識や経験の差を埋めるのに苦労しました。私は弊社の社長就任前までの間、約2年間働いていたものの、やはり長年勤めている社員たちとは知識量に大きな差がありました。この差をいち早く埋めるには自分で勉強するしかなく、いろいろな方の協力を得ながら、いち早くギャップを埋められるように努力を続けました。

それと同時に、全国の拠点を回り社員たちとの意見交換も行い、各部署や各拠点の状況の理解に努めました。弊社は社員数が約500人とそこまで多くないので、実際に現地を知ることが最善・最速の手段だと考えたのです。

現在も全国の拠点訪問は続けており、できるだけ社員と近い距離間で仕事をする「現場主義」を大切にしています。

ナビタで築いた基盤を最大限活用するには

ーー「ナビタ」以外に、今後どのようなテーマに注力していきたいですか?

德毛孝裕:
今後はナビタを基盤としながら、既存事業に新しい価値を加える方向で事業の幅を広げていく予定です。

現在の取り組みとしては、防災ソリューションとして、防災用の避難案内板にランプやスピーカーを組み合わせて注意喚起を促す「NAVIアラート」というものがあります。このソリューションはナビタとの親和性が高い分野ですので、既存顧客である自治体などへの新たな提案として推進していきます。

また、デジタルサイネージの需要の高まりを受けて、これまでの運用から蓄積された技術的ノウハウや知見等を活かして、デジタルサイネージに関連するサービス分野を強化していく予定です。すでに成果があり、2024年には札幌の商業施設「BiVi新さっぽろ」でのデジタルサイネージ運用が評価され、「デジタルサイネージアワード2024」の優秀賞を受賞しました。

さらに、Webサービスでは、訪日観光客の増加に伴い、家電量販店やドラッグストアなどへの集客をサポートする「免税店検索サイト」の運営をより活発化させる予定です。訪日観光客は今後も増加が見込まれるため、しっかり成長させていきたいです。

ーー貴社の今後の展望についてお聞かせください。

德毛孝裕:
弊社は、今後もナビタをコア事業に据えつつ、周辺領域の拡大を進めることで、新たな顧客との出会いや、ビジネスチャンスを創出していきたいと考えています。
そのためには、これまで培ってきたノウハウや既存顧客との信頼関係を基礎として、パートナー企業との協力により価値を生み出していくことが重要です。

また、デジタルの力でナビタにより多くの機能を搭載したり、緊急時に役立つ情報を盛り込むことで、ナビタをより多くの方に役立つ情報媒体へと進化させていきたいとも考えています。
これからも、多くの方々が見るナビタという周辺案内地図を広く社会に提供し続ける責任をしっかり持ち、皆様の生活を安全で豊かなものにする一助を担うことができればと考えています。

編集後記

表示灯株式会社が持つ「ナビタ」というコア事業の強固さは、もはや社会インフラの域にあると言っても差し支えないだろう。広告や地図のデジタル化が当たり前になった今、各地に設置されたナビタがネットワーク網として働く日も近いはずだ。

德毛社長はこのアドバンテージを活用して、社会にどんな価値を与えていくのか。表示灯が踏み出す次の一歩に注目が集まる。

德毛孝裕/1990年に大学を卒業後、日本電信電話株式会社に入社。固定および携帯電話における営業・サービス開発をはじめ、国内はもちろん海外事業に至るまで通信分野に関する幅広い業務に携わる。2020年、表示灯株式会社入社。執行役員 生産本部副本部長、執行役員 名古屋支社長、副社長執行役員を経て2022年より現職。