静岡県浜松市を拠点に、ホテルや葬儀など多角的な事業を展開している「株式会社かねはら」は、満足度の高い地域密着型経営で知られる会社だ。
同社を率いる代表取締役社長の金原基晴氏は、父が創業した事業を受け継ぎつつ、お客様との「信頼」を第一に、地域社会に愛される企業づくりを続けている。そんな金原社長に、経営者としての哲学や会社の強み、困難の乗り越え方などを聞いた。
父の会社を継ぎ、独自の経営哲学でさらなる成長へと導く
ーー社長の経歴についてお聞かせください。
金原基晴:
弊社は父が創業した会社で、もとは食品加工や食品卸売などを行っていました。今のような多角経営になったのは、私が大学2年生のときに、スイミングスクール事業を始めたことがきっかけです。
大学を卒業しても、私は会社を継ぐつもりはありませんでした。しかし、父がホテル事業を始めるタイミングで、「ホテルを始めるから帰って来い」と誘われ、父の熱意に応える形で、かねはらに入社することになったのです。
初期のホテル運営は、ホテル事業の知識がなかったこともあり、苦難の連続でした。特に苦しかったのが結婚式場の宴会事業です。スタッフや施設の運用がうまくいかず、採算が取れない状況が続いたのです。
それでも、地域のために必要なサービスを提供するためにスタッフ一丸となり、課題を一つずつクリアし、これまでにホテルやスポーツクラブ、葬儀事業など、地域に根ざした多角的な事業を展開してきました。
ーー経営者としての哲学やこれまでの取り組みについて教えてください。
金原基晴:
私が特に大切にしているのは「従業員満足度を上げると、結果的に顧客満足度も上がる」という考え方です。私は、従業員に対して「人手が足りなければ採用すればよい」という考えを持つようでは、長期的な発展は難しいと考えています。
日ごろから従業員と対等な目線で接し、信頼関係をつくり上げてこそ、組織の一体感が生まれ、会社が成長していくのです。たとえば、従業員に感謝の気持ちを伝えるときに、直接伝えるだけでも、従業員のやる気は大きく変わります。
お客様との「信頼関係」という財産こそが成長のカギ
ーー貴社の事業内容や強みを教えてください。
金原基晴:
弊社では、静岡県浜松市にあるホテル「はまきたプラザホテル」と、葬儀場「セレモニープラザとわに」の運営を行っています。また、過去にはスポーツクラブも運営していました。
一見すると、事業に共通点がないように見えますが、これらはすべて、地域に根ざした事業を通じて、お客様と共に成長することを目的としています。そのため、どの事業もお客様の満足を最優先に考えています。
たとえば葬儀事業では、故人やご遺族の思いを最大限に尊重し、用意してほしいものや、してほしいことなどに可能な限り対応しています。また、過去に手掛けていたスポーツクラブ事業では「社交の場」としての意識を重視して、会員同士の交流を促進する工夫を凝らしていました。スポーツクラブの月あたりの退会率が、業界平均の約5%を大きく下回る約1%だったのは、今でも誇れることです。
このように、弊社のサービスは、表面的な質よりもお客様との信頼関係という根本部分を重視しています。従業員との関係と同様に、お客様とも対等な目線を持つべくアンケートにも力を入れており、徹底的な対話によって、お客様が本当に求めているサービスを追及しています。
お客様からのアンケート回収率は95%以上と高く、さらに自由記述欄もほぼ埋められているのが自慢です。多くのお客様が本音を言える環境を整えることで、データに基づいた環境改善を実現しています。
ーーコロナ禍では大きな困難を伴ったそうですが、どのように乗り越えたのですか?
金原基晴:
コロナ禍のときに強く意識したのは、弊社の強みを最大限活かすことです。コロナ禍では、宿泊や宴会の稼働率が大幅に低下し、売上が30%ほど落ち込む局面もありました。小手先の対応では解決できない状況にあるからこそ、普段と同じことはせず、サービスの本質的な部分である「強み」を追及する道を探すことが大切だと考えたのです。
このときも、アンケートの高い回収率が大きな力になってくれました。アンケートから、可能なかぎり意見を吸い上げていき、真摯に対応していくことが、弊社の強みを強化する最短ルートになると考えたのです。
また、先が見えない状況の中でも前を向けるように、社内を良好な雰囲気に保ち、従業員を元気づけることも欠かしませんでした。強みを磨く姿勢と、従業員の前向きな姿勢の両方があったからこそ、大きな危機を乗り越えられたのではないでしょうか。
変わらず必要とされ続けるためには、組織が変わっていくことが必要
ーー今後の注力テーマと、会社の長期的な目標をお聞かせください。
金原基晴:
現在、特に注力しているのは「経営幹部の育成」と「DXの推進」です。経営幹部の育成については、現在、役職ごとに職務を明確化し、業務範囲の定義を進めています。役職ごとの姿を具体化することで、社員がキャリアパスをイメージしやすくする狙いがあります。
また、DXの推進については、資料のペーパーレス化やクラウド管理、勤怠管理や経費精算の完全なデジタル化などを行い、業務効率化を図っています。さらに、従業員のスキルアップのためにリスキリングプログラムも導入しました。
弊社の目標は、地域に愛される企業であり続けることです。そのためにも、前向きな変化が求められますが、中でも、従業員が働きやすい環境を整えることが大切であると考えます。これからも、お客様との信頼を第一に、地域社会に必要とされる存在であり続ける所存です。
編集後記
アンケート回収率約95%という数字は、努力しても簡単に到達できるものではない。この数字からは、同社の「顧客を理解しよう」という姿勢が感じられる。今後、新たな事業を始めたとしても、その根底には顧客への理解を深めたいという姿勢があるため、地域から愛されるサービスへと成長できるはずだ。金原社長の「地域に愛される企業であり続ける」ための挑戦は、ますますその意義を増していくだろう。
金原基晴/1962年静岡県生まれ。1985年株式会社かねはら入社。会社の長期的な成長を目指し、人材育成とチーム構築を両立した経営ノウハウを磨く。2002年代表取締役社長に就任。浜松で一番「ありがとう」があふれる会社を目指して奮闘中。