※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

半導体産業の景気変動に左右される製造業界では、安定した経営基盤の構築が長年の課題とされてきた。特に板金加工を主力とする中小企業は、需要の波に翻弄され続け、事業の多角化や新規分野への参入が求められている。

そうした中、伝統的な板金技術を基盤としながらも、半導体製造装置のメンテナンス事業や医療機器分野へ事業領域を拡大し、着実な成長を遂げる株式会社エイム。板金加工の技術を活かし、時代の変化に柔軟に対応しながら、100年企業を目指すという代表取締役の小山慎吾氏に、経営哲学と戦略について、お話をうかがった。

赤字経営から経常利益率10%への挑戦

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

小山慎吾:
大学卒業後、すぐに家業である弊社に入社するのではなく、半導体製造装置のメンテナンス事業を営む関連会社に就職しました。その会社で学んで4年が過ぎた頃に、リーマン・ショックが発生し、多くの企業が苦境に立たされたため、予定を早めて弊社に戻ったのです。

入社後は電源修理事業の立ち上げに携わり、協業会社がある韓国に1年間駐在して経験を積みました。以前は、能力のあるほかの誰かが経営を引き継ぐべきだと考えていましたが、2011年に起業家養成講座に参加したことが転機になり、意識が大きく変化しました。祖父が59歳で亡くなったこと、会社を支えてきた社員たちの献身、そして創業者の思いに触れ、自分が経営を受け継ぐべきだと決意したのです。

2015年に役員に就任した当時、会社は2期連続の赤字で自己資本比率も低く、社内の士気も低迷していました。しかし、自己資本比率を10倍にし、経常利益率10%を達成するなど、遠い目標に思えた挑戦に全力で取り組み、経営再建を果たしたのです。そして2022年に代表取締役に就任し、企業の成長と永続に向けた新たな舵取りを担うことになりました。

溶接技術を駆使した水素カプセルの開発

ーー主な事業内容や強みをお聞かせください。

小山慎吾:
創業以来、弊社が中心としているのは金属板の多様な加工を行う板金事業です。主に半導体装置メーカーから依頼を受け、筐体フレームなどを納品しています。溶接の仕上がりの良さを高く評価され、お客様から信頼をいただいています。

また、半導体製造装置のメンテナンス事業、レーザー溶接機の開発、そして酸素・水素カプセルの製造・販売など、新たな分野への展開も積極的に行っています。板金事業が半導体業界の景気に左右されやすい一方で、メンテナンス事業やカプセル事業で補完できるようになり、安定的な成長を実現できるようになりました。

ーーカプセル事業について詳しく教えてください。

小山慎吾:
カプセル事業は、酸素カプセルメーカーからの「アルミ製で酸素カプセルを作りたいが、酸素が漏れて困っている」という依頼から始まりました。私たちエイムの得意とする溶接技術を活かし、試行錯誤を重ねた結果、従来の鉄やステンレス製より軽量なアルミニウム製酸素カプセルを実現しました。そして、新たな市場への可能性を求め、水素カプセルの開発に挑戦したのです。

水素カプセルの開発は、世間で注目されていた水素の健康効果に着目したもので、酸素カプセルで培った技術を応用しつつ、より高い気密性を実現するため多くの困難が伴いました。そこで大学の研究者と協力し、ようやく独自の水素発生システムを組み込むことに成功します。開発には約2年を要しましたが、2016年には世界初の高気圧水素カプセルが誕生しました。

この水素カプセルは、体内の酸化ストレスを軽減し、疲労回復やリラクゼーション効果が期待されています。すでにサロンやスポーツチームへの導入が進むとともに、アスリートのパフォーマンス向上や、企業の福利厚生にも活用されています。現在は、医療機器としての認証取得も視野にいれています。

人材育成と新分野展開で描く創業100年へのロードマップ

ーー人材育成について、どのように考えていますか?

小山慎吾:
企業の成功には、社員一人ひとりの成長が欠かせません。特に弊社では、技術力はもちろんのこと、人間性を高めることを重視しています。優れた知恵や行動力を備えた人材を育てることが企業文化の礎でもあります。そのため、単なるスキル習得に留まらず、人間性と技術の両面からバランスの取れた社員を育てることを目指しています。こうした社員が増えることで、会社全体が成長し、持続的に発展していけると考えています。

ーー未来への展望についてお聞かせください。

小山慎吾:
2062年の創業100周年を一つの節目として、「成功する企業は成功するために行動する」という理念のもと、「100年専念企業」というビジョンを掲げ、成功に向けた行動に専念する決意を示しています。

具体的には、既存顧客との関係強化や自社製品の販路拡大、さらに水素カプセルの海外展開や人材育成の強化を図る予定です。また、半導体産業だけでなく、医療機器や防衛産業など、新たな分野への展開も視野に入れています。

私は、創業100周年の年に80歳を迎えます。20代でどのような仕事に取り組み、30代でどのような考えを持ち、40代でどのような人脈をつくり、50代でどのような人材を育成し、60代でどのように健康に向き合ったかを大切にし、それが集大成となって現れる70代に幸せだったと言えるように80歳まで努力を重ねていきたいですね。

編集後記

半導体産業の波に翻弄されがちな板金加工業から、事業多角化に挑む姿勢は、まさに未来を拓く挑戦そのものだ。特に印象的だったのは「100年専念企業」というビジョンだ。単に長寿企業を目指すのではなく、社会に貢献し続ける企業であろうとする姿勢に、経営者としての覚悟を感じた。技術と志を継承しつつ、新たな価値を創造し続ける株式会社エイムの今後の展開が楽しみだ。

小山慎吾/東邦大学卒業。関連企業で4年間就業した後に株式会社エイムに入社。2015年、役員就任。2022年に代表取締役就任。