※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

「よそでやっていないことをやりたい」という創業者の志から、日本初の粉体塗装技術を実用化し、塗装専門会社として地位を築いた筒井工業株式会社。現在は、新たにコンサルティング事業を展開し、人材課題の解決支援も行っている。

代表取締役社長の前島氏は「自社が直面した課題を乗り越えた経験があるからこそ、説得力のある支援が可能だ」と語る。同社はどのようにして困難を克服し、新たな事業展開に至ったのか。その道のりについて、話を聞いた。

日本初の粉体塗装、環境配慮型塗装の先駆者

ーー入社から社長就任までの経緯を教えてください。

前島靖浩:
私は、大企業には向かないと自覚していたので、中小企業を中心に就職活動をしていました。大学では化学専攻だったこともあり、塗装を手掛ける筒井工業を選んだことが入社のきっかけです。

入社後は技術部に配属され、技術開発に携わりました。その後、品質管理や製造部門を経験し、35歳頃からはマネジメント業務が主体でした。このように、オールラウンドな経験を経て2017年に代表取締役社長に就任しました。創業者との血縁はなく、いわゆるプロパー(自社採用)出身の社長です。

ーー貴社の事業について、お聞かせ願えますか。

前島靖浩:
弊社は粉体塗装を専門とする塗装会社です。この技術は環境に優しい塗装システムで、日本国内では珍しいものです。もともとは一般的な溶剤塗装を手掛けていましたが、創業者の「他社がやらないことに挑戦したい」との思いから、「海外では粉体塗装というものがあるらしい」と聞きつけて研究を始め、日本で初めて実用化に成功しました。

現在の事業の主軸は塗装ですが、もう一つの柱としてコンサルティング事業も展開しています。企業が抱える人材確保、組織活性化、人材育成などの課題に対し、弊社の経験を活かして解決のお手伝いをしています。

この事業は、弊社が直面した課題を乗り越えた経験をもとに始まりました。「製造業なのにコンサルティング?」と驚かれることも多いですが、「他社がやらないことをやる」という創業者の精神は、今も受け継がれているのです。

離職率改善から始まった社内風土改革

ーー社長に就任されてから直面した問題について教えてください。

前島靖浩:
弊社では、人材が定着せず、離職率が高いという深刻な問題を抱えていました。これにより、常に人手不足に悩まされていたのです。社長就任後、最初に取り組むべき大きな課題は、この状況を改善することでした。

以前は、昭和的な上からの頭ごなしの指導が根付いていたのですが、それでは人材が定着しないと痛感しました。そこで、上下関係にとらわれず、価値観を尊重し合う職場づくりを目指した「働きがい改革」に取り組みました。おかげさまで、今では「社員全員が生き生きと頑張ることができる組織」になったと自負しています。

ーー社内改革のために具体的に取り入れた方法は何ですか。

前島靖浩:
いくつかの仕組みを導入しましたが、特に効果を上げたのが「個人日報制度」です。入社後1年間、新人は毎日「日報」を書き、教育係に提出します。内容は、できたこと、失敗したこと、疑問点など、何でも構いません。教育係はそれに目を通し、フィードバックを行います。製造部長もコメントを加えることで、新人が一定のスキルを身につけるまで丁寧にサポートします。

また、新人支援の一環として導入した「メンター制度」も成果を上げています。後輩がメンタル面の問題を抱えた際に、「先輩、相談があります」と気軽に声をかけられる制度です。弊社では、メンティー(指導や助言を受ける側)が自分に合ったメンター(指導や助言をする側)を選べる制度を採用しています。

メンターのモチベーション維持も重視しています。メンター制度が崩れる大きな要因は、メンター自身がやる気を失うことです。それを防ぐため、メンタリングにやりがいと誇りを持てる環境を整えました。たとえば、面談が業務時間外に及んだ場合は残業手当を支給します。

また、「社外でご飯を食べながら面談していいよ制度」を設け、1回につき1人1000円の予算をつけています。このような工夫により、メンター制度が効果的に機能しています。

実践知を活かしたコンサルティング事業展開

ーー貴社の強みを教えてください。

前島靖浩:
国内では珍しい塗装技術を持つことはもちろんですが、自社で実践してきた経験を活かしたコンサルティング事業を展開している点も、大きな強みです。コンサルティング事業では、採用や人材定着・活性化、さらにはミッション・ビジョン構築のサポートを行っています。

提供する内容は弊社が実際に取り組み、成果を上げてきたものばかりです。そのため、具体性と説得力に優れていることが特徴です。実践によって変容した弊社の姿を見ていただくことで、さらなる信頼を得ています。

ーー貴社の大きな特徴はどこにありますか。

前島靖浩:
20代の社員たちによれば、友人に会社の話をすると羨ましがられるといいます。友人の中には、職場環境に不満を持ち、転職を考えている人も少なくないようです。

一方、弊社では「働きがい改革」を経て、全社員にとって働きやすい職場を実現できたと確信しています。たとえば、工場を訪れた方々が、「社員さんの挨拶がすばらしいですね」とそろって評価してくださいますが、挨拶を指導したことは一度もありません。「ここで働くのが楽しい」「やりがいがある」という社員の気持ちが自然と笑顔や挨拶に表れているのだと思います。こうした良い循環こそが、弊社の大きな特徴だと感じています。

また、これまでも中途採用で、「この会社で働きたい!」と自らエントリーし、入社してくれた方が4名います。いずれも当社にとって、なくてはならない人財に成長しています。これも、弊社の魅力を物語る特徴の一つといえるでしょう。

編集後記

大学で化学を専攻していた前島社長が塗装専門の企業に入社するのは自然な選択だったかもしれない。しかし、40代前半で社長に就任し、数々の困難を乗り越えてきた経験を生かし、コンサルティング事業にまで手を広げる未来を誰が予想できただろう。

「よそでやっていないことをやりたい」という創業者の志をしっかりと受け継ぎながら、アグレッシブに会社を牽引する前島社長。次にどのようなビジョンを示し、会社や社員をどこへ導くのか。社員をはじめ関係者全員が、その未来を期待とともに見つめているに違いない。

前島靖浩/1972年、愛知県生まれ。名古屋工業大学卒業後、筒井工業株式会社に入社。技術部での製品開発や生産技術担当などを経て、技術部長に昇格ののち、2017年、代表取締役社長に就任。深刻な人材不足に悩まされて「働きがい改革」を断行、そのノウハウをパッケージ化して伝授するコンサルティング事業を創設した。