
核融合発電の実用化に向けて重要な役割を担う株式会社MiRESSOは、レアメタルの一種であるベリリウムの安定的な供給を目指す企業だ。同社は、従来2000℃で行われていた精製プロセスを300℃以下に低温化するという画期的な技術を持ち、現在は本格的な事業展開に向けて準備を進めている。ベリリウムの研究者として活躍し、経営者へと転身した代表取締役CEOの中道勝氏に話をうかがった。
「何かを残したい」という思いが導いた経営者への転身
ーー起業した経緯をおうかがいできますか。
中道勝:
高校時代の物理の授業がきっかけで、原子核という小さなものから膨大なエネルギーが生まれることに魅力を感じ、研究者の道を選びました。そのころから、「何かを残したい」という漠然とした思いを持っていました。大学へ進学したころ、親戚のおじさんから「中東で石油プラントをつくっている」という話を聞く機会がありましたが、成果が目に見える形で残る仕事に憧れを抱いたことを覚えています。
大学を卒業した後は、日本原子力研究所(現在の量子科学技術研究開発機構)でベリリウムという金属の研究職に就きました。ベリリウムは核融合に不可欠ですが、精製に多くのエネルギーを要するという課題を抱える金属。その問題に対して、従来の高温での精製方法を大幅に改良し、エネルギーを抑えて低温で精製できる技術を開発しました。しかし、今度は実用化が進まない状況に陥りました。そこで、自ら事業化に挑戦することを決意し、起業に踏み切りました。
ーー経営者への転身で大変だったことをお聞かせください。
中道勝:
最も大変だったのは、研究機関では当たり前だった支援体制がなくなったことです。研究者時代は技術的な研究に集中していれば良かったのですが、経営者になると多くのことを自分で対応しなければなりません。そのギャップに苦労しました。ただ、この経験を通じて会社というものは多くの人によって支えられているのだと実感することができました。その影響もあり、現在は、知識と経験を持つ社員たちが活躍できるように支え、責任は私が持つというスタンスで会社を運営しています。
マイクロ波加熱による精製で鉱物資源の可能性を広げる

ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。
中道勝:
弊社の主力事業は、核融合発電に不可欠なベリリウムという希少金属の製造・販売です。ベリリウムは核融合反応で生まれる中性子を増やす重要な役割を担っています。そのため、核融合炉には大量のベリリウムが必要となります。しかし、現在の世界生産量は年間300トンほどで、1基の核融合炉には350トン以上が必要という深刻な供給不足に直面しています。
この状況を解決するため、弊社ではベリリウムの安定的な供給体制の構築を目指しています。現在は、国の補助金を得て年間1トン規模のパイロットプラント(※1)を整備中で、技術実証を進めているところです。将来的には年間100トン規模の量産プラントの稼働を計画しており、核融合発電の社会実装に向けた基盤づくりに取り組んでいます。
(※1)パイロットプラント:本格的な工場を建てる前に、製造プロセスや設備の性能を試験するための、中規模の工場や施設のこと
ーー技術的な強みについてお聞かせください。
中道勝:
最大の強みは、独自に開発したマイクロ波加熱による低温精製技術にあります。ベリリウムのもととなる鉱石のベリルは、従来の方法では2000℃という極めて高い温度での処理が必要でした。しかし、弊社の技術では、アルカリ試薬と組み合わせることで300℃以下での処理を実現できるため、精製コストを大幅に抑えられます。
さらに注目していただきたいのは、この技術がベリリウム以外のさまざまな鉱物にも応用できることです。EVバッテリーに必要なレアメタルや、海洋鉱物資源など、高温処理を必要とする多くの鉱物を同様に低温で処理できます。ベリリウムの供給体制が整った後は、この技術を幅広く展開していきたいです。
学生時代からの夢を、ベリリウムの供給で形にしていく
ーー今後の展望についてお聞かせください。
中道勝:
具体的な目標として、2031年に量産プラント稼働を実現したいと考えています。現在のパイロットプラントから次のステップへ進むには、技術実証と同時に大規模な資金調達も必要となります。しかし、これらの壁を乗り越えれば、学生時代から抱き続けてきた「何かを残したい」という思いを形にできます。
将来、核融合炉が実際に稼働した暁には「ここに入っているベリリウムという材料は私が提供しています」と胸を張って言いたいですね。次世代エネルギーの実現に向けて、確実に歴史に刻まれる仕事を成し遂げていきたいと思います。
編集後記
研究者から経営者へ転身した中道社長。社長が語る言葉一つひとつに、研究成果を社会へ届けたいという強い責任感と熱い思いを感じた。そして、最先端技術を社会の力とするには、卓越した技術のみならず、事業を成功に導く経営力こそが不可欠だと改めて認識させられた。「何かを残したい」という学生時代の情熱は、今、世界的なエネルギー課題の解決という壮大な事業へと昇華しつつあるようだ。

中道勝/近畿大学理工学部原子炉工学科卒業。東北大学大学院工学研究科博士課程修了。量子科学技術研究開発機構(QST)において増殖機能材料開発グループリーダー、IEA国際協力におけるベリリウム国際会議国際執行委員元日本代表など、長年に渡ってベリリウムの研究開発に従事。2023年に鉱物資源、特にベリリウムの安定供給に貢献すべく、株式会社MiRESSOを設立し、代表取締役CEOに就任。専門分野は、核融合炉ブランケット工学、照射技術、計装技術。