※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

静岡県磐田市にある株式会社トリガーは、自社製造・直販体制を武器に、刃物製造というニッチな分野で確かな存在感を放つ企業だ。

今回話をうかがったのは、専務として営業や経営管理を担い、組織改革に尽力してきた宮崎 兆司氏。人材育成、EC展開、働き方改革など、中小企業の強みを活かした「共に働く場づくり」の工夫を紐解いていく。

信頼を高める「フェイス・トゥ・フェイス営業」で顧客を拡大

ーー株式会社トリガーへ入社された頃について、お聞かせいただけますか。

宮崎兆司:
大学卒業後、都内の会社に就職して2年ほど営業を経験した後、1998年に親孝行をする気持ちで家業である株式会社トリガーへ入社しました。入社当初は製造部門で働いていたのですが、しばらくして、兄がフィリピン工場の現地対応を本格的に担うようになったタイミングで、私が日本国内の営業や経営管理といった全体を見る立場へシフト。兄弟それぞれが、お互いの得意分野に専念できるようになったことで、会社全体の動きがスムーズになったと感じています。

ーー営業担当を家族中心に切り替えたそうですが、どんな意図があるのでしょうか。

宮崎兆司:
近年、営業は私と息子で担当することにしています。これまで営業担当の社員がいても1〜2年で退職してしまうこともあり、短期間で担当が変わってしまうと、顧客からの信頼が失われてしまいます。「営業は会社の顔」という考え方から、会社のことを理解し、これからも長く勤め続けるであろう人間が前面に立つ必要があると考えています。

営業活動で大切にしているのは、できる限りお客様と直接顔を合わせる機会を持つことです。また、展示会やEC経由の問い合わせにもスピード感を持って対応しています。

さらに、営業担当が製品に対する理解を深め、特徴や使い方を自分の言葉で説明できるように努力を続けています。そうすることで、お客様との信頼関係が自然と深まるからです。最近では営業スタッフが製造現場を見学する機会も増やしており、より深い商品理解を促しています。

個の力を引き出す制度と直販体制で競争力を強化

ーー業務を通じて見えてきた課題について教えてください。

宮崎兆司:
大きな課題は人材確保と社員教育です。若手が安心して働ける体制を整え、営業以外のポジションにも徐々に権限を移譲していくことを目指しています。また、家族経営の良さを活かしながら、未来の担い手を育てていきたいですね。

ーー組織づくりにおいて、工夫されていることはありますか。

宮崎兆司:
弊社は各部署に担当が1人、通販部門のみ2人という少人数体制を取っており、過剰な監視はせず、各人が責任をもって業務に取り組めるようにしています。これが働きやすさにもつながっており、自分で判断して動ける環境があるからこそ、社員の主体性も高まっていると感じます。

また、人事制度の面では、社員の頑張りをしっかり評価するために残業代を1分単位で支給したり、給与アップの基準を明示をしています。地方企業にとって、給与水準の明確化は重要な競争力ですね。

働いている側からすれば、今の会社に勤務しながらも、条件面で「給与が良い」「残業がない」「休みが欲しい」など、常に条件の良い会社(転職先)を探しているのが本音です。会社としてすべてを整えてあげることは難しいですが、給与や残業の面で納得感があることは重要だと思っています。弊社は評価と報酬が連動する制度にしてから、女性スタッフの定着率が上がりました。

顧客の声が製品を進化させる。個の力を伸ばし組織を強化する

ーー直販体制の強化についてもお聞かせください。

宮崎兆司:
現在、フィリピン工場との連携で製品を製造し、ECや展示会で直接販売する仕組みを構築中です。中間コストを削減しながらも、電話対応などはすべて自社で行っており、お客様の声を直接の声を聞くことで、信頼感にもつながり、製品開発にも反映しやすくなると考えています。

ーー今後、どのような組織を目指していきたいですか。

宮崎兆司:
今後は、製造や総務などのバックオフィスを含めた全体的な底上げを図っていきたいです。また、個人の裁量を尊重しつつ、若手にも積極的に挑戦の機会を与えていく方針です。「成長したい」「挑戦したい」という気持ちがある方にとっては、非常に自由度が高く、やりがいのある環境だと思います。一緒に会社をつくっていく仲間として、未来をともに描いていけたら嬉しいですね。

編集後記

「顔が見える営業」体制の整備と、制度面からの働きやすさの追求。この両輪で事業を着実に成長させてきたのが、宮崎氏の実直な取り組みだと感じた。取材前は「家族経営」という言葉に少し懐疑的な印象を持っていたが、信頼と納得をベースにした制度設計や、役割分担の明確化など、感情に頼らない持続可能な体制が整っており、その印象は大きく覆された。中小企業のあり方を見つめ直すヒントが、ここにあるのかもしれない。

宮崎兆司/1998年、株式会社トリガーへ入社。営業と経営管理を中心に会社運営を担い、働き方改革や人事制度の整備に注力。製造拠点であるフィリピン工場との連携やEC展開など、多方面にわたり同社の体制を支える。