※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

雨を建物から遠ざけるだけでなく、建築物の魅力を引き立てる要素として雨といを捉える株式会社タニタハウジングウェア。同社は国内唯一の銅製雨といの製造元であり、ステンレス製雨といも手がける数少ない企業の一つだ。デザイン性の高い商業施設にも採用される製品を生み出す同社の代表取締役社長、谷田泰氏に話を聞いた。

住友林業での9年間が育んだ顧客理解の姿勢

ーー貴社に入社する前はどのような経験をしましたか?

谷田泰:
大学卒業後、将来は家業である弊社に戻ることを前提に就職活動を行いました。当時の弊社は、価格が高い銅製の雨といを中心に取り扱っており、その雨といは木造の高級な建物に使われることが多かったのです。そこで、経験を積むのであれば、木造の建物をつくっている会社に行くのが良いだろうと考え、住友林業株式会社に入社しました。

住友林業では9年間にわたり住宅営業を担当し、建材がどのようにして最終的に住む方の元に届くのか、そのプロセスを肌で感じることができました。また、多くのお客様と接する中で、相手の視点や価値観を理解することの重要性も学びましたね。家を建てる人たちの生活スタイルや考え方を知ることで、製造業として大切な「使う側の目線」を持てたと思います。この経験は、弊社へ入社した後も大きな財産となっています。

樹脂製が主流の市場で金属製に特化し、差別化を図る

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

谷田泰:
弊社は金属製雨といのニッチトップメーカーとして、銅、ステンレス、アルミなど、さまざまな金属素材を用いた製品を製造・販売しています。雨とい市場は樹脂製が主流ですが、その中で弊社は金属製に特化することで、銅製では国内唯一のメーカー、ステンレス製でも数少ないメーカーの1つとして確固たる地位を築いてきました。

弊社製品の最大の強みは、耐久性と意匠性の両立にあります。樹脂製は紫外線で劣化したり色が変わったりしますが、金属製は耐久性に優れるため、美しさを長期間保つことが可能です。また、継ぎ目や金具が目立たない洗練されたデザインは、建物全体の美観を損なわず、むしろ建物の価値を高める要素となるのです。そのため、デザイン性を重視する建築家や高品質な住宅を手がける工務店を中心に高い評価をいただいています。

ーー「雨のみちをデザインする」という理念はどのように生まれたのですか?

谷田泰:
社長就任後に経験したある出来事がきっかけとなり、現在の理念が生まれました。当時、私は製品に対するアドバイスを求めて、弊社の製品を扱ってくれている全国の問屋を回りました。しかし彼らからは「昔は良かった」という過去の話しか聞くことができず、弊社の未来は期待されていないことを痛感したのです。弊社は問屋にとって「過去の会社」になっていました。

そこで「弊社は何のためにあるのか」と根本的な問いを立てました。その問いの末に辿り着いたのが「雨のみちをデザインする」という理念です。この言葉は、雨といを単なる建材ではなく、建物の美観を整える重要な要素として捉え直すことを意味しています。就任から3か月間の経験を経てこの理念が生まれ、以来20年近く大切にしながら経営してきました。

住宅市場を超えて、新たな顧客創造に挑む

ーー建築業界との関わり方についてお聞かせください。

谷田泰:
「雨のみち」という考え方をさらに広く理解してもらうため、2年に1度「屋根のある建築作品コンテスト」を開催しています。これは屋根をテーマとして、弊社の製品を採用した建築デザインを募集するものです。前回は340件ほどの応募があり、多くの方に屋根や雨といについて考えていただく機会となりました。

現状、雨といは建築の付属物として後から考えられることが多いのですが、本来は建物の設計段階から「雨のみち」をどうデザインするかを考えるべきだと思うのです。そうすれば、さらに美しく機能的な建築が実現できるはずです。これからもこのコンテストを通じて、雨といの可能性をさらに追求していきたいと考えています。

ーー最後に今後の展望を教えてください。

谷田泰:
顧客創造は永遠のテーマだと考えているため、住宅市場だけでなく、新しい分野への挑戦を続けていきます。現在、特に力を入れているのが、幼稚園や学校などの非住宅建築物です。近年は国の政策として国産材の活用を増やす動きがあり、大型の木造建築物が増えています。こうした建物は屋根も大きくなるため、それに対応した製品の開発を進めているところです。

また、デザイン性の高い商業施設への展開も進めています。大手コーヒーチェーンの路面店で弊社の製品を採用いただいており、建物の意匠性を大切にする企業との相性が良いと感じています。今後もこうした事例を積み重ねながら、新しい市場を開拓していきたいですね。外観を美しく見せる要素として、より多くの建築物に貢献できれば嬉しく思います。

編集後記

「雨のみちをデザインする」という理念に込められた思いをうかがい、雨といに奥深い世界があることを実感した。眉毛が顔の印象を決めるように、雨といが建物の表情を左右するという谷田社長の比喩は秀逸だ。ニッチな分野で確固たる地位を築きながら、常に新しい価値創造に挑む同社の姿勢は、専門性を活かした経営の模範といえるだろう。

三林 圭介/1964年、東京都生まれ。立教大学卒業。大学卒業後、住友林業株式会社に入社し、9年間に渡って住宅営業を担当。1996年、株式会社タニタハウジングウェアに入社。30代でドラッカーの思想を学ぶとともに、公益社団法人東京青年会議所で社会貢献活動に参加する。2003年、同社代表取締役社長に就任。