※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

ニツコー熔材工業株式会社は、溶接に使う材料やワイヤの製造・販売を生業とする会社。1940年に日興商会として設立され、今では約450種類もの製品を通して顧客の多様なニーズに応えている。

そんな同社の代表取締役、津田育久氏は、営業マンとして長年にわたり活躍してきた人物だ。現在のニツコー熔材工業の経営には、津田社長が営業マン時代に培ってきた経験とノウハウが活かされている。

社長就任後の取り組みについて聞くとともに、営業のプロとして走り続けてきた津田社長が考える「営業の面白さ」について話をうかがった。

営業マンとしての実績を買われ突然の社長就任

ーーまずは、社長就任の経緯について聞かせてください。

津田育久:
1981年に弊社に入社してから、東京支店で29年間ルート販売の営業をしていました。社長に就任したのは、2014年に先代の社長が急逝したことがきっかけです。当時、社長に就任したことで、営業以外の分野の勉強を余儀なくされたことが大変でした。あまりに突然のことだったため、総務や経理、さらに仕入れ先とのつながりなどは、すべて社長になってから学びました。

ただ、目の前の業務に必死に取り組む中でも、社員たちには「お客様に満足していただける製品・サービスを提供し、喜びと感動を与え続ける」という弊社の基本の考えは常に伝え続け、これを行動指針として前に進んできました。

経営に対する責任を重々感じていたため、逃げ出したいとは一切思いませんでしたね。

多品種かつ少量生産を実現することで大企業とも差別化

ーー貴社の事業について教えてください。

津田育久:
弊社は、金属と金属を接合する際に使う溶接材料を製造・販売する会社です。この溶接材料は、ビルやマンションの建設、造船、自動車、建機、工作機械などあらゆる場で使われています。

弊社が他社と差別化している点は、多品種かつ少量生産です。たとえば多くの種類の製品をつくろうとすると、製造する製品の種類を変えるタイミングで機械(塗装機)を1度掃除する必要があるため、完成までに時間がかかるのが一般的です。

しかし弊社の場合は、工場の努力によってこの製品の切り替えにかかる時間を短縮し、短納期での納品を実現しています。実際に、大手企業では納品までに2か月ほどかかる製品も、弊社の場合は3週間ほどで納品できます。

現在は工場全体で85名ほどの人員がおり、製品の数は全部で450種類ほど。450種類のうち、1日あたり最低でも5〜6種類の製品の製造を手がけており、さらにそれぞれの種類ではサイズが複数あります。

弊社のように、1日で5~6種類の製品を複数サイズで製造できる能力を持っている会社は、非常に少ないといえます。

ーー貴社ではどういった考え方を大切にしていますか。

津田育久:
大切にしていることのひとつは、現場力です。社員たちには、私たちの製品を使っている鉄工所や製作所に足を運び、実際に溶接の現場を見てくるように伝えています。製造現場には、製品の改良のヒントがたくさんありますから。

また、実際に製品をつくっている工場の人たちは、自分たちがつくった材料がどういった場所で使われているのか、あまり分かっていないことが少なくありません。

そのため、私は営業として働いていたときから現在に至るまで、自分たちがつくった製品がどこで使われているのかを(営業マンが)工場の職員に共有することに注力してきました。共有することで自分たちの仕事が人々の役に立っていることを実感できますし、工場で働く人々のやりがいにつなげられると考えているからです。

多くの人とのつながりの中で信頼関係を築けるのが営業の面白さ

ーー採用についてはどのように考えていますか。

津田育久:
特に営業マンの採用に課題意識を抱いています。弊社は東南アジアの国々と技術提携を結んでおり、「日亜ブランド」として海外でも知名度がある会社です。海外展開にも力を入れているので、そういった点に魅力を感じてくれる方が営業マンとして会社に入ってくれると嬉しいですね。

また、弊社に入りたいと思ってもらうためには社員たちをより豊かにする必要があると思っているので、賞与などの形で利益の分配をさらに進めていきたいと考えています。

ーー津田社長の営業に対する考え方を聞かせてください。

津田育久:
弊社のルート営業では、商社やディーラー、ユーザーと関わりを持つことになります。商社からディーラーを紹介してもらったり、弊社の製品を使ってくれているユーザーがまた別のユーザーを紹介してくれたりといったこともあります。

この関わり合いの中でいろいろな人と出会いながら、強いつながりや信頼関係を築けるのが、弊社のルート営業の面白さです。

ーー最後に、貴社の魅力について教えてください。

津田育久:
弊社の魅力は、働きやすい環境を構築している点です。どの取引先を訪問するかといった日々の細かなスケジュールは自分で決められますし、上司から厳しくスケジュールを指定されることもありません。働きやすいように毎日の計画を自分で立てられるので、弊社に入社した後は、こういった自由な意思決定を楽しみながら働くことができると思います。

編集後記

営業畑で経験を積み、そのノウハウを社長となった今でも活かしている津田社長。今後は後継者育成にも力を入れ、自身の培ってきた人脈などを伝えていきたいとのこと。

人と人との関係が希薄になりがちな昨今だからこそ、津田社長の「人とのつながり」を大切にする仕事観は貴重であり、結果として多くの取引先の心を掴んでいるのだと感じた。

津田育久/1958年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1981年、ニツコー熔材工業株式会社入社。29年間の東京支店勤務後、2010年に営業本部長として本社に戻り、2014年に代表取締役に就任。