「孤独」を抱えるアーティストやクリエイターを支え、「日本を芸術文化大国にする」ことは、オシロ株式会社の代表取締役、杉山博一氏が思い描く未来だ。
自らの実体験から生まれた革新的なコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」は、クリエイター支援にとどまらず、企業のブランディングや社内コミュニティ活性化にも広がりを見せている。人と人をつなぎ、共感と応援を形にするこの新しいサービスは、どのような思いで、どのようにして生まれたのか。杉山氏にその経歴とともに、サービスにかける思いをうかがった。
アーティストからクリエイターを「お金とエール」両方で支援する起業家へ
ーー創業に至るまでの経緯を教えてください。
杉山博一:
美大在学中にアルバイトとして勤めていたCG制作会社で世界中の遺跡などをCGを使って表現する制作のサポートを行っていました。そのなかで、徐々に実物が見たいという思いが募り、24歳の時にヒッチハイクや電車を乗り継いで世界中の美術館でアートや建築物を見てまわりながら世界一周をしました。
世界一周から帰国したものの、私には会社員になるという選択肢はなく、アーティストとして活動を開始。しかし、「本当にこのまま描き続けていいのだろうか」「いつまで描き続けられるのだろうか」と考えると、不安と孤独を感じ、30歳でアーティスト活動に終止符を打ちました。32歳まではアーティスト時代に食べていくためにやっていたフリーランスデザイナーの仕事を継続して活動し、ありがたいことに海外で表彰されるデザイン賞をいただくこともありました。
その後、ひょんなきっかけから日本初となるIFA(独立系資産運用アドバイザー)法人を共同創業し、事業が軌道に乗って退任してからは日本とニュージーランドの2拠点で生活するようになりました。二国間を行き来する生活を送っていた当時、客観的に日本を眺めて経済力の衰えに危機感を感じるとともに、漠然と日本は芸術文化に舵を取らなければ生き残れないのではないかと考え始めました。
アーティストやクリエイターが活動を続けるためにはどうしたらいいのか。私自身が両方の経験があるため、当時のことを振り返りながら考え続けました。その結果、必要なのは「お金とエール」の両方だと気づきました。どちらか一方だけでは、クリエイティブな活動を続けるのは難しいのです。
海外のITサービスを日本に導入できないかと思い探しましたが、毎月アーティストを応援できるサービスは多く存在するものの、「お金とエール」の両方を兼ね備えるサービスはありませんでした。
それならば自分たちでつくるしかないと決意し、プロダクト開発を開始。2015年末にコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」のβ版をリリースしました。「OSIRO」という名前は、アーティストに一国一城の主になってもらいたいという願いを込めた「お城」からの命名です。そして2017年、「OSIRO」をプロダクトとして洗練させ、より大きな社会的インパクトをもたらすサービスとするために、オシロ株式会社を設立しました。
クリエイター支援、企業のブランディング、そして社内コミュニティへ
ーー改めて、貴社の事業内容についてお聞かせください。
杉山博一:
われわれは「日本を芸術文化大国にする」をミッションとして掲げています。そのためには、クリエイターやアーティストが活動を続けられる仕組みが必要です。そこで、「OSIRO」のサービスを通して毎月一定の金額を支援できたり、支援者がクリエイターに対して抱く熱い思いを直接伝えたりできる場を提供しています。
現在、当システムにはクリエイターだけでなく、企業からも問い合わせがあり、活用いただいています。
ーークリエイターの支援以外ではどのように利用されていますか?
杉山博一:
企業で導入される場合には、ブランディングに利用されることが多いですね。たとえば、出版社が作品のファンに、その作品を語り合う場を提供することで、コミュニティで生まれたコンテンツがメディアに掲載されるなど、作品の魅力が広がっていきます。
また、熱意あるメンバーが書いた記事に対してコメントが書き込めるため、コミュニティ内でやりとりが発生します。その結果、コミュニティの中でさらにその作品を応援したいという気持ちが醸成されるのです。
弊社の特徴は、ただサービスを提供するだけではなく、コミュニティの設計から運営のサポートを通じて、コミュニティ運営者さまと伴走させていただくことです。
クリエイター向け、企業向けの他に、今お引き合いが増えているのが社内コミュニティ向けです。たとえばM&A後のリブランディングで、今まで別会社だった社員同士がコミュニケーションを深める場としての活用が想定されます。クリエイター向けも企業向けも社内向けでは対象者は異なりますが、コミュニティに参加するメンバー同士の絆を深め「人と人が仲良くなる」という当初から抱いている開発思想は、すべての導入シーンに共通して提供している価値といえます。
「孤独」を解消し幸福度向上を目指すコミュニティ事業
ーー社内コミュニティツールも含めて、オシロはどのような未来を描いていますか?
杉山博一:
WHOが2023年に「社会的つながりに関する委員会」の新設を発表したように、現在、先進国においては「孤独」が大きな課題として存在します。発展途上国の課題解決のために海外に赴く人がいる一方で、先進国が抱える課題はあまり意識されません。しかし、私たちはあえてそこに焦点を当てようと考えています。
アーティストやクリエイターの方々がOSIROを活用することで、孤独を解消すると同時に創作活動を継続していけます。また、ファンにとってもOSIROのコミュニティに入ることで、ファンとファン同士が横でつながり、絆を深めることで孤独を和らげることができるのです。これは、企業や社内の人々の場合でも同じです。
そのような未来を目指し、コミュニティの中でつながりが生まれ、「人と人が仲良くなる」プロセスについて、科学的に解明していく必要があると感じています。職場での悩みに人間関係が多いことはよく聞きますが、「孤独」や「人間関係」が解消されれば、人はもっと幸せになれるでしょう。
OSIROを世界中に展開することで、世界の幸福度が向上することを願っています。
編集後記
「一度も会社員として働いたことがなく、常に自分の理想を形にしてきた」と語る杉山氏。同社には同様に情熱を持ち、ミッションに共感してクリエイターを応援したいと手を挙げ、人のつながり価値を探求し続ける社員が多いという。
単にツールを開発するだけではなく、人間関係を科学的に追い求める挑戦を続けるオシロ株式会社は、孤独に悩む人々にとって欠かせない存在になっていくだろう。そのとき日本は芸術文化大国と呼ばれ、さらに成長を加速させるに違いない。
杉山博一/1973年東京生まれ。世界一周後、アーティスト&デザイナーとして活動、30歳を機にアーティスト活動に終止符。32歳で金融サービスを共同で創業(2024年IPO)。外資系IT企業の日本法人代表を経て、2017年コミュニティに特化したオウンド・プラットフォームを開発、提供するオシロを創業。これまで、クリエイター、ブランド企業、メディア、国のプロジェクトなどを含む、300強のコミュニティを創出。