コロナ禍で消費が低迷する中、アパレル業界は苦戦を強いられた。しかし「困難な時こそチャンスがある」。この信念のもと、2020年、上田崇敦氏は父から経営のバトンを受け取った。インナーウェアの常識を覆す「かわいい」の価値観で、女性客の心をつかんできた老舗チュチュアンナは第2創業期を迎え、積極的に組織改革を行っている。そんな株式会社チュチュアンナの代表取締役、上田崇敦氏に、女性だけでなく男性や子ども向けの商品開発について、さらには海外への進出など今後の展開についてお話をうかがった。
挫折を乗り越えた家業への回帰と成長の決意
ーー株式会社チュチュアンナに入社するまでの経緯を教えてください。
上田崇敦:
私は上田家の長男として、家業を継ぐものと考えていたため、就職活動の際「チュチュアンナに入社したい」と申し出ましたが、当時の社長である父に断られました。そこで、同業であるインナーウェア会社に就職しましたが、仕事に全く興味を持てず、1年半で退社しています。小さい頃から父が働く姿を見て、仕事は楽しいものだと思っていたので、違和感が大きかったのです。
その後、24歳でビジネスの世界から完全に離れることを決心しました。このとき、父の反対を受けて対立しましたが「自分の人生だから」と押し通し、自分の道を歩み始めました。
仕事の関係で福岡に移って2年目の30歳のときに、父から「事業承継してほしい」と相談されました。孫が生まれたこともあって親子の交流も戻っていた時期で、父は私を評価してくれていたのだと思います。また、私自身も30歳になり、育ててくれた父親と会社への感謝の気持ちから、家業に入ることを決意しました。
ーーコロナ禍での社長就任で、ご苦労があったのではないですか。
上田崇敦:
社長に就任した当初は強い意欲を持ち、外部環境にかかわらず、努力すれば結果が付いてくると信じていました。しかし、実際には2年3年経っても結果が出ず、本当に苦しかったですね。取締役会でも会長から厳しい指摘を受け続けました。
それでも、創業者主導のトップダウン経営から、部門長を中心とした組織経営への移行を進めました。父の代から「逆張り」の精神を大切にしてきたため、あえて厳しい環境下でも採用や出店を意識して進めてきたのです。おかげで、就職難の中、優秀な人材を採用でき、さらに苦しい環境をともに切り抜けたことで社員も大きく成長してくれました。
加えて、他社がECに移行する中で、弊社は積極的に出店を続けたことで、ディベロッパー様の支援をいただき、多くの店舗を出店することが出来ました。
正しさと共感を追求する企業風土
ーー現在の業務内容を教えてください。
上田崇敦:
弊社は、靴下やインナーを主力とするSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)を展開しています。高品質・機能的でありながら、「わくわく」と楽しさを提供する女性向けの「かわいい」商品を製造・販売しています。
1994年に1号店をオープンして以来、現在まで国内外に500店舗近く店舗展開してきました。全国のファッションビルやショッピングモールを中心に、北海道から沖縄まで日本各地の主要都市や地方都市に幅広く店舗を構えています。
ーー貴社の強みはどのような点にありますか。
上田崇敦:
弊社は、一族経営の非上場企業ながらトップダウンの組織ではありません。ビジネスに対して厳しい姿勢を持ちながらも、愛情がベースにあることで、社内の風通しがよいことが特長です。私自身この会社の存在意義を考え抜き、会長や副社長に沿革やこれまでの思いを聞きながら、全社員が共感できるようにミッションを策定しました。
そもそもミッションを策定したのも、誰のためでもない、私自身のためでした。弊社に入社した当時は、新入社員と同じように私も物流部門に配属され、靴下を梱包する作業をしてきました。ある意味会社の中で一番泥臭い仕事だったのですが、これを経験したからこそ今の若い社員の気持ちに共感し、仕事へのやりがいを感じるための、ミッション策定の必要性を自分のこととして捉えることができたのです。
もちろん、企業として売上、利益を追求しますが、未達成の場合には原因を徹底的に会議で分析し、マネジメントの課題を改善する姿勢を大切にしています。ミドルマネジメントが社長に意見を言える風通しの良さといった社風に、誇りを感じています。
独自のインナースタイル開発による新しい価値創造
ーー今後、特に力を入れていきたいことは何ですか。
上田崇敦:
弊社の独自性を体現する「インナースタイル」という概念を持った商品開発です。靴下や肌着でも、弊社でしか手に入らないオリジナル性のある商品をつくっていきたいと考えています。具体的には、デザイン性、季節感、機能性、そして高品質を追求し、アームカバーや手袋など、身体に直接触れるアイテム全般に挑戦したいですね。
さらに弊社は女性向けのイメージが強いと思いますが、男性や子ども向けの商品展開も行っています。実際、男性と子ども向けの商品の購入率は5%以下ですが、130坪の大型店舗で男性も入りやすいような入口を設置したところ、メンズ商品の購入割合が10〜20%程度に増加しました。これにより、性別を問わず、インナースタイルを通じて多くの人に喜びと感動を届ける可能性を感じています。
また、海外展開も成し遂げたいことの一つです。大阪心斎橋の50坪の店舗では、売上の70〜80%が中国からのお客様によるもので、約1億5000万円を売り上げています。現在は中国に出店していますが、さらに、韓国や東南アジア、最終的には欧米市場にも進出する考えです。
共感と素直さを重視する採用戦略
ーー最後に求める人物像についてお聞かせください。
上田崇敦:
ファッションや商売に興味があり、弊社の理念やミッションに共感してくれる人に来ていただきたいと思います。人生に向き合って素直に生きている方と一緒に仕事がしたいですね。たとえば、学業でも部活動でも、何でも構いません。目標を達成するために努力し続けられる人を求めています。
中途採用では、MD(マーチャンダイジング。市場調査などをもとに販売戦略を企画・実践するマーケティング戦略)やEC運営経験を持つ、デジタルマーケティングに強い方を積極的に求めています。新卒採用と同様に素直さを重視し、主体性を持って成長と改善を続けられる方であれば、活躍の場は広がると思います。
編集後記
「かわいい」と「機能性」。一見、相反するようにも思えるこの2つの価値を結びつけ、インナーウェア業界に新風を吹き込んできた株式会社チュチュアンナ。創業者から受け継いだDNAを大切にしながらも、新しい時代に即した変革を躊躇なく実行する姿勢が印象的だ。
「素直さ」を重んじる企業文化が、大胆な挑戦を可能にする。インナースタイルによって「わくわく」と「楽しさ」を提供する企業は、さらなる高みを目指していく。
上田崇敦/1979年生まれ。神戸大学経済学部卒業。2012年に株式会社チュチュアンナ入社。取締役、常務取締役、副社長を経て、2020年に代表取締役社長に就任。