※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

1927年に創業し、岐阜県に本社を置く株式会社山辰組。災害時の復旧作業を含む公共土木・建築事業を多数施工し「ひと味違う建設会社」を自負する会社だ。近年は、環境保全事業の一環として、自社製品の開発・販売にも注力している。代表取締役社長の馬渕健氏に、事業の強みや製品開発の裏側、今後の展望についてうかがった。

「自発的な創意工夫」で建設業界におけるDXを先行

ーー社長就任の経緯や、当時の思いをお話しいただけますか。

馬渕 健:
山辰組はいわゆる一族経営であることから、「将来は長男である自分が会社を継ぐのだろう」と考えていました。大学卒業後、大成建設での5年間の修業を経て山辰組に入社。入社後は当時の専務と共に各現場の予算管理・人員配置、協力業者の手配等の全現場の管理を任されるようになり、約16年が経った2020年に社長へ就任しました。

コロナ禍ということで、本来ならば取引先を回って就任報告するところ、書面でのご挨拶となりました。現場や物流が止まってしまったことで、業界全体に「建設業はどうなってしまうのか」という不安が広がっていたと思います。前代未聞の状況を乗り越えて、いかに通常の体制に戻せるかが私に課せられた使命だと考えていましたが、当時は目の前の問題に取り組むことで精一杯でしたね。

ーー社長業で苦労されたエピソードはありますか?

馬渕 健:
災害発生時は発注者から応援要請が入ります。人員の確保と選定をはじめ、現地で安全にかつ、関係機関と常に連絡調整をしながら作業するリーダーの選任が重要です。直近では、能登の震災が正月ということもあり、非常に慌ただしいものでした。

1月3日の夕方に出動要請があったのち、翌日の朝5時に出発、現地で2週間にわたって活動しました。大きな照明車を名古屋から能登へ運び、現地にて夜間作業を行ったのですが、作業班のリーダーとなった者をはじめ声をかけた社員たちが快く任務に臨んでくれてありがたかったですね。

ーー企業の心得をうかがえればと思います。

馬渕 健:
先代の頃より、「創意・工夫・たゆまぬ努力」という社是を掲げています。何も考えずに周りを頼るのではなく、「まずは自分で工夫して業務を効率的に進めよう」という考えから、業界内では先んじてDXに取り組んできました。10年以上前から各自が現場にノートPCを持ち込むことはもちろん、ネット環境がない現場にはWi-Fiを設置するなど、システム化にはかなり積極的です。

「業務効率化」と「自然環境保全」につながる3つの自社製品

ーー事業内容を教えてください。

馬渕 健:
山辰組は、2024年で創業97年を迎えます。運送業に始まり、建設業に進出してからは主に、公共の土木・建築工事に携わってきました。平成初期に立ち上げた環境事業部では、環境保全活動につながる自社製品の開発および、販売・リース(貸出)事業も行っています。

「環境に優しい建設業」を目指して、独自性のある製品を生み出してきたことが弊社の強みです。知る人ぞ知るニッチ産業ではありますが、長年の取り組みはスーパーゼネコンからも評価され、弊社も「業界内の環境分野では名の知れた存在」となりました。

ーー環境製品の特長や開発体制を教えていただけますか。

馬渕 健:
主力製品の一つである「ハイブリッド・サイフォン」は、少量のエネルギーで現場への送水を実現する装置です。灯油ポンプにも用いられる「サイフォンの原理」を活用したもので、空気を押し出すことで満水になったホースから手を離すと、自然の力のみで液体が流れ続けます。

現場で発電機を使う場合、例えば通常はドラム缶2000本分もの燃料を必要とするところ、「ハイブリッド・サイフォン」を使えば一升瓶7本分で済みます。燃料代を削減できるほか、脱炭素社会を目指す世界的な流れにもマッチする製品として、全国から注目を浴びています。

他にも国土交通省中部地方整備局と共同開発した「棚田式魚道」という製品は、アユの遡上を助け、河川生息環境を改善する効果があります。また、刈草を高速で燃やすことで煙を減らし、時短も叶える「高速焼却架台 モヤッシー」という製品は、現場担当者が考案しました。社内イベントで訪れた焼肉店で、鉄板を熱するバーナーを見て、「火元に空気を送る構造にすれば、燃焼装置の火力も上がるはず」と思いついたそうです。

弊社では、社員が見つけた「業務効率化の種」が埋もれないように、創意工夫を発表する場を設け、どんなに小さな工夫でもアイデアを出した全員に食事券を進呈しています。今では毎月いろいろな提案が飛び出すようになりました。

プライベートと仕事のメリハリを大切に「ひと味違う建設会社」へ

ーー採用PR向けのメッセージをお願いします。

馬渕 健:
弊社は有給休暇に加えて、気軽にリフレッシュ休暇を取れる雰囲気づくりに取り組んできました。かつての建設業界は、天候不良で滞った作業の遅れを挽回するため、当たり前のように休日を返上していたのです。

現場の都合で出勤したら別の日に休むべきだと伝えても、「みんなが働いている時に自分だけ休めない」と断る社員が多かったのですが、十数年前から声掛けを続け、今では休暇をしっかり取る文化が定着したと思います。また、「上司がまだ働いているから定時に帰れない」というような風土も許していません。

およそ50名の社員のうち、半数が10代・20代の若手という職場環境も、同年代の人にとって魅力的ではないでしょうか。女性の雇用と活躍にも力を入れていて、現在は3人の女性が現場監督の補助として毎日業務に取り組んでいます。

ーー今後の展望をお聞かせください。

馬渕 健:
発注者及び建設会社や設計コンサルタント会社をはじめ、工事を担当するお客様に弊社の「環境製品」をいかにアピールできるかが課題の一つです。製品が持つ機能や環境への効果を具体的に周知していけば、業界専門誌に広告を出した時の訴求力もよりアップすると考えています。

「現状維持」は目標としていません。「同業内でもひと味違う企業づくり」を掲げて取り組んできた環境事業を強化しつつ、会社をさらに発展させていきたいですね。10年後には、環境事業が本業の建設事業と同等の売上を出すような「2本柱の経営」を実現したいと思います。

編集後記

「職人の世界」であるがゆえに、DXや働き方改革が容易ではない建設業界。単に世間と足並みを揃えるためではなく、「仕事とプライベートの質」を上げるため、社員たちと真摯に向き合ったからこそ、山辰組は改革を進められたのだろう。公共工事における豊富な実績と、独自の視点で育てる環境事業は、地域を越えてこの国にとって代替不能な存在だ。

馬渕健/1977年、岐阜県生まれ。名古屋商科大学を卒業。大成建設株式会社にて5年の修業期間を経て、2004年に株式会社山辰組へ入社。2020年、同社の代表取締役社長に就任。本業である建設業のほか、自社で独自に開発した環境製品・技術の販売促進にも注力している。