
創業以来、良質な糀にこだわったみそづくりを行っているのが、広島県にある株式会社ますやみそだ。料理に使う合わせみそのほか、鍋の素やインスタントのみそ汁なども展開している。
老舗企業の業務改革や、みそづくりへのこだわり、経営者としての商売に対する思いなど、代表取締役社長の舛本知己氏に話をうかがった。
他業界や海外で得た知識を活かし、老舗企業の改革をリード
ーーまずは舛本社長の経歴についてお聞かせください。
舛本知己:
大学では食品工学を専攻し、卒業後はビジネスの知識を身に付けるため印刷会社に入社しました。食品や化粧品などのパッケージデザインに携わっていたので、このときの経験は今の事業にも生きていますね。
その後、世界の食文化や生活について学びたいと考え、米国の大学院へ行きMBAを取得しました。祖父がよく言っていた「田舎の学問より京の昼寝」という言葉にも影響を受けましたね。これは、流行の最先端に身を置きながら、生の情報を得る大切さを説いたことわざです。
現地に行って気付いたのは、米国人は日本人よりも判断を下すスピードが非常に速いという点です。このスピード感は経営において重要だと思い、現在も日々の業務で素早く判断することを心がけています。
ーーその後、家業に入り社長に就任してからどのように会社を運営してきたのですか。
舛本知己:
どうすれば消費者に弊社の商品を届けられるのかを考え続けました。そのためにまずは業務管理体制を整えるところから始めました。当時はメールすら使用せず、FAXでやり取りしている状況だったのです。
こうした昔ながらの業務体制を変えるため、効率化に取り組みました。現在では業務のDXが進み、私の仕事はほぼすべて携帯端末で完結できるようになっています。今後は営業関連のDXも進めていこうと考えています。
米問屋からみその製造・販売をスタート。クラシック音楽でみその発酵を促す独自の取り組み
ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
舛本知己:
米問屋として米の卸をしていたのが弊社の起源です。その後、米の加工品としてつくった糀が評判となり、そこからみそづくりを始めたのが今の事業のルーツです。
現在はみその売上は半分ほどで、中国・四国地方では大豆や大麦、米を使った合わせみその人気があります。全国でいうと「芳醇」という無添加のみそや、きゅうりなどに付けて食べる「もろみみそ」が人気ですね。特にもろみみそは、全国シェアの8割を占める看板商品です。
また、甘酒や米糀のほか、鍋の素や冷や汁の素など手軽に使える商品のラインナップも拡充しています。必須アミノ酸や酵素を含み、整腸作用のある「乾燥米こうじ」もシェアを獲得していますね。
なお、国内だけでなくヨーロッパを中心に自社の商品を輸出しています。今後日本の人口が減少していくと予想されているので、海外の売上比率を伸ばしていきたいと考えています。
ーーみそづくりにおけるこだわりについて教えてください。
舛本知己:
良い糀があってこそ、おいしいみそができると考えています。そのため安全管理を徹底し、品質管理に努めています。別会社のますや食品研究所で発芽テストなど厳正なチェックを行い、基準を満たしたものだけを使用しています。こうした糀へのこだわりは、創業以来守り抜いてきた弊社の伝統です。
さらに、弊社ならではの取り組みとして、一部の商品でクラシック音楽を聴かせてみその熟成を行っています。ヴィヴァルディの「四季」をトランスデューサーという装置で繊細な振動に変換し、みそが入ったタンクに伝えています。
これはクラシック音楽をかけながら、ワインの醸造をしている長野の醸造所からヒントを得たものです。私の祖父である初代社長が「みそ屋だってロマンを持っていいのではないか」と始めました。やわらかなサウンドによって複雑な振動で揺さぶられることで、まろやかな深い味わいになっています。
みそや糀を活用した新商品開発。糀の成分を活かしBtoB事業への参入も検討中

ーーEC販売についてはいかがですか。
舛本知己:
最近では、地元の特色を活かした「広島味噌ラーメン」や即席みそ汁、スープの素などを販売しています。また、大豆にテンペ菌を付着させて発酵させたテンペをパウダー状にした商品も展開しています。食物繊維が豊富で栄養価が高く、パウダー状のため摂取しやすいのが特長です。
なお、弊社のコアなファンを獲得するには、自社サイトでの発信が重要だと考えています。そのため今後は売上アップよりもファン層の獲得に注力するため、コンテンツを充実させる予定です。
ーー新商品開発についてお聞かせください。
舛本知己:
昨今では自宅でみそ汁をつくる人が減り、みその需要が減少傾向にあります。そこで技術力を高めて糀の可能性を広げ、新しい市場を開拓していこうと考えています。そのひとつが、バイオテクノロジーを活用した新商品の開発です。
現在は糀をエキス化して成分を調べ、新たな可能性を追求しています。糀にはさまざまな栄養成分が含まれており、消化をサポートする働きがあります。また、肌荒れを防ぎ、肌にハリや弾力を与える効果にも期待できます。そのため糀から抽出した成分を使って医薬品メーカーとサプリメントを共同開発するなど、BtoBにも参入したいと考えています。
家族への感謝を伝えるきっかけづくりをサポート。長きにわたる商売継続のために意識していること
ーー社内の取り組みについて教えていただけますか。
舛本知己:
社員のお母様や奥様、お子さんなど、本人以外の誕生日に休暇を付与し、会社から花束を贈っています。「母さんの味」と謳っている弊社だからこそ、社員にも家族を大切にしてほしいと思ったことが、この取り組みを始めたきっかけです。
また、社員同士の絆を深める場として同好会があります。3人以上集まれば同好会として認め、活動の規制は特にありません。活動費を会社から支給し、社員たちに自由に楽しんでもらっていますね。
ーー最後に舛本社長からメッセージをお願いします。
舛本知己:
商売はお金を稼ぐことではなく、お客様のためになることをするものだと思っています。ただお金儲けをしたいというだけでは、長くは続かないでしょう。お客様からいただいたお代は感謝の対価と考え、これからも人々の健康をサポートし、安全な商品を提供し続けて参ります。これからもお客様に寄り添った商品開発を続け、100年、200年と続く企業を目指していきます。
編集後記
米国の大学院で知識を身に付け、家業の経営改革を指揮してきた舛本社長。新しい挑戦に取り組みながらも、良質な商品をお客様に届けるという基本を大切にしていることがうかがえた。みそづくりの伝統を守りながら、人々の健康や美をサポートする商品を生み出し続ける株式会社ますやみその今後の展開に期待したい。

舛本知己/1975年広島県生まれ。サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。2004年に株式会社ますやみそに入社し、営業販促課に所属した後、2007年に代表取締役社長に就任。販路拡大のため国内だけでなく海外での商談も積極的に行い、新規参入を目指して新商品の開発に取り組んでいる。趣味は魚釣りなどアウトドア全般。