※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

スポーツクラブやチームが地域振興や郷土愛の醸成にも大きく貢献している今、地方を拠点としたスポーツクラブがどう地域と関わっていくのか、注目を集めている。

岐阜県を拠点に活動する岐阜フットボールクラブ(以下、FC岐阜)を率いる株式会社岐阜フットボールクラブの代表取締役社長、小松裕志氏は、証券会社での勤務経験からクラブ経営を任された異色の経歴を持つリーダーだ。一体どんな戦略を描いているのか、話をうかがった。

かつてはプロ選手を目指したサッカー少年がFC経営に

ーーサッカーとの関係性とFC岐阜の経営者になった経緯をお聞かせください。

小松裕志:
私にとってサッカーは子どもの頃から非常に近しい世界でした。かつてJリーグ浦和レッズのジュニアユース・ユースに所属し、プロサッカー選手を目指して一生懸命取り組んでいた時期があります。

大学卒業後は、ゴールドマン・サックス証券に就職し、さまざまな仕事のご紹介やお付き合いの中で、Jトラスト株式会社の藤澤と出会ったのです。その後、2021年3月に藤澤が筆頭株主であるFC岐阜の社長室GMに就任し、同年12月に代表取締役社長に就任しました。

ーーゴールドマン・サックスでの経験がクラブ経営にも活かされているのでしょうか?

小松裕志:
もちろんです。証券会社では、金融に関わる知識全般はじめ、さまざまなことを叩き込まれました。また、投資家として企業をどう評価するかにとどまらず、経営者・従業員・取引先などあらゆる立場から事業や物事を見ることが大切だと感じています。

ーー社長就任後、一貫して大切にしていることは何ですか?

小松裕志:
私が社長に就任して最初に掲げたのが、「『人づくり』『街づくり』『夢づくり』に貢献し、岐阜で一番愛される集団を目指します」というミッションです。この先、FC岐阜がどうなっていくかを考えるうえで、経営者の自己満足ではなく、従業員全員が思いを一つにできる理念をつくり上げたいと考えました。そのために、社員全員で議論する機会を設け、私たちの存在価値について徹底的に振り返った結果、辿り着いたのがこのミッションです。

FC岐阜は、岐阜県を構成する全42市町村に株式を持っていただき、スポンサーとして、ホームタウンとして力になっていただいています。だからこそ、私たちにとって大切なのはチームの強さだけでなく、地元の方に「FC岐阜を好きになってもらうこと」なのです。

街づくりや夢づくりに貢献し、岐阜で一番愛されるサッカーチームへ

ーー「愛されるFC岐阜づくり」への思いを聞かせてください。

小松裕志:
子どもたちを含めてFC岐阜のサッカーを見てくださる方に尊敬してもらえるような存在になることを目指しています。チームが必死に戦う姿を見て「すごい人たちだな」と胸を打たれ、FC岐阜の選手になりたいと願う子どもたちを増やしていきたいですね。

また、マクロ的に見たら岐阜県では人口減少や高齢化が進んでいます。だからこそ、地域の潤滑油としての役割を果たしていけないかと模索しているところです。

ーー具体的にどのような取り組みをしていますか?

小松裕志:
FC岐阜のあるべき姿は、岐阜県全体に貢献していくことであり、岐阜全土での事業展開を今まさに取り組んでいるところです。飛騨高山など、岐阜市などのエリア以外にも、アカデミーチームとして子どもたちを育成する拠点を展開し、トップチームをつくり上げていく仕組みもその一つです。他にも、岐阜県内にあるスポーツ施設の運営を代行する指定管理事業についても広げていきたいと思っています。

今の子どもたちは、部活動に変わるスポーツの受け皿が不足している状況です。地域課題の解決策として、スポーツに親しむ場所を設けるため、地元企業と一緒になって野球やテニスなどのサッカー以外のクラブを増やしていくのも一つの手段だと思います。サッカーだけでなくスポーツという大きなくくりのもと、地域で子どもたちがスポーツに親しむ環境をつくっていきたいですね。

課題解決型のコラボレーションでスポンサーや地域と好循環を生み出すチームに

ーー地域はもちろんのこと、地元企業との連携で考えていることを教えてください。

小松裕志:
FC岐阜を応援してくださる企業さまに対して、ただ単に企業広報に貢献するだけのスポンサー活動では、スポンサー企業を集めることは今後難しくなっていくでしょう。そこで弊社が考えているのが、課題解決型モデルです。企業の悩みをFC岐阜の活動とコラボレートすることで解決していく形を模索しています。

たとえば、スーパーマーケットを展開する株式会社バローホールディングス様と現在取り組んでいるのが、フードドライブ事業です。ご家庭で使わなくなった食材を寄付という形で集め、児童養護施設や子ども食堂に寄付する活動に、弊社も参画しています。毎回FC岐阜の試合には、5,000名規模のサポーターが足を運びます。その場を活用して、試合会場でフードドライブを実施しています。

ーーまさに新たな協業の形ですね。企画に関しても積極的に参画しているのでしょうか?

小松裕志:
スポンサー企業とのコラボレーションでは、どんな人をターゲットにどんなイベントや仕組みをつくるのかということを、営業の現場で模索しています。ただ単にスポンサーとして資金を提供していただく関係よりも、一緒に取り組んでいく関係を築いていくことが大切です。

地域に根ざした地域貢献活動にFC岐阜が中心となって取り組み、それをきっかけにFC岐阜を応援してくださる企業さまが事業コンテンツを出し合うようなプロジェクトを今後も打ち出していく予定です。サッカーチームとして、上を目指して勝負に挑み続けることは絶対的に変わらないものですが、クラブ事業として違う側面からも地域に貢献できることをアピールしたいですね。

ーー最後にFC岐阜として、描く未来や目標をお聞かせください。

小松裕志:
FC岐阜がいいときもそうでないときも、応援し続けてくださるスポンサーや地域の方、そしてファンの皆さまには本当に感謝しています。もっともっとチームも強くなり、スタジアムが観客でいっぱいになるように、私たちはさらに努力し続けます。「もっと応援したい」「FC岐阜とともにワクワク、ドキドキしたい」と思ってくださるように、クラブのスタッフ全員で取り組んでいくつもりです。

編集後記

かつてプロサッカー選手を目指した少年が、大人になってクラブ経営という形でサッカークラブを経営する。まるでドラマのような運命の巡り合わせで、FC岐阜を率いる小松社長。チームの勝利だけでなく地域の明るい未来を築くための戦略とともに、岐阜だけでなく「世界を変える」という確固たる信念が感じられた。

小松裕志/1988年、埼玉県生まれ。2011年に慶應義塾大学法学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。証券部門株式部 グローバルエクイティ営業部やマーチャント・バンキング部門を担当。2021年にJトラスト株式会社に入社し、取締役執行役員社長室長に就任。同年から株式会社岐阜フットボールクラブの社長室ゼネラルマネージャー、代表取締役社長に就任。