
株式会社大国屋は、美容室「PEEK-A-BOO」の経営に加えて、美容師の技術向上に貢献するアカデミーを展開している会社である。美容師は職業柄「40代で退職」と言われることも多いが、代表取締役の川島修身氏は、40代以降もスタッフたちが美容師の道を選べるよう、丁寧な指導で会社を引っ張ってきた。同社の美容師の技術力が高い理由や、長年顧客から愛される理由について聞いた。
海外で美容師になる際に大切なのは「自分の物差しを持つこと」
ーー代表取締役就任までの道のりを教えてください。
川島修身:
美容専門学校を卒業後、20歳でPEEK-A-BOOに入社し、最初はアシスタント業務に携わりました。それからスタイリストとしてデビューし、2005年から3年間ロンドンの美容室に勤務していました。渡英したのは、弊社のルーツがロンドンにあったことと、そこの技術を見ておきたかったからです。
帰国後は、ロンドンで学んだヘアカラーの技術を日本の店舗でも活かしたいと思い、カラーリングのクオリティを高める業務などを任せてもらいました。その後、マネージメント業務に関わるようになり、2021年に代表取締役に就任したという流れです。
ーーロンドンの美容室時代の話を聞かせてください。
川島修身:
英語が話せなかったので語学学校に通いながら働いており、言語の壁から、職場でも、最初の頃は掃除やタオルの洗濯ばかりしていました。
しかしある日、シャンプーをする人がいないからと、僕が担当する機会が回ってきたのです。イギリスと日本ではシャンプーの仕方が違うのですが、実際に挑戦してみたらスムーズにでき、お客様は「今までのシャンプーの中で1番気持ちが良かった」と言ってくれました。
それから徐々に実力が認められ、シャンプーだけでなくカラーやカットも任せてくれるようになりました。「弊社の技術が海外でも通用する」という事実が、とても嬉しかったです。
この経験から、海外に興味のある美容専門学校の学生と話をするときは、将来的に日本と海外のどちらで美容師をしたいのか聞くようにしています。海外で働きたい場合はすぐに渡航して、現地の文化に馴染みながら技術を身につけた方が良いと思うからです。
一方、まずは日本で素地を身に着けることも重要だと思っています。海外で日本とは違った技術を見たとき、それが良いものなのかどうか判断する物差しを持つためにも、日本で経験を積む必要があります。
長年培われてきたヘアカット技術と、スタッフのプロ意識の高さが強み

ーー事業内容について教えてください。
川島修身:
美容室の運営に加えて、アカデミー事業も行っています。アカデミー事業は、他社の美容師たちにアカデミーに来てもらい、弊社スタッフがヘアカットを教えるというものです。
実際に、韓国で弊社のヘアカットを根付かせたいという思いから、韓国の美容師にカットを教えるアカデミーが2024年3月に韓国の江南区でスタートしました。また、美容室から依頼を受けて、スタッフが他社の美容室へ出向いて教育をする講習会事業も手がけています。
弊社はもうすぐ創業50年目を迎えますが、50年前から通ってくださっているお客様や、娘さんや息子さんを連れてきてくれるお客様も少なくありません。親子2代、3代で利用してくださるケースも多く、お客様の年齢層は幅広いです。
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
川島修身:
弊社の1番の強みは、ヘアカット技術の高さです。創業者の弊社代表川島文夫がロンドンにて世界的に著名な美容師に師事していて、現地で習得した「もちが良くて髪の毛を立体的に見せるカット技術」を日本に持ち帰って来ました。その頃から、日本人の骨格や髪質を理解したヘアカット技術を追求し続けています。
また、スプレーやワックスをつけていない状態で、自然なヘアスタイルを維持できる点も強みです。「どの美容室に行っても髪の毛が上手くまとまらない」というお客様の駆け込み寺の役割も果たしています。
そのほか、スタッフたちはアカデミーを通じて講師をしているので、プロ意識が根付いています。彼らは人に教えるためにとても勉強していますし、それが結果として成長につながり、同時にお客様にも還元できるのが強みですね。
今でも現場に出るのは、お客様のリアルな声を聞けるから
ーー経営者としてどのような考え方を大切にしていますか。
川島修身:
僕は今でも土日は現場に立っていますが、今後も現場に立ち続けたいと思っています。現場に立つことでお客様の声を聞くことができ、時代とともに変化するお客様のニーズを知ることができるからです。
いつも同じ施術をしているつもりでも、どこか微妙にずれてくるということは珍しくなく、このズレに肌感覚で気づけるのは現場にいるからこそだと思っています。また、スタッフ同士の関わり方なども現場で知ることができます。
ーー最後に、人材に対する考え方を聞かせてください。
川島修身:
弊社は基本的に新卒を採用しており、素直で明るく、元気があれば十分です。技術は僕たちが教えますし、美容師を続けている限り一生食べるのに困らないような、そんな美容師を育てていきたいです。
「美容師として生涯勤めることができるような人材を教育すること」が、僕たちのミッションのひとつです。
編集後記
代表取締役になった今でも現場に立ち続ける川島氏の姿勢からは、顧客の声に応えながら、常により良いサービスを提供したいという強い思いが感じられた。自社の利益だけでなく、アカデミー事業を通して美容師の育成にも力を入れているPEEK-A-BOO。同社の取り組みは、日本の美容師たちの技術力を底上げしてくれるに違いない。

川島修身/1979年、東京都生まれ。高山美容専門学校卒業後、2000年株式会社大国屋PEEK-A-BOO入社。2005年に渡英し、ロンドンにて著名美容師に師事。2008年に帰国。美容師をしながら、国内・海外の講習会、セミナーなど幅広く活動。経営にも関わる。2021年に代表取締役社長に就任。現在はPEEK-A-BOOの経営およびスタッフの指導を中心に、週末は銀座のサロンに美容師として立つ。