
建設業界では若手人材が減少し、職人の高齢化が喫緊の課題となっている。そんな中、大幸建陶株式会社は平均年齢が低く、若手社員が多数在籍しているタイル専門工事会社だ。平均年齢が若い組織ならではのメリットや、タイルの魅力、タイル施工のやりがいなどについて、代表取締役の渡邊晃秀氏にうかがった。
予想より早く訪れた社長就任のタイミング。フレッシュな力を武器に新たな道を切り拓く
ーーお父様が経営していた会社を引き継がれたということで、仕事には昔から馴染みがあったのでしょうか。
渡邊晃秀:
幼少の頃は週末になると職人たちが自宅にご飯を食べに来ていたので、よく顔を合わせていましたね。ただ、社会人になるまでは家業を継ぐつもりはなかったんですよ。
ただ、大学卒業後に入社した会社で働くうちに、現状に安住していることに疑問を感じる様になりました。そこで自分自身の力で成長できる環境を求め、父親が経営する会社に入れてもらえないか相談しました。すると父から「イチから勉強して自分の力で頑張る気があるのなら来なさい」と言ってもらい、入社することになりました。
ーーそこから経営者になるまでの経緯を教えてください。
渡邊晃秀:
前職はまったくの異業種だったので、入社した頃は右も左もわからない状態でした。そこでまずは修行をするため、東京のタイル施工会社で2〜3年お世話になる予定でした。ところが、修行に行ってわずか半年後に父が急死してしまい、一緒に仕事をすることは叶いませんでした。
そのため父から経営に関して教わらないまま、家業を継ぐために会社に戻り、幹部の方について学びました。社長に就任したのはそれから3年ほど経った31歳のときです。
逆境をチャンスに、積極的に自分を売り込んでいった就任当初
ーー実際に社長に就任してからはいかがでしたか。
渡邊晃秀:
当時は正直、自分が経営者として務まるのか不安でした。実際に社長として取引先に行っても、若くて業界の知識も浅かったため、なかなか受け入れていただけませんでした。
ただ、「新参者だからこそ、自分の意思次第で自由に動けるのはかえってチャンスだ」と気持ちを切り替えました。また、「自分の存在を知られていないということは、これから多くの方に知っていただける機会がある」と。
たとえば、ある大手ゼネコンの現場では、顔を合わせるたびに「大幸建陶の渡邊です」と名乗るようにしていましたね。いつものように名乗り出ようとしたところ、所長さんから「もうわかってるよ」と言われたのです。こうして自分の名前を覚えてもらうことができ、その後のお付き合いにもつながったことが、強く印象に残っています。
さらに、当時の弊社は数社の取引先が売上の3分の2以上を占めていたので、この状況に危機感を感じました。そこで経営の安定化を図るため、一社あたりの取引高を全体の1割程度に抑えるようにしました。同時に新規取引先の開拓も進め、収入源を分散させる体制を整えていきました。これは万が一取引先が倒産した場合に、リスクを分散させることが目的です。
こうしたリスク分散を意識するようになったのは、公共事業や民間建設投資の予算が減少し、取引先の経営不振が相次いだのがきっかけでした。今振り返ってみるとこのときの行動が今につながっているので、自分にとってはプラスだったと感じています。
タイル施工ならではのやりがいを感じる瞬間。若手が活躍する活気ある職場

ーー貴社の事業内容と魅力について教えてください。
渡邊晃秀:
主にゼネコンの下請けとして、建物の外壁や床などのタイル工事を請け負っています。タイル工事は建物の最終仕上げの工程になるので、品質や仕上がりが非常に重要です。
この仕事の魅力は、自分たちの仕事が形として残ることです。たとえば建物の躯体となるコンクリート施工をする仕事は、完成後は目で見ることができません。一方、タイルは現場に行けばいつでも実物を確認できます。そのため「あの建物のタイルは俺が施工したんだ」と自慢げに語る職人もいますね。このことからもわかるように、とてもやりがいを感じられる仕事です。
ーー他社と比べた際の貴社の強みはどのようなところにありますか。
渡邊晃秀:
職人の平均年齢が低いことが弊社の強みですね。現場責任者も40代が中心で、年齢が近い分、職人さんと社員の距離が近いのも特徴です。これからも世代間ギャップが生まれないよう、現場責任者が高齢になる前に若い技能職を増やしていきたいと思っています。
ーー組織づくりにおいて心がけてきたことを教えてください。
渡邊晃秀:
誰も意見を言えない状況が一番良くないので、自分の考えを押し付けないよう気を配っていますね。ミーティングでも、形式ばらずフランクに意見を言い合える場にしています。その結果、今では若手社員も積極的に意見を言ってくれるようになりました。ワンフロアで顔を合わせて仕事をしていることもあり、和やかな雰囲気の職場だと思います。
ーー従業員育成や後継者育成についてはいかがですか。
渡邊晃秀:
国家資格である「タイル張り技能士」の取得を推奨しており、費用を一部負担し、合格者にはお祝い金を支給しています。
また、現場管理を担っている20代〜30代の社員に取引先別に担当をつけ、営業の引き継ぎを進めています。そして経験に応じて、課長職~次長職~部長職とキャリアを重ね、ゆくゆくは経営を支える役員、代表者へと育成していく予定です。その他、LIXIL主催の研修に参加してもらうなど、社外の研修にも力を入れています。
タイルの魅力を伝え100年、200年続く企業へ
ーー現在貴社ではどのような人材を求めていますか。
渡邊晃秀:
弊社では現場管理をする社員と、現場でタイルの施工を行う職人に分かれています。現場管理は20代から30代が中心に活躍しておりますが、その一方で、施工を行う職人の採用が課題です。
職人は技能職であるため、早く始めた方が有利ではありますが、大卒でもやる気があれば大歓迎です。入社してから半年間はタイル専門校へ入学し、基礎的な技術を身に付けてから仕事をスタートすることができます。手に職をつけたい、自分の作品を形に残したいという思いを持った方はぜひいらしてください。
ーー今後の意気込みをお聞かせください。
渡邊晃秀:
弊社は創業56年目を迎えましたが、これからも次の世代に引き継ぎ、100年、200年と続く企業にしたいと思っています。また、意匠性が高くいつまでも輝きが色あせないタイルの魅力を多くの方々に知っていただきたいですね。
タイルは自分の手で施工ができ、自分の子どもにも自分が携わった建物を見せることができる仕事です。こうしたタイル施工ならではの仕事の楽しさを伝えるため、これからも活動を続けて行きます。そのために、後世に永く残るような建造物に携わり、タイルのすばらしさとその普及に努めてまいります。
編集後記
サラリーマンを辞め、家業に入ってすぐ社長に就任することになった渡邊社長。タイルが持つ美しさや仕事の醍醐味について語る姿からは、家業に対する熱い思いが伝わってきた。若手社員がいきいきと働く大幸建陶株式会社は、これからも次世代にタイルの魅力を伝え続けていく。

渡邊晃秀/1969年大阪府高槻市生まれ。関西大学経済学部卒。1996年大幸建陶株式会社に入社。代表取締役常務を経て、2000年代表取締役に就任。