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現在、日本のさまざまな業界で人手不足が深刻だ。特に、労働者の高齢化が進む建設業界では、「きつい」「汚い」「危険」というイメージが根強く、人材確保が大きな課題となっている。
この課題を解決すべく、生成AIとIoTを活用したソリューション型IoTプラットフォーム「BizStack(ビズスタック)」を開発した企業がある。「BizStack」は、従来の作業現場を一元管理し、効率化を実現する革新的な取り組みだ。今回は、同プラットフォームを手がけるMODE, Inc.のCEOである上田学氏に、技術開発の背景やグローバル展開への展望をうかがった。
グローバルIT企業での経験を基盤に、独自のビジョンで起業
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ーーアメリカのシリコンバレーで仕事をするようになった経緯について教えてください。
上田学:
幼少期からコンピューターに興味を持ち、大学院ではコンピューターサイエンスを専攻しました。大学院修了後は外資系コンサルティング企業でエンジニアとして勤務していましたが、インターネットブームが到来した3年目に、アメリカのIT企業の日本法人に転職しました。
2000年、その企業がYahoo Inc.に買収され、日本拠点の開発者は私一人だけだったため、本社があるアメリカのシリコンバレーで勤務することになりました。
その後、ヤフーで2年間勤務した後、まだ社員数が1,000人ほどだったグーグルに転職し、Googleマップの開発リーダーとしてプロジェクトを牽引しました。最初はエンジニアとして入社しましたが、やがて大きなプロダクトのマネージャー職を任されるようになったのです。
ーー起業のきっかけをお聞かせください。
上田学:
当時の仕事には満足していましたが、「自分の可能性をさらに試したい」という思いが強まり、当時まだ小規模だったTwitter(現:X)に入社しました。その直後に発生した東日本大震災で、Twitterが安否確認に活用されたことが注目され、ユーザー数が世界的に増加したのです。会社の成長を目の当たりにした瞬間でした。
しかし、ここでもマネージャーとしての業務が中心で、物足りなさを感じ始めます。同時期、周囲の同僚たちが次々と独立していく様子に刺激を受け、「自分にもできるかもしれない」という気持ちが高まり、起業を決意しました。
建設業界の構造的課題に挑むIoTソリューションの開発
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ーーどのような経緯で、現在の事業にたどり着いたのですか?
上田学:
私は以前から、インターネットサービスに対して電源を切れば消えてしまうことに儚さを感じ、現実世界に影響を与えるものを創りたいと考えていました。地球上で起きていることをデータで把握し、それを改善するビジネスを立ち上げたいという思いが、MODE, Inc.のアイデアの源泉となりました。
当初は、アメリカでスマート家電を開発するハードウェア企業をサポートするビジネスを目指していました。しかし、スマート家電は予想以上に普及が進まず、1、2年後には関連企業が相次いで撤退。新たな可能性を模索するため、これまで培った技術と知見を活かし、より広範なニーズに応えるIoTソリューションの開発へと方向をシフトしました。
その際に着目したのが、同じテクノロジーを別のビジネス業態に応用する可能性です。新しいプロダクトの開発にあたっては、まず現場の実態を知ることから始めました。現場を回り、どのような技術が求められているのかを把握することが不可欠だと考えたのです。こうした取り組みの中で、製造工場や自動車産業向けに開発したのがIoTソリューション「BizStack」です。
しかし、コロナ禍の影響でアメリカでの事業展開を断念せざるを得ない状況に陥りました。そのような中、ある展示会で建設会社の方々と接点を持ち、建築・土木建設の現場で弊社のサービスを提供できることに気づいたのです。
ーー「BizStack」について、もう少し詳しく教えてください。
上田学:
現代の日本では、働き手不足が深刻化しており、特に建設現場では、10人で行っていた作業を8人で回さなければならない状況が起きています。この不足した2人分を生成AIとセンサーで補うことができれば、大きな問題解決につながりますよね。
たとえば、ダム建設の広大な現場で、機械の稼働状況を人が点検するには数時間を要します。これをセンサーやカメラで遠隔対応や自動化すれば、大幅な労力削減が可能です。弊社ではこうしたプロダクトを提供し、建設現場の働き方改革や人手不足の解消に貢献しています。
さらに、2022年に広まった生成AI技術を活用し、普段使っているチャットツールを通じて大量のIoTデータを瞬時に確認できる「BizStack Assistant」を開発しました。いつものチャットで同僚と話すように質問すれば大量のセンサーデータやカメラ映像から必要な情報を教えてくれます。
また、レポート作成や異常時のアラートも必要におうじて送ってくれるためさまざまなリテラシーのスタッフが混在する環境であっても簡単にデータを活用しDXを実現することができます。
イノベーション創出に向けた人材戦略と成長戦略
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ーー事業拡大に向けて、どのような人材を求めていますか。
上田学:
生成AIを含む未知の領域に挑む意欲を持つ人材と働きたいと考えています。未解明の課題にワクワクし、次々とアイデアを生み出せる方が仲間に加わってくれると、とても心強いですね。
普段はシリコンバレーで生活していますが、青い空を見上げるたびに、自然と楽観的な気持ちになる自分に気づきます。困難に直面しても「何とかなる」と気持ちを切り替えることで、乗り越えられるものだと信じています。新たに迎える社員にも、ポジティブに考え、行動することを期待しています。
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
上田学:
現在、アメリカには15名の社員が在籍しており、日本チームと協力しながらグローバル市場に向けたプロダクトの開発を進めています。まずはアメリカ市場で認められる製品を作り上げ、その後は東南アジアやヨーロッパへの進出も視野に入れています。
生成AIの技術革新は日進月歩で、まるで現代版の産業革命が進行しているような時代です。この変革の先頭を走り続けたいという思いで、今後も挑戦を恐れず取り組んでいきます。近い将来、世界の舞台で存在感を放つ企業に成長させたいと考えています。
編集後記
Yahoo Inc.、Google、X(旧Twitter)といった名だたる企業の最前線でエンジニアとして活躍し、現在はMODE, Inc.
のCEOを務める上田学氏。その華麗なる経歴に驚かされるとともに、常に挑戦し続ける姿勢から多くの示唆を得ることができた。
かつてSF小説や映画で描かれた未来が、いま現実のものとなりつつある。その技術革新の最前線で活躍する技術者たちが、どのように未来を形作っていくのか。その動向に、これからも注目していきたい。
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上田学/早稲田大学大学院修了。日本で就職した後、Yahoo Inc.のアメリカ本社への勤務に伴い渡米。2003年、2人目の日本人エンジニアとしてGoogleに入社し、Googleマップの開発に携わる。その後Twitter(現:X)に移り、唯一のEng directorとして公式アカウント認証機能などのチーム立ち上げ、開発チームのマネジメントを経験。2014年、Yahoo Inc.出身の共同創業者であるイーサン・カンと、シリコンバレーを拠点にMODE, Inc.を設立。