※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

社員2,600人以上、事業所114か所以上を展開する株式会社AT。訪問看護、住宅型有料老人ホーム、居宅介護支援を3本の柱に、医療と介護のトータルサポートを提供する。また、働く側の視点に立ち、週20時間勤務から正社員になれる雇用形態や、頑張りを数値化して社員に還元する給与体系を確立。

社員の挑戦を後押しする風土も相まって、人手不足に悩む業界で着実な成長を遂げている。訪問看護のインフラ化を目指す、同社の代表取締役、津田篤志氏に話をうかがった。

挫折から見出した「自分の活かし方」

ーー理学療法士を目指したきっかけについて教えてください。

津田篤志:
私は中学のときからバスケットボールに打ち込み、実力には自信があったのですが、当時最も強かった強豪校へ進学した際、スターティングメンバーに入ることができませんでした。それでもバスケットボールが好きだったので、今度は支える側に回ろうと思い、テーピングや筋トレ、ストレッチなど、トレーニングを積むための方法を考えるようになったのです。

高校2年生ぐらいから受験に向けて将来を考え始めたときに、一般的な学問にはあまり興味が持てない自分に気づきました。一番好きなバスケに関われる仕事は何かと考えたときに、理学療法士の存在を知り、目標を理学療法士やスポーツトレーナーの方向にシフトしたというわけです。

ーー訪問看護事業で起業に至った経緯を聞かせてください。

津田篤志:
専門学校で学ぶ中で自分の特性として、高齢者の方とのコミュニケーションがとりやすいことに気づきました。そこでまた少し方向性を変えて、介護職へ就職することに決めたのです。そして急性期の町病院(24時間体制の病院)で働く中で気になったのが訪問看護でした。

患者さんが病院を退院された後どうなるのか、その実態が知りたかったのです。当時は院内にある研究部の責任者を任されていたので、外に勉強しに行く機会を週に1日つくり、訪問看護を勉強することにしました。

そこでは、在宅医療に関わるコメディカルの方々と看護師がチームを組み「ご利用者様がどのように最期を迎えたいのか」「私たちが提供できる支援とはなにか」についてご家族様と話し合う姿を目の当たりにしました。この経験を通じて、非常にやりがいのある仕事だと感じ、「これをやりたい」という強い思いを抱くようになりました。

その後、病院に戻ってから訪問看護事業の立ち上げについてプレゼンを続けたのですが、経営者には事業拡大の意思がなく、理解が得られませんでした。しかし、「患者さんへの治療の面では協力できる」と院長が後押ししてくれたため、自身で開業に踏み出すことを決意した次第です。

人が集まる理由は、多様な希望に応える仕組みづくり

ーー人材確保についてはどのような取り組みをしていますか?

津田篤志:
一つは給与体系ですね。面白い仕組み、分かりやすい仕組みをつくることが非常に重要だと考えています。現場第一の業界では「頑張った人が稼げるような給与制度を」と声があがりますが、お金のためだったり、やりがいのためだったりと、人によって頑張り方は違いますよね。

弊社では、頑張って仕事した人や感謝された人への評価や、会社にとって大幅な利益をもたらした人への評価を、それぞれお金という形で受けとれる仕組みを構築しています。それらの基準や手当はすべて公開しているので、自分がどのように評価されているのかをわかった上で働くことができるのです。こういった制度は、医療介護業界ではあまり見かけないので、弊社ならではの制度だと思います。

給与額の決定においては、弊社で働く前の経験によって不利になることはありませんし、年功序列や勤続年数も関係ありません。弊社でどれだけ働いたかという点や、インセンティブなどによって決まります。役職給はありますが、こちらも公開していますから、社員同士で給与明細を見せあっても何も問題ないくらい、オープンだと思いますね。

ーー給与体系以外の工夫についても、お聞かせください。

津田篤志:
事業の構造にも関わりますが、勤務体制にあります。週20時間働ければ、弊社では固定給の正社員になれます。まだ子どもが小さい親御さんや自分の時間を優先したい人が多く選択しているパターンですね。多く働きたい、稼ぎたいという人であれば、通常の勤務の他に夜勤やオンコール対応に出ることでインセンティブを得られるなど、それぞれの希望に合った勤務形態を選択できます。

オンコール対応は、日中の看護師が対応せず、弊社独自の緊急対応チームがホスピスで待機し出動する仕組みを形成し仕事を分化してます。そのため待機時間や急な出動がほぼ発生しません。

他にも、ある程度キャリアを積んで、意欲を認められれば、採用された資格職以外の業務にトライできるのも一つの強みだと思います。管理職や広報に挑戦することも可能です。中には本来の専門ではない施設開発や薬局勤務の職で頑張っている社員もいます。資格があるからといって、型にはまった働き方にこだわる必要はないという考えからこのような制度をつくりました。

さらなる事業拡大で、社員も会社もステップアップを

ーー今後の展望についてお聞かせください。

津田篤志:
事業としては既に最大級になっていると感じていますが、働いている人たちがさらにステップアップできる場所をつくるためにも、まだまだ拡大していきます。一方で、株式会社ATは、ご自宅で療養する方たちを支えるための会社でもあります。

5年後、10年後に「病院に行けばすぐ診てくれる。自宅にいても看護師さんが駆けつけてくれる。最後を過ごす場所を選べる」ことを当たり前にしたいですね。こうした訪問看護のインフラ化がこれからの目標です。

ーー貴社のこれからを担うメンバーに求めるスキルや人物像を教えてください。

津田篤志:
専門職の世界であるため、看護や介護の仕事を希望して入社される方が多く、管理職を目指す人が少ないのがネックになっています。知識や経験を求められる立場というよりは、パイプ役になってくれる人を希望しています。コスト意識が持てる人で、調整役が得意だったり、いろいろな人に相談しながら、挑戦したりできる人であれば理想的ですね。管理職を目指したい人は、ぜひ弊社に来ていただきたいと思います。

編集後記

津田社長の「訪問看護のインフラ化」という言葉に、株式会社ATが業界を牽引していることを強く感じた。病院か施設か、はたまたご自宅かを自由に選べる社会。同社はその実現に向けて、給与体系や勤務形態という「働く人のためのインフラ」を整備し、114か所以上の事業所という「地域のためのインフラ」を築き上げてきた。医療と介護の未来図を、確かな手応えとともに示してくれた取材となった。

津田篤志/1980年、神奈川県生まれ。理学療法士として急性期総合病院に勤務する中で高齢者支援に関わり、訪問看護の奥深さに魅了される。病院勤務を経て、2011年に株式会社ATを設立。訪問看護事業を基盤に、住宅型有料老人ホームなどの医療福祉事業へと事業拡大。現在では114か所以上の事業所を運営し、多くの人々に寄り添い、地域の福祉とケアの未来を切り拓いている。