
首都圏にデイサービスや訪問看護ステーションを展開し、高齢者の暮らしを支えるDSセルリア株式会社。サービスの軸に口腔ケアを据え、利用者の健康にアプローチする独自の強みを持つ。理学療法士でもある代表取締役社長の北村直也氏は「私たちは、かかわるすべての方々の自己実現をサポートします」を企業理念に掲げ、地域連携や組織づくりを推進してきた。今回、同社の現在地と2030年に向けた未来像について話を聞いた。
理学療法士から経営者へ 介護の未来を拓く
ーーこれまでのご経歴と社長就任までの経緯をお聞かせください。
北村直也:
大学で理学療法士の資格を取得し、新卒で病院の回復期リハビリ病棟に勤務したのがキャリアの始まりです。3年ほど経った頃、勤務先の法人が介護老人保健施設を新設することになり、その立ち上げメンバーとして介護事業に携わることになりました。
患者様が在宅復帰できるまでの短期間を支援する病院とは対照的に、利用者様の生活に長く寄り添うのが介護の現場です。そこで働く中で、多職種との連携に難しさを感じる一方、「より多くの方の役に立ちたい」という思いが強くなりました。そんな折、リハビリ専門職を管理者としてデイサービスを拡大している企業があると知り、弊社への入社を決意したのです。
入社後はセンター長として事業を軌道に乗せ、新規店舗では最速での単月黒字化を達成。この実績が評価されて、エリアマネジャー、東京全店舗の統括責任者へとステップアップしました。2015年に親会社から介護事業を分社化するかたちで「DSセルリア株式会社」を設立、事業マネジャー、取締役を経て、2021年に代表取締役社長に就任しました。
社員の自己実現と口腔ケアを軸にした事業戦略
ーー貴社の理念について詳しくお聞かせください。
北村直也:
弊社の社名セルリアは「自己実現(セルフリアリゼーション)」を由来とする造語です。それがそのまま企業理念「私たちは、かかわるすべての方々の自己実現をサポートします」に反映されています。
「かかわるすべての方々」の中には、当然社員も含まれていますが、設立当初は会社組織がまだ安定していなくて、不安を抱える社員も多くいました。そこで、従業員満足度調査の実施や給与制度の改定などを通して、安心して働ける環境づくりに着手しました。マズローの欲求5段階説でいう「安全欲求」、つまり人間が持つ根源的な欲求を満たすことから始めるべきだと考えたからです。
私自身、「多くの方と関わりたい」という思いを、この会社で実現させてもらいました。介護保険事業だけではなく、障害者就労移行支援・就労継続支援事業を手掛けたのも、その内の一つが形になったものです。社員の皆さんもそれぞれの思いや夢を叶えて、生き生きと活躍していただきたいと願っています。
ーー社員の自己実現を後押しする具体的な取り組みはありますか。
北村直也:
自己実現の土台となる「安心して働ける環境」をより強固にするために、さまざまな施策を実施しています。たとえば、女性躍進です。介護業界は女性の就業率が高く、「女性が輝くキラキラ企業」をキャッチフレーズとして掲げて、女性が長く働ける環境づくりに注力してきました。
2019年には女性役員を登用するなど、企業としての取り組みが評価されて、「令和6年度 千葉県男女共同参画推進事業所表彰」において「奨励賞」を受賞しました。女性だけを優遇するのではなく、すべての社員が働きやすく、専門職がスキルを存分に発揮できる環境や、責任を持って挑戦する人が正当に評価・支援される風土づくりにも力を入れています。
ーー事業の強みである口腔ケアについても教えてください。
北村直也:
親会社が訪問歯科診療サポートのトップシェア企業のデンタルサポート株式会社で、日本最大の歯科医療グループであるDSヘルスケアグループの一員であることから、「口腔」に重点を置いたサービスは弊社の大きな特長です。
口腔内を清潔に保つこと、「食べる・飲み込む」などの口腔機能を維持することは、全身の健康や生活の質(QOL)に大きく関係しています。肺炎やインフルエンザなど感染症予防につながるのはもちろんのこと、認知症・生活習慣病(糖尿病・心疾患など)予防に効果が認められています。しかし、それらの認知度は残念ながら低いのが現状です。
弊社では口腔の専門家として歯科衛生士を雇用し、時間をかけてその重要性を伝え続けてきました。弊社のサービスを利用していただいている方々(ご利用者様・ご家族・ケアマネジャー)に関しては、確実に口腔に関する意識が変わってきていると感じています。
2030年に利用者5000人へ成長の未来図

ーー現在、特に注力している事業について教えてください。
北村直也:
柱は2つあります。1つは訪問看護です。以前はリハビリ専門職が中心のサービス提供をしていましたが、法改正を踏まえ、看護師が主体となる体制に方針転換しました。現在、リハビリ職と看護職の比率は5対5です。訪問看護はM&Aも積極的に実施しながら拡大を図っています。
もう1つはデイサービスのDX推進です。これは単なる業務効率化が目的ではありません。計画書作成ツールなどを導入し、利用者様の目標と成果を可視化することで、モチベーションアップと機能維持・回復に役立っています。それらのデータを国に提供することによって、よりよい介護保険制度の確立につながります。
ーー今後のビジョンをお聞かせください。
北村直也:
現在、月間で約2,600人の利用者様にサービスを提供していますが、2030年までにこれを倍の5,000人まで増やす目標を掲げています。この目標は、私が常に抱いている「一人でも多くの方と関わりたい」という思いの表れでもあります。訪問看護ステーションは現在の9か所から11か所以上へと拡大し、各事業所の規模も大きくしていきます。
デイサービスではオンラインサービス提供も活用し、利用者様との関わりを継続できる仕組みを考えています。入院などをきっかけにサービスが途切れることなく、切れ目のないサポートを実現したいのです。
将来的には、利用者様の状態に合わせて一貫したケアを提供できる体制を築きたいです。デイサービスから訪問看護、そして施設サービスへと、切れ目なく移行できる仕組みを整えたいと思っています。さらに、「通い」「泊まり」「訪問」を組み合わせた小規模多機能施設や、デイサービスと訪問介護のサポートなど、地域全体をまるごと支えられるような複合的なサービス展開を目指していきます。
編集後記
理学療法士として「多くの人と関わりたい」と願った思いが、北村氏の経営の原点となっている。社員の自己実現を第一に考え、口腔ケアやDXといった独自戦略で事業を成長させる手腕は見事だ。介護業界が抱える課題に真正面から向き合い、2030年に向けた明確な未来図を描く姿に、強い意志を感じた。同社がこれからどのように地域を支え、多くの人々の暮らしを豊かにしていくのか、その挑戦から目が離せない。

北村直也/1983年5月1日生まれ。2006年、理学療法士免許取得。2012年、デンタルサポート株式会社に入社、介護事業部に配属される。2015年に分社化してDSセルリア株式会社を設立、2018年、同社取締役就任。2021年に同社の代表取締役社長に就任(現任)。その後、2022年に公立大学法人青森県立保健大学の非常勤講師に就任し、同年8月には一般社団法人日本デイサービス協会理事に就任。2025年6月、一般社団法人全国介護事業者連盟の千葉県支部副支部長に就任。