株式会社ギミックは、掲載クリニック数約16万件の総合医療情報サイト『ドクターズ・ファイル』を運営する企業だ。医療機関や医師と患者の関係の再構築を目指し、新たな医療文化を創造するために革新的なサービスを生み出している。
医療業界では、情報のデジタル化が遅れる中、同社は「選ばれる医療」を提唱し、患者が安心して治療を受けられる社会を目指している。同社を創業した代表取締役社長の横嶋大輔氏に、その思いや展望をうかがった。
挑戦を続ける経営者マインドを確立させたリクルート時代
ーーまずは創業までの経緯を詳しくお聞かせください。
横嶋大輔:
広告業界に憧れていた私は、最初の就職先としてリクルートを選びました。リクルート時代は、「未来の商品はこうあるべきだ」「売り方はこうするべきだ」とイメージし、それを積極的に提案していました。その結果、上司や経営層に興味を持ってもらい、当時最年少で商品企画部長や営業企画部長に抜擢されたのだと思います。
リクルートにいた15年間は非常に充実したものでした。とくに最後の3年間は、商品開発や販売戦略に関わりながら、既存の事業の成長だけでなく、独立してゼロから自分のオリジナルメディアをつくり、新しい価値を発信したい気持ちが強くなりました。
自ら立ち上げたオウンドメディアで医療機関の情報提供に挑むため、社内制度を使って独立
ーー医療機関についての情報メディアを立ち上げたきっかけをお聞かせください。
横嶋大輔:
私はリクルートで多くの商品を企画し、育てる過程で、医療業界に特化したメディアの必要性を感じていました。当時、厚生労働省は2002年に医療に関する広告規制の緩和を進め、患者が迷うことなく近隣の医療機関を選べるように環境を整えていました。
その頃、私は医療機関情報のニーズを確認するため、主婦世代を中心にグループインタビューを行っていたのですが、コンセプトが確立したメディアが必要だという声が多く上がりました。ユーザーの考えと行政の方針が見事に合致したので、医療機関情報の将来性を確信したのです。
リクルートには、社員の独立を支援するという制度があります。私はこの制度を使って、2003年12月に医療情報に特化したメディアと提供するギミックを設立し、2004年4月に創業いたしました。
ーー医療情報を軸としたスタイルのメディアは、これまでにはなかったと思います。
横嶋大輔:
そうですね。当時は今と違って、患者が正確で信頼できる医療機関やドクターの情報を見つけにくかった時代です。そこで弊社では、医師の診療方針や思いを丁寧に取材し、患者が安心して選べる医療情報を発信するメディアを提供しようと考えました。そこで生まれたのが、現在約16万件のクリニック情報を掲載した地域医療の情報を紹介する『ドクターズ・ファイル』です。
ーー改めて、『ドクターズ・ファイル』について教えてください。
横嶋大輔:
『ドクターズ・ファイル』の目的は、患者が適切な医療機関やドクターを選べるようにするために信頼できる情報を提供することです。たとえば、大学病院で部長を務めた優秀なドクターが地元で開業していたとしても、多くの患者はその情報を知らず、総合病院に行ってしまうことがあります。
そこで、私は患者がより良い医療を受けるためには、地域の優れたクリニックやドクターについて患者が知る機会を増やす必要があると考えました。医師の診療方針や思いを取材し、紹介することで患者側が病院やクリニックを探せるメディアとして生まれたのが、『ドクターズ・ファイル』です。
新たな医療文化の創造を目指してギミックが描く未来絵図
ーー貴社が大切にしている思いについてお聞かせください。
横嶋大輔:
弊社では「新・医療文化創造」を目標として掲げています。これは、医療業界の慣習的な文化や考え方を変え、患者さんと医師の関係性をよりオープンで双方向なものにしようという理念です。
診察中に患者さんが質問できず、医師の話を聞くだけで終わることがいまだに多く見受けられますが、これは本来、サービス業の視点で考えると少し違うと思います。患者さんはお客さまであり、医師はサービス提供者であるという視点を、医療業界にも根付かせていきたいのです。
ーー具体的には、どのようなサービスがそれを実現しているのでしょうか?
横嶋大輔:
『ドクターズ・ファイル』のほかにも、弊社が提供している地域密着型の医療情報マガジン『頼れるドクター』などで患者さんに医師やクリニックの情報を公平に提供する役割を担っています。
たとえば、世間には「名医」という言葉があふれていますが、私たちはそうした観点でのラベリングは一切行いません。患者さんが本当に信頼できる医師は、患者の個性やニーズに応じて変わるべきものだと、私は考えているからです。
ーー従来の広告とは全く異なるアプローチですね。
横嶋大輔:
その通りです。私たちは特定のクリニックや医師に患者さんを大量に集客するような考えは持っていません。むしろ、各医師やクリニックの情報を整理して公平に提供し、患者さんが自分に適切な医師を自由に選択できる環境づくりを目指しています。
患者さんが「この先生に診てもらえるから安心」と信頼できる医師に出会えると、治療に積極的に向き合えるようになります。医師も自分の実力を存分に発揮しやすくなるでしょう。何よりも双方が信頼で結ばれていることが、医療の質を向上させる一番の鍵だと考えています。
ーー貴社が描く未来についてもお聞かせください。
横嶋大輔:
新規事業をいくつか進めていますが、医療業界にはさまざまな課題が残されています。課題解決のキーワードがデジタル化です。一般企業で当たり前のように使われているデジタルツールも、医療現場では導入が進んでおらず、アナログで対応しているケースが多いのが現状です。
たとえば、クリニックから総合病院への紹介状の作成も、いまだに紙ベースです。しかも、「出身大学だから」という理由で紹介先が固定されてしまうことも少なくありません。ですが、患者さんにとって適切な病院や専門医を紹介するには、過去の症例データや医療機関の特性がデジタルで共有・管理されていることが必要です。これまで感じていた不便さと不公平さを解決し、医療の質を高めるためにデジタルツールの提供を進めていきたいですね。
弊社は、高度なセキュリティ環境下でチャット機能やタスク管理機能、掲示板機能などを使って院内の情報共有を行うことができるクリニック専用の情報共有アプリ『ドクターズ・ファイル メディパシー』や、医療従事者の労務管理や人事評価をサポートする『ドクターズ・ファイル クリニコ』、医療従事者の転職を支援する『ドクターズ・ファイル エージェント』などのHRサービス、さらにはWEB予約管理サービス『ドクターズ・ファイル アポ レジタス』などもご提供しています。
今後もこうしたサービスを増やし、医療現場の効率化をはかっていく予定です。これからも事業展開の中心は、『ドクターズ・ファイル』です。医療情報のデジタル化とコミュニケーションの効率化を通じて医療業界全体により良い変化をもたらすことが私たちの使命だと思っています。
編集後記
患者が医師を自ら選び、医療現場がより信頼に基づいた関係で成り立つ社会を実現するために挑戦を続けてきた横嶋社長。デジタルツールの活用を通じ、医療情報の効率化や医療従事者の負担軽減も視野に入れたその先見性に驚かされるインタビューとなった。
横嶋大輔/1989年に株式会社リクルートフロムエー(現:株式会社リクルート)に入社。在籍中、最年少で商品企画部長・営業企画部長を歴任。現在、(株式会社ギミックで)稼動している営業支援システムの開発も担当する。2003年、社内独立制度を利用して、株式会社リクルーティング・ギミックを設立。翌年、現在の株式会社リクルートを退職し、株式会社リクルーティング・ギミック(現:株式会社ギミック)を創業。