
株式会社ミロク情報サービス(MJS)を率いる是枝周樹社長は、音楽への夢を胸に18歳で渡米し、挫折を経てビジネスの世界に飛び込んだ。営業現場での奮闘からIT業界の黎明期を駆け抜け、現在はMJSのトップとして変革を推進する。自己変革と挑戦を続け、顧客や社会への洞察を強みにこれまで事業を拡大してきた是枝社長の、異色の経歴に裏打ちされた経営哲学と、同社が目指す未来像に迫る。
サッカーと音楽に燃えた少年時代 海外への扉
ーー社長の原点ともいえる学生時代、特に情熱を注がれたことは何でしたか。
是枝周樹:
少年時代はサッカーと音楽に熱中していました。音楽は、特にフラメンコギターに夢中でしたね。サッカーにも注力していましたが、当時の日本サッカーはまだ発展途上。海外の進んだサッカー文化に強い憧れを抱き、フラメンコギターも本場スペインで学びたいという思いが常にありました。この海外への憧れが、後の渡米につながったのです。
ーーその情熱は、後の進路選択にどう影響しましたか。
是枝周樹:
中学の進路相談では「サッカー、ギター、スペイン語」と希望を伝えました。今思えば、先生は相当困惑したのではないかと思います。親の理解も得にくく、この時に留学することはできませんでした。最終的に日大付属高校に進学しましたが、海外への思いは募る一方だったのを覚えています。
18歳で渡米 音楽への情熱と直面した厳しい現実
ーーその海外への強い思いを胸に18歳で渡米されたのですね。現地での音楽活動についてお聞かせください。
是枝周樹:
はい、1982年にLAのギター専門学校に入学した私は、ハードロック全盛期のLAでバンド活動に明け暮れましたが、現実は厳しいものでした。言葉の壁、見えない「日本人」の壁、そしてメジャーデビューへの険しい道のりを感じました。
ーープロを目指す中で厳しい現実に直面し、帰国を決意されたのですね。
是枝周樹:
そうです。23歳の頃、音楽シーンの変化を感じ、このままでは夢が叶わないと思いました。10年後の保証もない世界で夢を追い続けることの厳しさと冷静に向き合い、日本へ帰国する大きな決断をしたのです。
訪問販売で培われた経営者としての「地力」
ーー帰国後、電話機の訪問販売という厳しい世界に飛び込まれたそうですね。
是枝周樹:
ええ。MJSの社長であった父(現・会長)に相談し、まずは他社に就職し、営業経験を積むことになりました。この電話機の訪問販売は本当に厳しい経験でした。今の時代と違い、見込み客リストなどないので全て突撃営業です。そこで朝8時半に出社し、8時50分には担当エリアに着くようにしました。この時間は営業先である中小企業の社長が始業前にコーヒーを飲みながら新聞を見ているので、その場を狙って営業し契約にこぎつけてきたのです。
ーーそのご経験から得られたものは、現在の経営にどう活きていますか。
是枝周樹:
即決契約が基本で、毎日が数字との戦いでした。地べたを這いつくばる仕事でビジネスの厳しさを知り、お客様の懐に入る力を鍛えられた経験が今でも活きています。商品力に大差がない電話機を売るには、圧倒的な活動量と人間力が全てです。この経験が今の私の根幹であり、訪問販売を経験して本当に良かったと思っています。
IT業界への転身、そしてミロク情報サービス社長就任までの道程

ーーその後、IT業界へ転身された経緯をお聞かせください。
是枝周樹:
訪問販売でトップセールスを記録した後、MJSの当時の子会社だったボイスメールサービスを提供する会社へ移りました。その後、ダイヤルQ2サービスへの参入や、クレジットカード決済が可能な情報料課金プラットフォームの構築などを手掛けたことが、IT業界へ足を踏み入れたきっかけです。日本のインターネット決済ビジネスの草分けに関わりました。
ーーインターネットビジネスの黎明期に関わり、その後MJSの社長に就任されたのですね。
是枝周樹:
はい。大きな成功と失敗を経てMJSに入社しました。MJSは安定した基盤を持つ一方、新しい技術への対応や長期的な投資には課題がありました。そのため、社長就任時は、良き伝統を守りつつ、時代に対応できる企業へ変革する強い使命感を抱いていたことを覚えています。当時は、特に戦略的投資と経営基盤強化が急務だと考えていたのです。
「新たな価値創造へのチャレンジ」ミロク情報サービスが目指すビジネスモデル変革
ーーMJSが取り組む「新たな価値創造へのチャレンジ」とは、具体的にどのようなものですか。
是枝周樹:
弊社は、経営方針にもあるように「コンサルティング・セールス」すなわち単に製品を売るのではなく、個々の状況に合わせて経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を管理する業務システムや経営情報サービスの提供により、お客様の経営課題解決に取り組んできました。中でも近年強化しているのは、お客様にとって心地良い顧客体験の提供と、お客様を成長や成功に導くカスタマーサクセスの実現です。
そのための施策の一つとして、地域密着でお客様を伴走支援するDXコンサルティングサービスに力をいれています。お客さまへのヒアリング・課題抽出・分析等を行い、全体最適に向けたゴール設定と改善提案を行えるIT人材での育成を進めており、現在、営業職を中心に130名以上が経済産業省推進資格「ITコーディネータ資格」を取得しています。
ーー顧客に提供する価値が変わる、ということですね。
是枝周樹:
その通りです。財務会計に留まらず、販売管理や人事給与なども含め、経営全体の効率化に貢献することが重要です。そのために、製品単体で無く、コンサルティング・セールスにより新たな価値を提供し、お客さまとの関係を深化させて、お客様の更なる成長・成功の実現を目指します。これは人的資本が生み出す価値を最大化する挑戦です。
未来を創造する 中期経営計画「Vision 2028」とその先へ
ーー中期経営計画「Vision 2028」では、どのような未来を描いていらっしゃいますか。
是枝周樹:
戦略的投資を継続的に行えるよう予算を策定し、持続的な成長と企業価値向上を目指しています。マーケットからの信頼獲得と確実な成長が重要です。
ーーその先にどのようなMJSの姿を見据えていますか。
是枝周樹:
さらなる成長が望めると思っています。時代が我々のやろうとしていることに追いついてきたと感じているのですが、重要なのは、それを実行できる人材を育て、組織として力を発揮することです。求職者の方々には、MJSの変化への対応力というDNAを感じてほしいです。新しい挑戦をしたい方と共に、MJSの次の50年を創りたいですね。
編集後記
是枝社長のキャリアは、音楽への夢から始まり、ビジネスの最前線での奮闘、そして大企業のトップへと続く、波瀾万丈の物語だ。その根底には、現状に甘んじず変化を求め、困難に立ち向かう強靭な精神と情熱があった。「ビジネスモデル変革と新たな価値創造へのチャレンジ」を掲げ、MJSを新たなステージへ導こうとする挑戦は、社長自身の生き様を映し出す。その力強い言葉と未来への確信は、多くの人々に勇気を与えるだろう。

是枝周樹/株式会社ミロク情報サービス 代表取締役社長。1964年生まれ。学生時代はサッカーと音楽に情熱を注ぐ。1982年渡米し、プロのミュージシャンを目指すが帰国。電話機販売会社でトップセールスを記録後、1994年、株式会社ミロク情報サービス(MJS)取締役に就任。グループ会社にてインターネット決済ビジネスの先駆けとなるサービスを手掛ける。2005年にMJSの代表取締役社長に就任。