DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及と共に、ITツールには業務の伴走が求められるようになってきた。株式会社NTTデータ イントラマートの代表取締役社長 執行役員である中山義人氏は、DXという言葉が登場する前から、この状況を見越したようなシステムを生み出していた。
そのシステムこそが、ローコード(※1)でシステムの内製開発を後押しする『intra-mart(イントラマート)』だ。このアイデアはどのようなきっかけから生まれたのか。また、経緯やローコード開発の未来、日本のビジネスの課題などを中山氏に聞いた。
(※1)ローコード:ソースコードを書く手間を最小限に抑えたシステム開発手法
社内ベンチャーで成功をおさめ、専門会社として独立
ーー中山社長の経歴をお聞かせください。
中山義人:
私はもともと株式会社NTTデータの社員でした。新卒で新規立ち上げのERPパッケージ(※2)開発部署に配属され、パッケージ完成後は導入補助にも携わりました。今思えば、開発から導入補助まで携われたのは、良い経験でしたね。
入社から6〜7年経って仕事に慣れると、業務内容に疑問が生じたり、違和感を覚えることが増えました。特に、ERPパッケージに仕事のやり方を合わせるために、顧客の強みが打ち消されてしまう点は問題だと感じていました。
「これをどうにかできないか」と考えていると、ちょうど社内でベンチャー制度が始まりました。私は契機と考えて、『intra-mart』を武器に、早速応募しました。この『intra-mart』事業は無事採択され、2000年には専門会社として独立。2001年に代表取締役社長に就任して今に至ります。
(※2)ERPパッケージ:社内業務プロセスの一元管理により、効率性や生産性向上を目指すソフトウェアパッケージ。ERPの正式名称はEnterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング/企業資源計画)
ーー社内ベンチャー制度から始まった事業が成長に至るまでの経緯を教えてください。
中山義人:
社内ベンチャー制度は、3年以内に黒字化できれば成功と評価されます。弊社が優秀な人材に恵まれていたことや、顧客の潜在ニーズへの訴求に成功したことで、1年目から黒字化に成功しました。
『intra-mart』はリリース直後から反響が大きく、1年目からJAL(日本航空株式会社)や日本興業銀行(現:みずほ銀行)などの大企業にも導入いただきました。独立してからも事業は好調に進み、2007年に上場を果たして、順調に3,000~4,000社へと顧客数を増やしていきました。
核心に迫るソリューションを生み出すために、終わりなきチャレンジを
ーー中山社長が大切にしている考えについて、お聞かせください。
中山義人:
常に「チャレンジする姿勢」を持つようにしています。また、チャレンジによる失敗は許容すべきと思っており、会社の社風にも取り入れています。
失敗とは単なる損失ではありません。失敗からしか得られない学びがありますし、多くの失敗と試行錯誤は製品がヒットする確立を高めることにも役立ちます。
また、製品づくりでは「顧客目線」を大切にしています。顧客を物事の起点にすることで顧客のニーズや必要な価値が連想でき、核心を突いたソリューションがつくれるのです。
ローコード開発プラットフォームで企業におけるシステムの内製開発を後押し
ーー貴社の事業内容を改めて教えてください。
中山義人:
システムのローコード開発プラットフォームを提供しています。ローコード開発はブロックを組むようにシステム構築が可能なので、システムの内製開発が容易になります。
内製開発はリアルタイムにカスタマイズできるのが強みです。これにより、システムを会社の個性に合わせやすく、DXの浸透に伴ってニーズが高まっている「システムによる付加価値の創出」の実現にも有効です。
ーー貴社独自の強みは何でしょうか?
中山義人:
ローコードを使って、会社の中枢業務で使えるような大規模システムを構築できること、そして多くの会社と接点をもっていることです。
弊社の製品は製造業におけるサプライチェーンの管理システムや、保険業界における契約管理システムなども構築可能です。この強みのおかげで大企業をはじめとする10,000社以上に選ばれています。
この10,000社以上との接点は、ビジネスチャンスの創出にも役立ちます。弊社では仕事の効率を根本から見直す「業務改革コンサルティング」も提供しているので、お客様には積極的に弊社との接点を活用していきたいですね。
また、手軽に導入できるクラウド版もリリースしたので、今後は中小企業を含め、より多くの会社とつながりたいと思っています。
企業独自の個性や価値の向上で、多様な社会の実現を目指す
ーー今後、特に注力したいテーマを教えてください。
中山義人:
日本の企業構造に多様性をもたらしたいと思っています。現在の大企業から中小企業へと裾野が広がる環境から、中小企業も個性や強み次第で成長できる環境へと変化させたいですね。
そうなれば、中小企業同士のコラボレーションにより価値の創出が活発になるでしょうし、今よりもいろいろな人が輝ける社会が訪れるのではないでしょうか。そのためにも、クラウド版を足がかりとして、より多くの顧客との接点をつくっていきたいと考えています。
自社における課題としては、売上の継続的な拡大と安定が課題です。クラウド版の導入で顧客と接する機会が増えたので、業務改善コンサルティングを積極的に提案しながら、5年後までに年間売上を現在の約100億円から200億円以上にまで拡大していきます。
新たなソリューションを生み出せるかは、日々の生き方次第
ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。
中山義人:
ぜひ日々「チャレンジ精神」をもって過ごしてください。目的意識は成長を後押ししてくれますし、逆に目的意識がないと、毎日がなんとなく終わってしまう可能性もあります。
また「好奇心」も大切です。日々登場する新技術の開発背景や普及した理由などを自ら率先して調べることで、ソリューションの創造に最も重要な「将来を読む力」の糧にできるでしょう。
私たちが取り組むべきは、社会に隠れた課題をソリューションで解決することです。日々創造力を鍛え続け、少しでも快適で豊かな未来を一緒に見つけに行きましょう。
編集後記
人類は道具の進化で時代を切り開いてきた。ITツールもしかり。ただし、使い方次第で辿り着く未来は変わるだろう。中山社長が目指す「会社が強みを生かせる社会」には、どのような景色が広がっているのだろうか。中山社長の描く未来に期待が膨らむばかりだ。
中山義人/1992年、エヌ・ティ・ティ・データ通信株式会社(現:NTTデータ)入社。2000年、株式会社NTTデータ イントラマートを設立し、2001年、代表取締役社長に就任。2021年、東京大学大学院博士課程(工学系研究科先端学際工学専攻)を修了。現在は武蔵野大学特任教授も務める。