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2025年に3677万人、2042年には約4000万人にのぼると予測される高齢者人口。その一方で、生産年齢人口は減少の一途を辿り、医療・介護の担い手不足は深刻さを増している。厚生労働省の試算によれば、2025年には看護師は50万人以上、医師は3〜5万人、介護職員に至っては100万人以上の人材が不足するという。
ひっ迫する状況の中、在宅医療・介護業界に新たな風を吹き込もうとしているのが株式会社ゼストだ。「従事者を護る」という理念のもと、デジタル技術を活用して業界の構造的な課題に挑む一色淳之介社長に、その取り組みと未来像を聞いた。
社会課題を解決する意義への共感で集めた仲間と新たな挑戦
ーーまず、社長になるまでの経歴を教えてください。
一色淳之介:
私は大学院卒業後の2009年、P&Gのマーケティング本部に就職し、パンテーンやH&Sといったヘアケアブランドを担当し、2012年末に退職しました。その後、現在のYCPグループの創業期に参加し、企業のマーケティング支援や新規事業開発のコンサルティング、再生支援など、多岐にわたるプロジェクトを手掛けました。
YCPグループに在籍中、知人から「面白い企業がある」と紹介していただいたのが、株式会社ゼストでした。これから成長する企業に対する高揚感を覚え、転職を決意しました。その後、2022年に弊社の社長に就任し、現在の経営陣をイチから集め、ほとんど起業に近い状態から事業を再構築しました。
ーー就任後、苦労されたことはありますか。
一色淳之介:
就任当初、売上がほとんどなかったため、仲間を集める際には経済的な条件ではなく、私たちが世の中に対して何を提供できるのか、社会課題解決への意義に共感してもらう必要がありましたが、そこには一つクリアしなければならない課題がありました。
社会課題を解決する、そして顧客へ価値を提供するために、最低限のプロダクトはあったものの、仕様は古く、また使用言語の問題を含め改修がし難いことが大きな課題でした。さらには顧客へより高いレベルで価値を提供していくには今のままでは不十分であることは明白でした。
そこで、今あるプロダクトを改修し続けていくのか、より費用や時間はかかる一方、新たに参画したCTO(開発責任者)のもと集結したエンジニアチームで、0ベースで作り直すのか、その意思決定は重要かつ難しい問題でした。結果として、新たに作り直す道を選びました。
また、在宅医療・介護業界ではアナログな事業所が多く、デジタル化の必要性を理解してもらうのに苦労しました。特に40代から60代の方々には、電子化に対する心理的ハードルが高く、意義を丁寧に説明し、重い腰を上げてもらう必要がありました。
スケジュール作成サービスで効率化と働き方改革を実現
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ーーどのような事業を展開されていますか。
一色淳之介:
在宅医療・介護に特化し、事業所の経営効率を向上させるクラウドサービスを提供しています。現在、この業界は急速に成長しています。特に人が訪問する部分に着目し、訪問スケジュールを自動作成するサービスの提供を始めました。
従来の方法では、スケジュールの組み方を間違えてしまうと、1日6件訪問できるところが、4件しか訪問できないことがありました。さらに、スケジュールを作成するスタッフは、多数の訪問案件を抱えながら急な変更にも対応しなければならず、その調整が長時間労働につながっていました。私たちは、この課題をデジタルで解決するサービスを提供し、事業所の業務負担軽減に貢献しています。
このサービスによって、より多くの利用者をサポートできるようになると、人手不足という社会課題の解決にもつながります。同時に、事業所の売上が増加し、経営が安定することで、最終的には従業員の待遇改善につながり、労働人口の増加にも寄与すると考えています。
ーー社長が大事にされている価値観はありますか。
一色淳之介:
大切にしている価値観は3つあります。1つ目は、「お客さまを第一に考えた意思決定」です。ただし、お客さまの要望をそのまま形にするのではなく、「もっと良い解決策」を私たちが提案することに重きを置いています。「お客さまにとって本当に必要なもの」を徹底的に追求しています。
2つ目は、「正しいことをする」です。日本社会全体の課題から、ビジネスやお客さまとの関係まで、さまざまな視点を考慮して正しい判断を下すことが重要だと考えています。
3つ目は、定量的考え方と定性的考え方の双方を大切にすることです。医療介護業界の事業者は「社会に貢献する」という意識が強い一方、ビジネス的な定量思考が弱い傾向があります。そのため、感覚的な判断や「こうあるべき」といった価値観を、いかに数字に落とし込み、議論していくかを意識しています。
2050年の医療を見据えた長期ビジョン
ーー貴社で働く魅力を教えてください。
一色淳之介:
私たちの会社では、バリューの1つとして「ありがとう、その一言のために」を掲げています。訪問医療・介護に携わる方々は、多くが「高齢者を支えたい」「地域医療を守りたい」という強い想いで仕事をされています。私たちが提供しているサービスは、そうした方々を支援するものであり、彼らの想いに共感し、事業改善まで寄り添いながらサポートできる人が活躍しています。
在宅医療・介護の業界は、地域社会において必要不可欠な存在です。その従事者を支える仕事には、大きなやりがいがあると感じています。
ーー社長から見た貴社の強みはありますか。
一色淳之介:
弊社の大きな強みは、従事者不足という深刻な課題に対し、解決の可能性を提供できるプロダクトを持っていることです。特に、訪問スケジュール管理に注目している企業は少なく、導入社数では業界ナンバーワンクラスの地位を築いています。アナログからデジタルへの移行を支援し、効果をともに創出していく過程で、結果として日本だけでなく、世界的な社会課題の解決に貢献できる点が、大きな魅力だと考えています。
ーー今後の展望を教えてください。
一色淳之介:
弊社は現在、人材不足という課題を解決するサービスを提供しています。しかし、今後は高齢者を税金で支える制度が厳しくなることを見据え、在宅医療・介護業界を持続可能にするために、経済面の課題も解決できるサービスを提供する必要があります。2040年、2050年に「この業界が良い状態を保てた」ことの理由の1つにゼストが挙げられる、そんな会社をつくっていきたいと思っています。
編集後記
「最後は住み慣れた家で暮らしたい」という利用者の想いに寄り添い、在宅医療・介護従事者は、ときに自己犠牲を強いられながら仕事に向き合っている。その現場を支えようとする姿勢が、株式会社ゼストの強みだ。デジタル化を押し付けるのではなく、従事者と一緒に改善を目指す姿勢が頼もしい。
私たちにとっても、いつか必要となる医療・介護。いざその時が訪れたときに、安心して支援を受けられる社会を築くために。在宅医療・介護従事者と株式会社ゼストの歩みは、まだ始まったばかりだ。
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一色淳之介/P&Gジャパンのマーケティング部門に所属し、日本およびシンガポール市場のヘアケア商品のマーケティングに従事。その後、株式会社YCP Solidianceに参画し、パートナーとして、さまざまな企業に対するマーケティング、経営戦略、新規事業立案などのコンサルティング支援を行う。2022年、株式会社ゼストに入社。代表取締役社長に就任。