※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

物流は「経済活動の血流」とも称され、社会インフラとして重要な役割を担っている。しかし、運送業界は深刻な人手不足、働き方改革への対応、環境負荷の低減など、さまざまな課題に直面している業界でもある。

このような状況の中で、「人を大切にする」という創業時からの理念を守りながら、時代の変化に柔軟に対応しつつ着実な成長を続けている丸和運輸株式会社。同社は、従業員の幸せを経営の最優先課題と位置づけ、「年輪経営」という独自の経営スタイルを確立し、安全性の追求や新たな価値創造に挑戦し続けている。取締役会長の藤本元一氏と、代表取締役社長の藤本智治氏に、経営哲学や未来への展望についてうかがった。

従業員の幸せ最優先の企業理念ー創業時から受け継がれる「丸和の心」

ーー創業から現在までの歩みをお聞かせください。

藤本元一:
弊社の創業は、戦後の貿易業撤退を経て、創業者である父がリヤカー1台で運送業をスタートしたのが始まりです。当時は人力や馬車で荷物を運ぶ時代で、材木や近隣の家財を運び、評判が信頼を生み、幅広く仕事を請け負うようになりました。

やがて、運搬能力の限界と時代の変化に応じて自動車を導入し、さらには物流センター運営事業や輸出入業務などの海外物流まで事業を拡大し、現在に至っています。馬車を活用していた時代は、餌の確保から厩の掃除まで、馬の面倒を家族で担当していたので、大変苦労した思い出がありますね。

ーー社長就任までの経緯と経営において大事にしていることを教えてください。

藤本智治:
私は桃山学院大学に進学後、静岡県の大富運輸に入社し、運送業と倉庫業について学びました。その後、1989年に丸和運輸に入社、当時主力荷主の鉄鋼卸商社である株式会社カワイスチール東京本社にて約1年間出向経験も含めて、枚方、東大阪、仙台の各営業所で現場経験を積み、三代目として社長に就任しました。

私の経営の第一の目的は、利益の追求だけではなく、従業員やその家族、お客様の幸せです。根底にあるのは、創業者から継承されている「チームワークが素晴らしく、和のただよう会社にしたい」という思いです。それは「丸和のこころ」として、従業員の成長と幸福を軸に掲げ、弊社のロゴマークにも反映されています。

また、派手な結果を求めるのではなく、木の年輪のように、少しづつ着実に実績を積み上げていくことを大切にするという考えを「年輪経営」として大事にしています。「昨日より今日、今日より明日」と日々の努力を積み重ね、年輪のように会社を大きくしていきます。

事業面では、安全・安心への徹底的なこだわりが根幹にあります。弊社のドライバーを対象に、無事故・無違反365日×10年間達成を目標にした「チャレンジ3560」を推進しています。対象の範囲は、仕事だけではなくプライベートも含んでおり、間もなく達成者が出る予定です。

物流業は人と人、地域と地域を結ぶ大切な仕事です。従業員の時間は命と考え、無理のないシフトを組み、働きやすい環境づくりに注力しています。これからも「この会社に入ってよかった」と感じてもらえる環境整備を進めていきます。

ーー事業内容についてお聞かせください。

藤本智治:
弊社は、以下の3つの事業を軸に幅広いサービスを展開しています。まず、特殊鋼材をはじめとする一般貨物の輸配送サービスおよび産業廃棄物収集運搬業を展開しています。関西圏を中心とした全国規模での物流対応を行い、重量物や大型貨物の取り扱いにおける豊富な経験と専門知識を活かしてお客様の多様なニーズにお応えしています。

2つ目に、国際物流サービスを基盤とした事業では、通関業務を含めた輸出入サポートを提供する。大阪南港を拠点とする物流センターの運営を通じて、国内外のお客様のサプライチェーンを効率的かつ高品質に支える体制を構築しています。

3つ目は新規事業として注力しているホスピタリティツーリズム事業です。空港から宿泊施設への手荷物配送を行う「手ぶら観光支援サービス」をはじめ、日本製スーツケースの販売など、訪日観光客の利便性向上に寄与するサービスを提供しており、観光需要の高まりに対応した新しい価値の創出を目指しております。

デジタル技術を融合させた革新的配送サービス「手ぶら観光」

ーーKDS(KIX DELIVERY SERVICE:キックスデリバリーサービス)について教えてください。

藤本智治:
KDSは関西空港と大阪・京都の3拠点を結び、スーツケースや手荷物を当日中に配送するサービスです。空港からホテルへ、ホテルから次の滞在ホテルへと荷物をスムーズに届けることで、観光やビジネスに手ぶらで向かうことができる画期的なサービスを提供しています。

観光客でにぎわう大阪の街に感化され、何か観光に貢献したいという視点で生まれた事業で、最近、サービスエリアに京都を追加しました。京都には1000件のホテルが存在するため、多くの需要が見込まれています。

このサービスでは、WEB予約をはじめとして、空港でスーツケースにつけるタグの自動発券機を車載するなど、デジタル化も進めており、2015年のサービス開始以来、事故や遅延のない運営を維持しています。リピーターも増加しており、今後は関西空港・大坂・京都を結ぶ三角地帯で効率よく質の良いサービスを提供することを目指して、他社との協業も進めています。

ーー今後のビジョンについて教えてください。

藤本智治:
超高齢化社会を見据え、「親孝行ハイヤーサービス」を新規事業として検討中です。高齢で身体が少し不自由になった家族に、桜や紅葉を見せたい、おいしい食事に連れていきたいという願いをかなえ、おもてなしの心で思い出作りのサポートができればと考えています。

また、スーツケースの廃棄が問題視されているため、空港や駅での回収と適切な処理サービスの実施も検討しています。環境への配慮と、課題解決に貢献していきたいですね。今後も他社と競争するのではなく、誰も手掛けていないニッチなニーズを探し、「丸和のこころ」「年輪経営」を胸に新たなチャレンジを続けていきます。

編集後記

インタビューを通じて丸和運輸株式会社の「人を大切にする」という理念が、いかに企業の持続的成長につながるかを再認識した。藤本会長と藤本社長の言葉からは、創業当初の精神を大切にしながらも、時代の変化に柔軟に対応する姿勢がひしひしと感じられた。

特に印象的だったのは、「年輪経営」の考え方だ。短期的な利益追求ではなく、従業員の成長と幸福を軸とした長期的な視点は、現代のビジネス環境において貴重な存在だ。丸和運輸の経営哲学と事業展開は、物流業界のみならず、日本企業全体にとって重要な示唆を与えることだろう。

藤本元一/1933年生まれ。1950年に大阪市立上宮高等学校卒業。1953年に丸和運輸株式会社取締役に就任。1958年に丸和運輸株式会社代表取締役に就任し、現在に至る。

藤本智治/1964年大阪府生まれ。1982年桃山学院大学入学。1987年静岡県の大富運輸株式会社に入社し、運送・倉庫業について学ぶ。1989年丸和運輸株式会社に入社後、枚方、東大阪、仙台などの営業所勤務、並行して当時主力荷主の鉄鋼卸商社のカワイスチール東京本社へ約1年の出向。取締役、専務取締役を歴任。2006年代表取締役就任。年輪経営を軸とし、人を大切に、みんなが幸せになる経営を目指している。