2012年エコドライブ活動コンクール「最優秀賞」受賞、2013年環境大臣賞「環境保全功労者表彰」受賞など、安全運転と地域貢献で数々の実績を重ねてきたのが、運送業を営む株式会社新宮運送である。
父であり創業者の故・木南岩男さんから引き継いだ、木南一志氏が2000年から社長を務めている。無事故・無違反・無トラブル4000日を目指す『S-DEC運動』を展開するなど、順調に歩んできたように見えるが、その過程ではさまざまな困難があった。
困難をどのように乗り越えたのか、木南一志氏に話を伺った。
経営者を夢見ていた
ーー経営者になったきっかけは何だったのでしょうか。
木南一志:
弊社は父が創業した会社です。実家のとなりに会社があったため、父や社員の仕事を身近で見られる環境で育ちました。自身も小学生の頃に松下幸之助さんの本を読んで、自然に経営者になりたいという夢を持つようになりました。
そして、弊社に入社しドライバーになりました。1989年、私が30歳の時、お客様から私に仕事を依頼されたことをきっかけに「兵庫物流」という別会社を作り、社長となりました。
しかし、憧れの経営者になれたものの、中身がついてきていませんでした。売上・利益を優先して現場を追い回すようになってしまい、社員がついてきてくれなかったのです。
利益だけを求めるのではなく、意味のある生き方へ
ーー社員がついてこないところから始まって、どのように変化したのでしょうか。
木南一志:
2000年に弊社の社長になりましたが、翌年スキルス胃がんが見つかり、即手術といわれました。
胃を2/3切除する手術が成功したあと「後の人生は悔いなく生きよう」と考えるようになりました。そのタイミングで、株式会社イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏から、中国春秋時代の斉の政治家『晏子』の本をいただきました。
この本に「益はなくとも、意味はある」という言葉が書かれていました。「利益や見返りがないからといって、積み重ねた努力は無意味ではない」という意味です。
この本を読んで「利益を求める生き方よりも、意味のある生き方をめざそう」と、人生観や経営スタンスが大きく変わりました。
ーー掃除への取り組みにより、どのように変わったのでしょうか。
木南一志:
掃除を真剣に行う前は、ドライバーの交通事故に歯止めがかかりませんでした。走った分だけ売上になるため、私の表情が「売上げを伸ばせ」という状態だったと思います。その中で、掃除で会社がよくなるならという気持ちで真剣に掃除をはじめました。
しかし、真剣に掃除をやってみると、とても奥が深かったのです。性格や生活態度、生き方というものが掃除にすべて出てきます。
掃除は誰でも簡単にできるものです。その掃除に、当たり前のことを自分でどこまで考えてやろうとしているか、後始末がしっかりできるか、とってつけたような仕事になっていないか、問題から逃げていないかなど、学ばされることがたくさんあります。
掃除によって私が変わり、そのうち早出して掃除をする社員も現れました。掃除により社員の仕事が丁寧になっていくことで、交通事故が減っていきました。
無事故・無違反・無トラブル4000日を目指して
ーーその後は、順調に改善されたのでしょうか。
木南一志:
1993年から始めたS-DEC運動「無事故・無違反・無トラブル4000日」は現在、11年間無事故・無違反・無トラブルを達成したドライバーが22人います。また、創業以来死亡事故は0です。
地域に必要としてもらえる会社にしたい
ーー貴社の今後について、ビジョンをお聞かせください。
木南一志:
「この会社がここにあってよかったな」といってもらえるような、地域に必要としてもらえる会社にしたいと考えています。家や地域の中で「この人がいてくれるから、うまくいく」といってもらえるような人材が集まった会社であれば、地域で必要としてもらえます。
弊社の現場は、いわゆる縁の下の力持ちといわれるような仕事がほとんどです。社会的に大きく絶賛されるということは、まずありません。
だからこそ「こういうことをやってくれてよかった、ありがとう」という感謝の言葉を、お互いにかけられるような会社にしていきたいです。
当たり前のことを当たり前にできるような人が集まっていれば、会社全体がよくなっていく、こう考えています。
ーー売上や利益が第一ではないのですね
木南一志:
会社は法人格があります。つまり1つの人格です。利益が先ではなく、会社という人として、どう生きるべきかが求められています。そう考えると必然的に、利益ではなく地域貢献が先になります。
また、会社を大きくすることが立派とは考えていません。時代の変化に合わせて小さくすることも、ときには必要です。
ーー最後に、どのような人材を望んでいますか
木南一志:
安全運転を追求する、ドライバーとして自らのレベルアップを目指すことを真剣に考える人です。弊社への入社と同時に、無事故・無違反・無トラブルの運動に参加してもらうことになります。そこに真剣に向き合える人を弊社は支援していきます。
編集後記
子どもの頃から経営者に憧れていたものの、中身が伴わず苦労をした木南社長。がんを乗り越え、掃除と真剣に向き合うことで、木南社長自身が変わり、社員と会社も変わっていった。
株式会社新宮運送は利益重視ではなく、人としてどう生きるべきかを常に考えている。これからも安全運転と丁寧な仕事で、地域に必要とされ続けるだろう。
木南一志(きみなみ・かずし)/1959年1月3日兵庫県生まれ。1984年、株式会社新宮運送に入社。1989年、兵庫物流を設立して社長に就任。2000年に株式会社新宮運送の社長に就任するも、翌2001年に胃がんを発症。イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏から送られた本と掃除に向き合うことで人生観や生き方が変わり、会社も変わっていく。2012年エコドライブ活動コンクール「最優秀賞」受賞、2013年環境大臣賞「環境保全功労者表彰」受賞、2022年10月国士交通大臣表彰受賞。