
IT業界では、多重請負体制や労働集約型ビジネスモデルの限界が指摘されている。そんな中、火中の栗を拾う企業文化で顧客との20年以上の長期的関係を築き上げてきた企業がある。株式会社アルネッツは、困難な案件にも果敢に挑戦し、その「超速」の開発力で顧客の期待を超える成果を上げている。今回は同社の代表取締役社長である渡邉輝明氏に話をうかがった。
予想外の社長就任がもたらした変革の風
ーー社長就任の経緯を教えていただけますか?
渡邉輝明:
前職の取締役を退任して個人で会社を1年半ほど経営した後、アルネッツに入社しました。1年ほど役員を務めていたのですが、会社の25周年パーティーの席で、前社長がサプライズで「今日で社長を辞める」と言い出したのです。将来的には私が社長になる話はあったのですが、まさかこのタイミングで?とびっくりしたのを覚えています。
ーー就任時の心境はいかがでしたか?
渡邉輝明:
びっくりした、が一番でしたが、「やってやるぞ」という気持ちが強かったです。この会社は既にしっかりとした基盤がありましたが、労働集約型ビジネスに依存しない会社経営を目指す必要性を感じていました。ITの世界では多重請負体制が問題になっていますが、そこを解決する「内製化」のサービスを展開していきたいと考えています。
困難な案件こそチャンス。「火中の栗を拾う」企業文化

ーーアルネッツの強みについて教えてください。
渡邉輝明:
“私たちは「火中の栗を拾う会社」です。”といつもお客様にご案内をしております。IT業界では炎上案件というのがよくありますが、そういった困難な案件こそチャンスだと考えています。お客さまが本当に困っていて、誰も助けられないような案件こそ、私たちはお客さまのために動きます。
そうすることで、「何かあったときに助けてくれる」とお客さまから信頼を獲得できると思っています。実際、弊社の顧客の半分以上が20年以上のお付き合いで、担当者が変わっても取引が続いていることが一つの証明かと思います。
また、弊社では「Seven Keys」というプロジェクトを進めています。これは7個の業務課題に対して担当者を置いて、それぞれが目標に向かって取り組むというものです。たとえば「プロジェクトマネージャーを増やそう」や「会社のルールを整えよう」など。この7つが達成できれば、会社はさらに強くなると思っています。
「超速」の開発力がもたらす顧客満足
ーー「超速」という言葉が貴社の特徴だと聞きました。
渡邉輝明:
弊社は「“超速”で『価値ある未来』を創造る」というミッションを掲げています。記憶に新しいのは、ある医療学会での出来事です。コロナ禍で現地開催ができなくなり、バーチャルで開催する仕組みが必要だという相談を7月末に受けたのです。
学会が10月に迫る中、2ヶ月でシステムをつくり上げました。お客様は本当に驚いていましたね。この「超速」の開発力が、お客さまの期待を超える結果につながっているのだと思っています。
ーー「超速」を支える仕組みはありますか?
渡邉輝明:
仕組みの一つに、「社内副業制度」があります。自分の仕事以外の時間で、土日などに会社の仕事をアルバイトできる仕組みです。最近あった緊急案件では、募集をかけてから3分で5名が集まりました。若い人たちが「やります!」と手を挙げてくれる。この助け合いの精神が、私たちの強みにつながっていると思います。
AI時代を見据えた新規事業展開
ーー最近取り組まれている新しい事業について教えてください。
渡邉輝明:
今、力を入れているのがAI、特にAIを使った翻訳動画を作成するサービスです。たとえば、アニメの吹き替えを元の声優の声で他言語に変換するといったもので、口の動きまで合わせられます。これは海外進出を支援するツールにもなりますし、社内の教育用途にも使えると考えています。
見ないと分かりにくいサービスなので、是非一度見て頂きたいですね。chatGPTなどの生成AIは今後のすべての業界に欠かせないですが、どう使うのか、人間の手をどう加えるかでこそ高品質なサービスが提供できると考えています。
ーー最後に、貴社の未来像をお聞かせください。
渡邉輝明:
大切にしているのは、自分らしく働ける組織づくりです。毎年、社員に「お金・やりがい・時間」の中で、何が一番大事かを聞いています。それぞれのライフステージに合わせて、働き方を選べる。そんな会社にしていきたいですね。
編集後記
渡邉社長の語る「火中の栗を拾う」精神は、単なるスローガンではなく、社員一人ひとりに浸透した企業文化だ。困難な案件に果敢に挑戦し、「超速」で解決する。そんな姿勢が、20年以上続く顧客との信頼関係を築いてきたのだろう。技術革新と人間性の調和を図りながら、IT業界の未来を切り拓いていく。その姿は、まさに次世代のIT企業の在り方を示しているように思えた。

渡邉輝明/1985年生まれ、北里大学卒。2014年株式会社パイプドビッツに入社し2015年11月、同社事業部長就任。2018年株式会社フーバーブレイン入社、執行役員営業企画室室長就任。2019年、同社取締役NWセキュリティ事業部の取締役就任。2021年株式会社フーバーブレイン取締役退任。2022年4月アルネッツに入社し取締役就任。2023年株式会社アルネッツ代表取締役に就任した。