※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

建設工事を行う会社、そう聞いて思い浮かべる一般的なイメージをことごとく覆しているのが、豊和工業株式会社だ。取材で訪れた私たちを迎えたのは、アロマの香りが漂うモダンな新社屋。

2024年に始めたインスタグラムの運用も好調で、発信力を活かした新たな取り組みが注目を集めているという。一体なぜ、このような会社づくりを行っているのか。代表取締役社長の村上圭氏にお話をうかがった。

そろばんからスマホへ、現場から変えるDX

ーー入社するまでのご経歴を教えてください。

村上圭:
創業者は曽祖父と祖父で、弊社は私にとって家業にあたります。ただ、私が大学を卒業した1994年はバブル崩壊の直後で経営が厳しく、現実的に入社は不可能でした。また、自分の実力で道を切り開きたい気持ちが強かったので、私自身、当時は入社を望んでいなかったのです。

就職先に選んだのは、東証一部上場企業(当時)の総合メディカル株式会社でした。ここでは医療機関の開業支援に携わり、医療機器リースや土地探しをはじめとする事業計画の立案、保険契約、銀行との融資交渉、職員採用などの現在の業務にも活きる多岐にわたる業務を経験しました。

とても居心地の良い環境だったので、祖父から入社の打診を受けた際も、総合メディカルを辞めたくないという気持ちが強かったほどです。しかし、家業があったからこそ今の自分があると考えたとき、これも宿命だと感じ、入社を決意しました。

ーー入社後、社長就任までにどのような経験を積みましたか?

村上圭:
入社後約1年は現場の業務を学び、その後、総務部に異動しました。驚いたのは、弊社ではまだ決算書を手書きで作成し、計算にはそろばんを使っているという状況だったことです。それまで電子化が進んだ大企業に勤めていた私にとっては衝撃的でした。

その後、当時の総務部長が怪我をし出勤できなくなったことをきっかけに私が総務部長に就任し、営業部長も兼任しました。入社前に、祖父から「社長になると決まっているわけではないからな」と言われておりましたが、前述したとおりのアナログ作業がいまだに続いている等社内の課題を解決していったことや、営業や交渉の成果によって、前社長から認めていただきました。

役員に就任してから3年後、社長就任を打診された際に、当時現場からも声が上がっていた社内のIT・DX化をその前に推進したいと申し出ました。実行したのは、社内共有システムを用いて、紙資料を使った稟議の電子化、電話での調整を減らす予定の共有、現場撮影をデータ管理できるスマートフォンの活用、図面に直接書き込めるシステムの導入などです。

また、従業員全員にスマートフォンを支給し、勤怠管理や業務報告をデジタル化しました。この取り組みは3年では終わらず、DXの目処をつけて社長に就任したのは、5年後の2022年でした。

新しい3Kで建設業の未来を切り拓く

ーー建設業では珍しい取り組みが多くありますが、どのような理念で行っているのですか?

村上圭:
建設業というだけで「遅れている」というイメージを持たれることがありますが、私は、そのイメージを変えたいと思っています。社屋のようなハード面だけでなく、就業規則や電子システム、人材育成といったソフト面も、一般的な会社を超える水準にするつもりです。

建設業は3K(きつい、汚い、危険)と言われがちですが、弊社では「稼げる、帰れる、かっこいい」という「豊和新3K」を掲げています。そのため、最近では、作業着を一新し「ワークウェア」として機能性とともにデザイン性やイメージを高めました。

また、女性技術者の採用と働きやすさの向上、給与の大幅な見直しなど、幅広く取り組んでいます。2022年には新社屋が完成し、誰もが安心して働くことができる環境を整えました。

ーー事業内容と強みについてお聞かせください。

村上圭:
弊社は主に、高圧電力の電線を地中に埋設する工事を行っています。創業以来、この分野に特化し、東京電力パワーグリッド株式会社の業務を中心に事業を展開してきました。都市部の地中にはイレギュラーな要素が非常に多く、図面を渡されても、現場に予想外の埋設物があり、予定通りに進まないケースが少なくありません。

しかし、弊社は長年の経験と技術の蓄積により、顧客に解決を求めるのではなく、自社主導で最適な解決方法を見つけ出すことができます。ベテラン社員と若手社員のバランスが良く、経験や技術の伝承がスムーズに行える組織体制が整っているのが強みです。

また、現場における一般住民への対応力も弊社の強みで、工事で迷惑をおかけした住民の方から、後日感謝やお褒めの手紙をいただいたこともありました。さらに、安全対策を徹底し、事故なく工事を進めている実績も、顧客から高く評価されているポイントだと考えています。

社会貢献と働き方改革で選ばれる業界に

ーー今後の展望についてお聞かせください。

村上圭:
弊社のキャッチフレーズは「街に命を吹き込む仕事」です。創業者である曽祖父は「建設人和」という言葉を提唱していました。建設業は一人では成り立たないため、現場を取り巻く全ての人々の幸せを考えて行動しなさいという意味で、今もこの言葉を大切にしています。

弊社は東京オリンピックの選手村の工事にも携わり、都市の拡大や発展の場面で必須となる高圧電力線の埋設業務において、電力設備の重要性がますます高まっていると感じました。この需要に応えるために、人材の確保・育成や業界基準の向上を図り、それを広くPRしていくことに注力していきます。

また、社会貢献にも力を入れており、障害者の就労支援を行う事業者との協業で新たな事業所を設立する計画も進行中です。さらに、アロマ事業を通じて就業環境を改善し、人材採用や離職率の低下、企業や業界のイメージアップに貢献したいと考えています。建設業も含め、「3K」と言われがちな業界を変えるモデルケースを築き、同じ目標を持つ企業と連携して業界全体の改革を目指します。

弊社の理念に共感し、まちづくりに関わりたい、社会に貢献したいという思いをお持ちの方なら、業界未経験でもぜひ仲間に加わっていただきたいですね。

ーー会社としての究極の目標は何ですか?

村上圭:
建設業のイメージを変え、業界のベンチマークとなる企業を目指しています。従業員がいきいきと働ける幸福な環境を創出し、それを体系化して他社でも導入可能な方法論として確立したいと考えています。また、若年層や女性から選ばれる業界にすることも、私たちの目標です。

編集後記

落ち着いた口調で静かに話す村上圭代表取締役社長の佇まいは、従来の建設業のイメージとは一線を画している。自社の改革に力を入れるだけでなく、得られた知見を体系化し業界全体に広めようとする姿勢は、医療コンサルティング会社での経験が生きているからこそだろう。

現在の豊和工業株式会社は、建設業に対するイメージを間違いなく覆している。いずれ同社のスタイルが「建設業界のスタンダード」になる日が訪れるだろう。その時、同社はさらに次の一歩を踏み出しているはずだ。

村上圭/1981年、東京都出身。明治学院大学法学部卒。医療系コンサルタント会社にて6年間勤務後、2011年に入社。2022年6月、代表取締役就任。伝統を守りつつ「建設業のイメージを変える」ことに注力し、ハードとソフト両面から働きやすさ改革を推進している。