
近年、外食産業は、人手不足、原材料費の高騰、消費者の生活様式の変化など、多くの課題に直面している。特にコロナ禍以降、宴会需要の減少や消費者ニーズの多様化により、従来型の居酒屋業態は大きな転換期を迎え、多くの店舗が姿を消した。
そのような中、創業から5年で15店舗を展開し、急成長を遂げているのが株式会社BIRCHである。「普段使いできるテーマパーク」をコンセプトに、従来の居酒屋の常識を覆す新しい価値を提供し、若い世代を中心に支持を集めている。今回は、代表取締役の高橋光基氏に、創業からの軌跡や未来への展望について話をうかがった。
コロナ禍ならではのマーケティング戦略で若年層の取り込みに成功
ーー起業までの歩みと、軌道にのるまでの道のりを教えてください。
高橋光基:
高校を卒業後、家業の水道設備業に1年間ほど従事したのち、19歳で上京し、飲食業界に身を置きました。集客や営業の仕事では成果を上げることができましたが、個人の業績が重視される環境だったため、仲間意識が希薄でした。そこで心機一転、もっと広い世界を見て視野を広げたいと思い、22歳でオーストラリアへ渡りました。異国生活で改めて自分を見つめ直す機会ができたと思います。
そして、やはり人と関わる仕事は好きだったので、帰国後、先輩が立ち上げた飲食業の会社に入社しました。4店舗からのスタートが70店舗にまで拡大する過程に携わり、その中で、エリア開拓や業態開発など、飲食業の基礎を勉強させてもらいました。
その後、2019年6月には自身で起業し、最初の半年で5店舗を出し、順調に利益も出していました。ところが、2020年からのコロナ禍の影響で宴会需要が激減。月間1000万円の赤字を抱える事態となり、最も厳しい時期を迎えました。
この状況を乗り越えるため、ビジネスモデルの変更を余儀なくされ、コロナ禍の飲食客の動向を徹底的に分析しました。そして、メインターゲットを若い世代とし、それに合わせたコンセプトやマーケティング戦略で新たな業態開発に注力した結果、2021年11月に「大衆酒泉テルマエ」をオープンすることができました。この店舗は、他では味わえない独自の体験ができるのが売りなので、若い世代の間で話題を呼び、集客に成功することができました。
「銭湯×大衆居酒屋」 ワクワクできる社交場のような体験型居酒屋

ーー「大衆酒泉テルマエ」の「他では味わえない体験」とは何でしょうか?
高橋光基:
テルマエは、従来の居酒屋のように座って飲むだけの場ではなく、「普段使いのできるテーマパーク」をコンセプトにした、まったく新しい体験型居酒屋です。「お酒が地下から湧き出る」という物語性を持たせた独自の空間デザインにこだわっています。
このコンセプトは、日本の銭湯文化から着想を得ました。かつて、各家庭にお風呂がなかった時代、人々は日常的に銭湯に通い、銭湯は近所の人々と自然なコミュニケーションを楽しむ社交場のような機能を果たしていました。このような「人と人がつながる場」を居酒屋として提供したいという思いが原点です。
店内では、お酒が出てくる蛇口を中央に設置して、お客様がご自身で酒を注げるなど、ユニークな仕掛けを多数配置しました。あえて店内を動き回る動線を設けたことで、お客様同士が自然に会話を楽しめるようなワクワク感も演出しています。
さらに、コストパフォーマンスの良さも大きな特徴となっています。美味しい料理とお酒を提供するのはもちろん、「毎日でも気軽に立ち寄れる価格帯」を追求し、そのためにITを導入しました。モバイルオーダーシステムや、顧客データを活用したCRM施策など、デジタル化を積極的に進め、人件費の最適化と顧客満足度の向上を両立しています。
初めて訪れたお客様が「面白い!」とSNSで発信してくださり、話題が広がって新規客も増えました。料理の美味しさとコストパフォーマンスの高さで再来店客もどんどん増える。そのような好循環ができあがっているのです。
将来的にはアジアを代表する外食企業に。挑戦を楽しむ組織づくり
ーー人材育成について、特に大切にしていることは何ですか?
高橋光基:
私が目指しているのは、飲食従事者の地位向上です。そのため、どうすれば皆が楽しく働けるか、どうすればそれぞれの能力を最大限に発揮できるかを常に考えています。特に、メンバーには経営的な視点を持たせることを重視し、一人ひとりが「経営マインド」を身につけられる環境づくりを心掛けています。
また、業務や目標を「数字」で可視化することも大切だと考えています。数字は世界共通の言語であり、すべての人に平等な尺度です。自分の行動や、自分が貢献した会社の利益が数字となって見える化したら、やりがいにもつながるでしょう。将来的には、ゲームのように「この仕事を達成したら経験値が増え、経験値が貯まるとレベルアップする」というような、楽しみながら仕事ができる仕組みをつくりたいと考えています。
飲食業はアルバイト一人ひとりの役割が非常に大きく、広告、営業、顧客管理、品質管理など業務内容が多岐にわたるため、経営者に近い経験を積むことができます。店舗運営にはビジネスのさまざまな要素が詰まっており、対人スキルはもちろん、経営に関する知識も深まるため、多方面で役立つスキルを身につけられる職場だといえるでしょう。そのため、従業員には結果を意識して、日々の業務に取り組むよう常に言い聞かせていますね。
ーーどのような人材を求めていますか?
高橋光基:
業界経験の有無は問いません。リーダー経験をお持ちの方や、チャレンジ精神のある方を求めています。弊社は常に挑戦を続ける会社なので、その挑戦を楽しめる人材が理想ですね。将来独立を目指している方も大歓迎です。私たちのビジョンである「飲食従事者の社会的地位向上」は、社内外を問わず多くの仲間と協力して達成したい目標だからです。
また、海外展開を進めているため、海外で挑戦したいと考えている方にもぜひ活躍していただきたいですね。基本的に人間性を重視していますので、さまざまなバックグラウンドをお持ちの方に応募いただきたいと思っています。
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ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
高橋光基:
5年後には、日本国内でフランチャイズを含め100店舗以上の展開と、3つ以上の業態を立ち上げることを目指しています。
さらに、10年後には、海外5か国以上への展開、5つ以上の業態開発、そして5000店舗を開設するという大きな目標を掲げています。これらの挑戦を通じて、世界やアジアを代表する外食企業としての地位を確立し、飲食業界に新たな価値を提供し続けたいと思っています。
編集後記
取材を通じて最も印象的だったのは、高橋社長の「飲食従事者の地位向上」への強い思いである。これは単なる理念ではなく、従業員一人ひとりが経営的視点を持てる組織づくりという具体的な施策となって表れていた。また、「普段使いのテーマパーク」というコンセプトは、店舗スタッフにとっても働く楽しさを感じられる環境となっているようだ。
アジアの代表的な飲食店になるという大きな目標を掲げる高橋社長。その視線は、すでに世界へと広がっている。従来の常識に縛られない発想と実行力で、新しい飲食業界の形を示してくれることだろう。

高橋光基/1994年、千葉県生まれ。千葉県立土気高等学校卒業後、家業である水道設備業に1年従事し、上京。2017年にS.H.N株式会社に入社。飲食事業部ゼネラルマネージャーとして新規出店、業態開発、Webマーケティングなどを経験。2019年に株式会社BIRCHを設立。