※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

日本を代表する温泉街、岐阜県の下呂温泉にて旅館「小川屋」を経営する株式会社小川屋。日本の畳文化を取り入れた温泉、地域の食材を使った上質な食事、飛騨川を眺められる絶好の立地などで人気を集めている。

今では全国各地から多くの人が訪れ、経営も順調に見える同社だが、現在に至るまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。企業再生という困難を、一体どのように乗り越えたのか。代表取締役社長の野村勝氏に、詳しい話を聞いた。

「これからは観光の時代」と祖父が立ち上げた旅館。企業再生のピンチも

ーー貴社のこれまでの沿革について教えてください。

野村勝:
弊社は、戦争から戻ってきた祖父が1949年に客室数16室で創業した旅館です。もともと祖父は酒屋や土産物屋、生糸屋などを経営しており、いろいろな商売を経験した結果「これからは観光の時代だ」と旅館を立ち上げました。

私が社長に就任したのは、2001年のことです。その後、債務超過などの理由で企業再生を行うことになり、社長のポジションを一度降りましたが、2009年に復帰して現在に至ります。

ーー企業再生の手続きが決まった際、どのような思いがありましたか。

野村勝:
100人以上の従業員やその家族、取引先、地域のためにも、なんとか経営を立て直さなければという思いでした。金融機関のご理解やご支援もあり、各所に迷惑をかけることは避けたかったのです。

人材教育が進んでいないことや借金の多さから一部には「再生は無理だ」という声もあったのかもしれませんが、無事に立て直すことができ、徐々に利益も出るようになりました。その結果、今年は過去最高益となっています。

建物のリニューアルとインターネットの活用で徐々に評判が向上

ーー具体的にどのような取り組みをして立て直したのでしょうか。

野村勝:
1つは、建物のリニューアルです。企業再生の際、コンサルタントからサービスに関する指導とともに、施設に関しても見直すことになりました。具体的には、客室のリニューアルや、温泉旅館の生命線でもある大浴場のリニューアル、食事処の改装等を行いました。100畳の畳風呂や飛騨川を眺められる露天風呂などを楽しめるようにしました。

そしてこの大浴場を皮切りに、露天風呂付きの客室をつくったり、貸切風呂の設置、食事会場をモダンテイストにしたりといったリニューアルを行うと、徐々にお客様からの評価も得られるようになってきました。

一方で、予約方法の見直しとして、特に自社サイトの運営にも力を入れました。旅行業者任せにせず、自社で運営すれば、余分な手数料がかかりません。直接予約をいただけるお客様の割合も、近年非常に高まってきました。ほかにもLINEでの予約受付を導入したり、InstagramなどのSNSで情報発信をしたり、この3年ほどはインターネットの活用に力を入れています。

魅力のある会社になり、地域・顧客・従業員が満足する「三方良し」を目指す

ーー今後力を入れていきたいテーマについて聞かせてください。

野村勝:
将来的に中間管理職を担う、新卒などの若い世代を獲得していくことです。また、経験を積んだ人材は年齢に関係なく上に引き上げていきますし、人材を適切に評価する仕組みも整えていきます。

これから人材を多く獲得するためには、福利厚生のひとつとして社員寮を整備しなければいけません。そして、賞与などの報酬面も向上させるなど、今以上に福利厚生の充実にも力を入れていくつもりです。

ーーどのような会社でありたいか、今後の目標をお願いします。

野村勝:
魅力のある会社、地域に必要とされると同時に、従業員の皆さんに誇りを持っていただける会社でありたいです。企業再生は負の側面が多くあったと思いますが、この経験があったからこそ、今の弊社があるのだと感じています。

地域はもちろん、旅館はお客様と従業員の支えがなければ成り立ちません。地域とお客様、従業員の三方良しで感謝を伝えながら、お客様に対しては新しいサービスをどんどん提供していきたいですね。そのためにも常にアンテナを張って、いろいろな情報を集めていきます。

そして従業員に対しては、「この会社に勤めて良かった」と言ってもらえるような会社になることが目標です。安定した給与や業績に応じた賞与を支払うことで従業員に恩を返していき、弊社に愛着を持ってもらえるようになると嬉しいですね。そして、最終的には次の世代に会社をバトンタッチすることが、今の私が行うべき社長としての最大の仕事だと思っています。

最後に地域に対しては、やはり地域の人々の雇用を守り、会社として存続することが1番の地域貢献だと考えています。企業再生の時にも、地域の皆さんの支えがあったから現在の弊社がありますし、今後もしっかりと貢献していきたいです。

編集後記

地域や顧客、従業員から「本当に必要とされる会社」とは何なのか。このことについて野村社長がしっかりと向き合ったからこそ、企業再生という大きな困難も乗り越えられたのだろう。より良い旅館を目指して、リニューアルを何度も行っている小川屋。

5つの大浴場と9つの貸切風呂で訪れる人を楽しませ、地域の名産品を使った食事を提供するなど、最高の旅館づくりを追求する妥協しない姿勢で、きっとこれからも多くのファンを獲得していくはずだ。

野村勝/1958年、岐阜県生まれ、専修大学経済学部卒業後、東京YMCA国際ホテル専門学校専攻科を終了。1981年、株式会社中村実業に入社。1年間の修業期間を経て、1982年に株式会社小川屋へ入社。2001年に代表取締役社長に就任。企業再生時に一度社長を退くが、再度2009年、代表取締役社長に復帰。現在、下呂温泉旅館協同組合副理事長・下呂温泉観光協会副会長・下呂温泉事業協同組合理事などの地元関係団体の役職を務めている。