
少子高齢化問題に直面する日本では、国民のさらなる健康増進のため、質の高い医療の提供や効率化、医療機関の業務効率化を目指し、医療DXの推進が必要不可欠となっている。
こうした中、業界初のAIを活用したSOAP式電子カルテシステムやリモート運用サービスを提供し、歯科医療の発展に尽力している企業が株式会社オプテックだ。2005年に大学発の医療ITベンチャーとして設立した同社の代表取締役社長、平出隆一氏に、歯科DXの高度化と、人々の健康維持に寄与する思いをうかがった。
先進技術で歯科医療のDX推進をサポート
ーー貴社の設立背景と、事業内容についてご説明ください。
平出隆一:
弊社は2005年、現会長である大原茂之・東海大学名誉教授が、同大学発の医療ITベンチャー企業として立ち上げました。事業内容は、歯科用電子カルテの開発・販売・運用・保守サービスまで包括的に提供しています。
少子高齢化が進む日本では、患者の全人的ケア、チーム医療、医科と歯科の連携がますます重要視されています。国民の健康を促進し、質の高い医療やケアを提供するためには、医療現場で発生する膨大な情報をデータ化し、それを共通化・標準化する取り組みが必要です。このような背景から、医療DXの推進が不可欠となっています。
弊社では2006年、業界に先駆けてSOAP(ソープ)方式電子カルテシステム「Opt.one®」の販売を開始しました。このシステムを通じて、歯科医療のDXを積極的にサポートし、医療の効率化と品質向上に寄与しています。
ーーSOAP方式電子カルテシステムについて、具体的に教えてください。
平出隆一:
SOAP方式AI電子カルテシステムは、患者との対話をもとに、選択した回答が自動的に文章として記録される仕組みです。単なるレセプト作成用の入力ツールではなく、患者の主訴(Subject=主観的情報)、検査結果から得られる所見(Object=客観的情報)、それらに基づく診断(Assessment=評価)、さらに治療計画(Plan=計画)まで、歯科医療の流れをそのままカルテに反映できるのが特徴です。
また、このシステムには、患者への説明を支援するための便利なツールも備わっています。医師は、分かりやすい図やレントゲン写真が添付されたカルテを用いて治療方針を説明できるため、患者が治療法に納得したうえで、自分に合った方法を選択することが可能です。
さらに、保険診療と自費診療の違いを視覚的に理解できるよう工夫されており、患者中心の歯科医療の実現に貢献しています。このシステムは、患者と信頼関係を築きながら、より良い治療を提供するためにサポートしているのです。
ーー代表に就任した経緯をお聞かせください。
平出隆一:
私は大学卒業後、国内外で事業を展開する総合商社に入社し、家電製品の輸出業務に携わっていました。中東駐在後に独立し、米国、欧州、タイ、韓国など、世界を舞台に、一貫してハイテク業界の営業職に従事しています。
弊社の創業者である大原会長との出会いは、30数年前に、当時の通商産業省が主催した日本のソフトウェア政策について審議する会議で、一緒のチームになったことがきっかけです。その後、大原会長がオプテックを設立することになり、多くの仲間たちが出資しました。
設立から15年程経った頃、大原会長から「経営に関わってほしい」とお声がけをいただき、「週3日でいいなら」という条件で、軽い気持ちで役員就任を引き受けました。最初は手伝うだけのつもりでしたが、いつの間にか本格的に弊社の事業に注力するようになり、2024年に代表取締役に就任し、現在に至ります。
ーー貴社が歯科医療に特化している理由を教えてください。
平出隆一:
世界中で医療DXが進む中、日本は他国と比べて遅れを取っているのが現状です。その大きな要因の一つが、電子カルテの導入の遅れです。たとえば、英語や韓国のハングル文字と異なり、日本語の手書きはOCR(光学文字認識)による読み取りが難しい言語です。
この技術的課題に加え、人手不足の問題も重なり、日本での電子カルテの普及はなかなか進んでいません。こうした状況の中で弊社が注目したのは、歯科医療が他の医療分野に比べ、自由診療の選択肢が広いという点です。治療に使用する材料や歯科矯正、ホワイトニング、インプラントなど、患者自身が選択肢を持てるため、医師には個々の患者の状況に応じた適切な説明が求められます。
このような背景から、歯科クリニックにとって電子カルテの導入は大きなメリットがあると考えました。その結果、弊社では歯科医療に特化したSOAP方式電子カルテシステムにAIを入れ込んだ開発を行い、業界のニーズに応える取り組みを進めています。
歯科医院の経営力向上、医療品質アップ、働き方改革につながる「歯科DX」を提案

ーー貴社のサービスは、どのように進化していますか。
平出隆一:
音声からAIを活用した電子カルテは入力された患者情報や受付情報、診察・検査・処置内容などを自動的に作成、同時にレセプトデータや患者提供データ、保険請求に必要なデータとして変換されます。これにより、医院内での事務作業が大幅に効率化されます。
また、院内の全体最適化を目指し医院内ネットワークを構築し、歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士、事務担当者間のコミュニケーションがスムーズになり、連絡事項の共有がスピーディーに行えるようになりました。
さらに、弊社では歯科医院の経営安定化を目的としたITサービス機能、特にAI活用の研究開発にも力を入れています。具体的には、ホームページやWEB検索エンジンを活用した新規患者の獲得プロモーション、携帯電話やスマートフォンを利用した予約システムの導入、さらには予防歯科や訪問診療を支援するITサポート、事務に現金を触れさせない自動精算機など、多岐にわたるサービスを提供しています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
平出隆一:
AI技術が目まぐるしく進化する中、時代の変化に柔軟に対応できる人材の育成が急務だと考えています。弊社では日頃からスタッフ全員に生成AIの活用を奨励しています。ただし、生成AIを使いこなすには、人間が正確な質問を投げかけることが重要です。不適切な質問では、AIが間違った方向に結論を導きかねないためです。
そのため、的確に生成AIを活用できるスキルを持つ人材の育成を進めています。3年後、5年後といった未来の変化に対応できる後継者の育成は、企業の発展に欠かせないと考えています。また、現在進めている取り組みの一つが、優良な歯科クリニックを動画で紹介するサイトの運営です。現代の日本では、患者がクリニックの設備や治療方法などの情報を手軽に調べられる仕組みが十分に整っていません。
このシステムを構築することで、患者が自分に合った歯科医院を選択できる機会を増やし、新規顧客の開拓にもつなげていきたいと考えています。これからも、人々の健康を支えるために、先進技術を活用した医療DXの開発に取り組み、歯科医療のさらなる高度化を支援していく所存です。
編集後記
単に食べ物を咀嚼するだけでなく、全身の健康を維持するためにも口腔ケアは欠かせない。また、美しい歯並びが見た目の印象を変えることから、矯正歯科や審美歯科にも注目が集まっている。
そうした中、株式会社オプテックの推進する歯科医療DXは、私たちが自分に合った歯科クリニックを選択するために大切な役割を果たしていることを今回の取材で知った。レセコン会社からの脱却を掲げ、DDS(デンタルデジタルソリューション)の概念も推進している同社。長寿社会を迎えた今、歯科医療DXがさらなる発展を遂げ、私たちの健康を支える一助になることに期待したい。

平出隆一/1955年生まれ。法政大学卒業後、株式会社太知へ入社し、3年の中東駐在後に独立。海外歴は米国、欧州、タイ、韓国。ハイテク業界での営業と調査活動に一貫して従事し、2022年より株式会社オプテックの役員に就任。同社の副社長、社長として業績を伸ばし、2024年から代表取締役就任。