※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

日本の保険診療制度においては、病気になってから医療機関を受診するケースが一般的で、健康な人のための「予防医療」はできない。そのような中で、株式会社DRIPSは、マウスピース歯科矯正サービス「hanaravi(ハナラビ)」を始めとする数々の医療サービスを展開している。

実は同社のサービスは、すべて予防医療を目的としているという。CEOで医師でもある各務康貴氏は、どのような思いで事業を立ち上げたのだろうか。詳しくお話をうかがった。

基礎疾患の予防を目指して生まれた歯科矯正サービス「hanaravi(ハナラビ)」

ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。

各務康貴:
私はもともと救急医として働いており、同じ患者さんを繰り返し治療する状況を経験していました。なぜ同じ患者さんが何度も来院されるのか原因を突き詰めたとき、病気の原因になる基礎疾患を予防する必要性を強く感じるようになったのです。

そこで、「病気の予防につながる取り組みを行いたい」と考えて、医師として救急医療や在宅医療に携わりながら経験を積み、2019年に株式会社DRIPSを設立した次第です。

ーーなぜマウスピース歯科矯正サービス「hanaravi(ハナラビ)」を立ち上げたのですか?

各務康貴:
口腔内の環境を良くすることで、病気の予防につなげたいと考えました。口腔内の環境改善は認知症や糖尿病などの予防になりますし、女性であれば早産や低体重児出産のリスク軽減にもつながります。

歯科矯正のサービスを提案するにあたって、「病気の予防」よりも「見た目がきれいになる」方が、お客さまのモチベーションが上がりやすいと考えました。「見た目をきれいにする目的で歯科矯正に取り組んでもらった結果、病気も予防できれば非常に面白い」という気持ちが、「hanaravi(ハナラビ)」のサービスの根底にあります。

ーー2023年に立ち上げた「リリモアクリニック」では、どのようなサービスを展開していますか?

各務康貴:
予防医療に間接的につなげるためのニーズの高い入り口として、花粉症、ED、まつ毛育毛剤、ニキビ治療薬、アフターピルなどを提供、そして直接的に予防に関連するものとして、低用量ピルや睡眠障害の治療なども行っています。

まず、お客さまは美容など病気の予防とは直接関係のない悩みを改善するために、我々のサービスを使い始めます。そこで適切に他のサービスをおすすめすることで、本人は意図せず予防につながる行動に導かれます。例えば、緊急避妊用のアフターピルをきっかけに、避妊目的で低用量ピルを使い始めてもらいます。実は低用量ピルは子宮がんの予防につながるなどの効果が副次的にあります。

そういった形で、ただ避妊のためにと思って関わるうちに、いつのまにか予防につながる行動を引き起こすことができ、悩み改善だけでなく将来の病気予防にもつながっています。このように、入り口のサービスと弊社が提案する予防医療を組み合わせる点が、「リリモアクリニック」の特徴です。

「健康のアンフェアを解消したい」思いで低コストかつ良質なサービスを展開

ーー貴社の理念をお聞かせください。

各務康貴:
弊社の理念は、「ひとの力と最新技術を組み合わせることでアンフェアを解消し、誰でも健康に生きられるようにする」です。この「アンフェア」とは、情報や経済の格差によって必要な情報にアクセスできていない状態を意味します。具体的に言うと、「医学的知識が乏しい人であっても、弊社のサービスを選べば安心」という状態をつくりたいのです。

ーー貴社の事業の強みや特徴はどのようなところですか?

各務康貴:
例えば「hanaravi(ハナラビ)」の一番の強みは、低価格で良質なサービスを提供しているところです。弊社は1ヵ月ごとに、お客さまの治療段階に合わせたマウスピースをつくってお届けしています。マウスピースを国内生産することで製造コストを抑えているほか、大手運送会社と提携して配送の費用も抑えています。

さらに、弊社ではオンラインでのサポートを充実させることにより来院の回数を通常より減らすことで、患者様の通院の負担を下げ治療にかける時間を軽減し、かつサービス提供側の歯科医師にとっても患者様来院1回あたりの売上を伸ばすができました。来院回数を減らす代わりに、2週間に1回の頻度でお客さまご自身に口腔内の写真を撮ってもらい、医師がその写真をオンラインでチェックしています。

従来の歯科矯正であれば、お客さまは1、2ヵ月に1回来院して医師のチェックを受けるのが一般的でした。弊社では、来院回数は減りましたが、写真の共有によって医師が口腔内をチェックする頻度は高くなっています。何か不都合が起きた場合はすぐに来院してもらう体制を整えているので、結果としてサービスの質が高まっていると言えるでしょう。

提携先を増やし予防医療の領域でさらなるサービスを展開したい

ーー今後は、どのようなことにチャレンジしたいですか。

各務康貴:
現在「hanaravi(ハナラビ)」を導入している医療機関が5ヵ所あるのですが、1年後にはこれを20ヵ所まで増やしたいと考えています。オンライン診療のサービスも並行して提供できる医療機関を増やしたいですね。

さらに、今後も予防医療の領域で、どんどん新しいサービスをつくっていきたいと考えています。2、3年以内にさらに提供できるサービスの幅を広げ、お客さまの悩みを本質的な解決に導けるようなシステムが構築できたら面白いと思います。

また、新商品・新サービスの開発にあたって、採用も進めなければなりません。スピード感をもって、私たちと一緒に挑戦してくれる人を採用したいですね。サステナブルに拡大していくために、どのようにしたら上手く利益を出しつつ拡大させられるかというところまで一緒に考えられる人だと、非常に嬉しく思います。

編集後記

美容や生活習慣の改善を目的とした商品やサービスを、予防医療につなげようという発想が非常にユニークだ。株式会社DRIPSのアイデアに賛同する医療機関が全国的に増えれば、日本に「予防医療」という概念が広まるかもしれない。同社の事業拡大に期待が高まるインタビューだった。

各務康貴/1988年生まれ。大分大学医学部卒業後、救急医療や在宅医療を行う医師として勤務。2019年に株式会社DRIPSを創業。マウスピース歯科矯正事業を開始。2023年「リリモアクリニック内科歯科」を開院。