※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

1997年にセントリー日本株式会社として設立され、現在はマスターロック・セントリー日本株式会社と名を変えた同社は、アメリカ発の老舗南京錠メーカーMaster Lockと、同じくアメリカ発の老舗金庫メーカーSentrySafeの2ブランドを日本で展開している企業だ。代表取締役の安藤亮平氏に、就任の経緯やセキュリティ事業の強み、今後の展望についてうかがった。

「社長になる」という挑戦者マインドでMBA取得

ーーまずはご経歴をお話しいただけますか。

安藤亮平:
仕事で国内外を行き来する父に憧れ、海外に興味を持ったことから、アメリカの大学に進学しました。英語が堪能だったわけではないため、大学入学後の最初の1年は、留学生向けのプログラムからスタートし、一般教養から学びを深めていきました。大学卒業後は日本に戻り、広告代理店や大手スポーツ用品メーカーで勤務します。その頃から、ゆくゆくは「社長」というポジションに就きたいと考えていましたね。

しかし、長らくマーケティングの領域にいたことから、いざヘッドハンティングという形で弊社の社長業に関するお話をいただいた時に、必要な知識がないことに不安を感じたのです。そこで、経営について体系的に学ぶために、MBA(経営学修士)を取得し、2022年に一橋大学大学院を卒業し、2023年に社長に就任したという流れです。

ーー経営者としての心得をうかがえますか。

安藤亮平:
「根っこから明るい挑戦者でありたい」という思いから、社内でも「ネアカ(根明)な挑戦者」というスローガンを掲げています。苦しい状況にある時こそ、合理的な楽観性を保った方がソリューションが生まれやすく、自分の理想の未来も想像しやすいと思うのです。

人間は、自身が成長するために経験やスキルを得た先で、再び新たな課題や野望を見つけるものです。「今の自分にあるもの・足りないもの」を俯瞰的に観察しながら、常に「挑戦者」のマインドでいることも、充実した人生を送る上で大切だといえます。

高品質・多機能な金庫と南京錠を展開

ーー事業内容をご解説ください。

安藤亮平:
1つ目の柱は、家庭用および業務用金庫の開発・販売です。「Sentry(セントリー)」は、1930年の創業以来、アメリカでNo.1のシェアを誇るセキュリティブランドです。日本では家庭用のシェアが高く、ホームセンターやECモール、家電量販店が主な販路となっています。

2つ目の柱は、南京錠(パドロック)を扱う「Master Lock(マスターロック)」というブランドです。スーツケースにつける南京錠から、自転車・バイクの防犯用、指紋認証式など、ラインアップは多岐にわたります。

そして、3つ目の柱は、BtoB事業にあたる「労働安全」を目的とした南京錠(LOTO = Lockout-Tagout)です。工場内での労働災害事故を防ぐため、産業用の装置をロックする製品を展開しています。

ーー貴社の強みを教えていただけますか。

安藤亮平:
金庫売り場における「Sentry」の存在感の大きさでしょうか。全国のホームセンターをはじめ、実店舗でのシェアが圧倒的であり、先代から続く一番の強みだと感じています。

アメリカ本社で企画したものを輸入・販売しているため、日本での弊社の立ち位置は「販社」にあたります。「お客様に確かな製品を届けたい」という思いから、国内の倉庫に「クラフトマン」という品質管理の職人を配置しています。輸入時の検品や修繕、動作確認など、クラフトマンの目を通すことで、高品質な製品をエンドユーザーにお届けしています。

「本当に守りたい大切なモノ」は十人十色の時代へ

ーー長い歴史の中で、顧客のニーズに変化はありましたか?

安藤亮平:
毎年のように被害が増す災害や強盗事件の影響から、防災・防犯に対する人々の意識は確実に変化しています。金庫で保管するアイテムといえば、札束や高級品というイメージがありましたが、「大切なモノは人によって違うのだ」と気づく人が増えてきたのです。

耐火・耐水機能に優れた金庫を扱う会社として、弊社も「大切なモノを守る方法」の啓蒙活動に力を入れています。2024年からは、「金庫」を「『大切なモノ』庫」と呼ぶ活動を始めました。大事にしている手紙や子どもが書いた絵など、リアルなモノの良さを伝えることで、いざという時に備えられる金庫に興味を持っていただけると嬉しいですね。

弊社の製品には、サービスの一環で災害補償もついています。実際に被災されたお客様から、「セントリーの保管庫だけは中身も無事でした」というお手紙をいただいた時は、私たちが掲げる「価値」や存在意義を改めて実感しました。これからも、「持っていてよかった」とお客様に喜ばれる製品を幅広く提供していきたいと思います。

ーー今後の展望をお聞かせください。

安藤亮平:
マスターロック・セントリー日本は、まだ国内で名前が知られていない会社です。だからこそ、私は「自分の力でこの会社を有名にする」というチャレンジに魅力を感じ、社長業を引き受けました。「自分たちの可能性をどこまで伸ばせるか」というワクワク感を今後も大事にしつつ、社員たちにも同じ気持ちでいてほしいと思っています。

商品開発においては、ユーザーの年齢層を広げるべく、デジタルの時代に合った金庫の在り方やデザインについてアイデアを出し合っています。新商品は本社から与えられるものでなく、自分たちの手で作るべきものです。この姿勢を日本の社員にも見せられるように、本社で開催されるアイデアコンテストには私も積極的に参加しています。

「金庫」というカテゴリーの第一人者として、製品が役立つシーンや価値を考え続ける必要もあります。大事なものを「守る」だけでなく、それぞれの方にとっての良き思い出を振り返る時間をつくり、後世につなぐ新しいハビット(習慣)を生み出せたら、とてもすてきな世の中になるのではないでしょうか。

編集後記

アメリカの本社に新製品を提案するなど、自らがまず動いて従業員を引っ張っている安藤社長。「社長」のポジションを目指して経営術を学んだ先で、ご自身の理想のリーダー像を明確に描かれたのだろう。

それをしっかりと体現しているからこそ社内にチャレンジスピリットが根付き、「自分たちの可能性」を価値として提案できるステージに立つことができたのだといえる。金庫の第一人者として、これからも可能性を追求する同社から目が離せない。

安藤亮平/1976年、静岡県生まれ。2000年にアメリカ・ウィスコンシン大学を卒業。広告代理店、アディダス ジャパン株式会社、株式会社ドミノ・ピザ ジャパンでマーケティングの経験を積んだ後、一橋大学大学院にてExecutive MBAを取得。2023年、マスターロック・セントリー日本株式会社の代表取締役に就任。