
2025年に25周年を迎える壁紙制作・販売会社、株式会社フィル。同社は、輸入壁紙専門店「WALPA(ワルパ)」の展開や、DIY・セルフリフォームのお役立ちコンテンツ集「ホンポのよみもの」の立ち上げなど、人々に家づくりを楽しんでもらうための活動にも力を入れている。今回、「壁紙の楽しさを伝えるのが自分たちの仕事」と語る代表取締役社長の濱本廣一氏に、壁紙を通した家づくりへの思いや、今後の展望などを聞いた。
16歳で職人の弟子入り、そして23歳で独立
ーー創業の経緯を聞かせてください。
濱本廣一:
小学4年生の頃からベースを弾いていて、10代の頃はずっと音楽活動をしていました。バンド活動にハマっていた16歳のとき、バンド仲間から紹介されて内装工事店で働き始めたのが、壁紙業界に入ったきっかけです。壁紙職人に弟子入りしてからは、新築のマンションや戸建て住宅、お店、ホテルなど、さまざまな場所に壁紙を毎日貼りに行きました。
体力的に大変な仕事なので辞める人も多くいましたが、僕は辞めたいとは思いませんでしたね。壁紙を貼って部屋が綺麗になるのを見たり、毎日違う現場に行ったりするのは楽しかったですし、この仕事がとても好きでしたから。
この内装工事店で7年間修業し、23歳のときに先輩の職人から「もう1人で仕事できるんだから、独立したら」と言われたのをきっかけに独立しました。そして2000年に設立したのが、株式会社フィルです。
ーー独立してから、それまでとはどういった点が変わりましたか。
濱本廣一:
内装工事店で働いていたときは営業をしなくても仕事が回ってきましたが、独立後は自分で工務店や建設会社に営業しなければいけなくなりました。
最初の頃は、10社に営業して1社でも声がかかればラッキーといった感じでしたね。仕事をくれたお客様が別のお客様を紹介してくれて、取引先がどんどん増え、会社が成長していったという流れです。
壁紙を貼る楽しさや感動を、より多くの人に伝えるためのノウハウを発信

ーーECサイト「壁紙屋本舗」を立ち上げたきっかけは何ですか。
濱本廣一:
僕がパソコンを購入した1999年当時は、インターネット通販がちょうど始まった時期です。最初は請求書や見積書の作成にしかパソコンを使っていませんでしたが、インターネットを検索すると、Tシャツや傘などさまざまな物が販売されていることに気づきました。
このときに「壁紙も売ってみよう」と思ったのが、「壁紙屋本舗」の始まりです。それからショッピングサイトのシステムについて勉強し、2000年5月に自社サイトを制作。最初は月1件ほどしか商品が売れず、よく売れた月でも5件程度だったことを覚えています。
ーー会社や事業のターニングポイントについて聞かせてください。
濱本廣一:
ターニングポイントは、2010年頃に壁紙の楽しみ方を発信し始めたことです。壁紙といえば白色というイメージを持つ人は多く、実際に白い壁紙を貼る以外の選択肢を知っている人は多くはないです。また、ヨーロッパの国々には自分で壁紙を毎年変える人が多くいますが、日本には自分で壁紙を貼ったことがある人自体あまりいません。
このような現状を知り、2010年に会社の方向性を「一般の人にも分かりやすく壁紙の楽しみ方を伝える」へと切り替えることにしました。壁紙を売るだけでなく、どういった場所にどのように貼ればより良い部屋になるのかなど、壁紙の楽しみ方を伝えるコンテンツの発信を始めたのです。
また、この「一般の人にも分かりやすく壁紙の楽しみ方を伝える」を形にするために、僕たちは「全人類職人化計画」というテーマを軸に据えています。これは、壁紙を貼り替えて世界が広がった感動を、より多くの人に体験してもらおうというものです。
実際に「全人類職人化計画」の一環として、壁紙のノウハウを「ホンポのよみもの」というコンテンツに掲載するといった取り組みや、SNS等を通じた発信を行なっています。
流行に流されるのではなく、たった1人の人が熱狂してくれる壁紙を届けたい
ーー最後に、今後注力したいことについてお願いします。
濱本廣一:
僕たちは一般の人が選びやすく、貼りやすい壁紙を提供することを第一に考えています。そのため、やはりBtoCのビジネスをより一層強化していきたいですね。
「壁紙屋本舗」で買い物をしていただいたお客様の数は累計170万人にのぼりますが、今後は国内のみならず国外にも拠点を増やして、海外の顧客も増やしていきたいです。そのためには、商品の開発スピードをさらに上げていかなければいけません。
その一方で、僕たちは「人に届く壁紙屋」であるために、大量生産はしたくないと考えています。流行っているデザインだから売るというのではなく、「この壁紙が好き」と熱狂的なファンになってくれる人を増やせるようにしたいですね。
今後は、より面白くて魅力的な壁紙をつくりたいです。また、たとえば浮世絵など伝統的なカルチャーに焦点を当てた日本的なデザインの商品ももっと広めていきたいと思っています。
編集後記
「壁紙の楽しさを世界中に広める」という夢について語る濱本社長。落ち着いた声のトーンの中にも、情熱が感じられた。壁紙は部屋の雰囲気をガラリと変える重要なパーツだからこそ、「失敗したくない」と白色を選んでしまう人も多い。同社の価値観は、そういった壁紙選びで一歩踏み出せない人を後押しし、家づくりの楽しさを教えるものだと感じた。

濱本廣一/1972年大阪市生まれ。16歳で壁紙職人となり、23歳で独立。2000年に株式会社フィルを設立し、「壁紙屋本舗」を開業。2011年には輸入壁紙専門店「WALPA」をオープンし、壁紙を通じて新たなライフスタイルを提案している。