
株式会社タカキューは1950年の創業以来、長年にわたり日本のビジネスシーンを支えてきた老舗アパレル企業だ。同社は「TAKA:Q(タカキュー)」を筆頭に、「m.f.editorial(エムエフエディトリアル)」や「GRAND-BACK(グランバック)」などのブランドを擁し、ビジネスアイテムからカジュアルウェアまで幅広い商品ラインナップを展開している。
デザイナーとしての経歴を持ち、近年ECブランド「DRAW(ドロー)」も立ち上げるなど、新たな挑戦を続ける代表取締役 社長執行役員の伊藤健治氏に話を聞いた。
服づくりの現場から経営の最前線へと歩んだ道のり
ーー幼少期から現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
伊藤健治:
私は、父が縫製業を営んでいた関係で、幼いころから服に囲まれた環境で育ちました。小学生のころから裁断台で服を切ったり、タグ付けを手伝ったりしていましたね。高校時代に服への興味が深まり、デザイナーを目指して大阪の専門学校へ進学しました。
卒業後は株式会社ファイブフォックスに入社し、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせたのです。1997年には自身のブランド「KENJIITO COMME CA COLLECTION」を立ち上げ、東京コレクションにも参加しました。
その後、経営側にキャリアチェンジし、取締役本部長や取締役副社長を務め、2022年に退社。そして、2024年5月に弊社へ顧問として入社し、同年9月に代表取締役社長執行役員に就任しました。
ーーキャリアの方向性を変えるきっかけとなった出来事を教えてください。
伊藤健治:
私にとってターニングポイントとなったのは、副社長になる前の出来事です。当時のファイブフォックスの社長から、デザイナーとして生きていくか、経営者として生きていくか選ぶように言われたのです。そこで私は経営の道を選びました。私自身がデザイナーとして育ててもらったように、今度は自分が多くの人材を育てていきたいと考えたのです。
デザイナーとしてブランドを運営しながら経営に携わることは難しく、結果的に自分のブランドを終了することとなりましたが、経営者としての視点を養う貴重な経験ができたと感じています。
「商品力」と「美しい店」を軸にした改革

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
伊藤健治:
弊社は創業75年の歴史を持つアパレル企業です。3つのブランドを中心に展開しており、主力の「TAKA:Q」や「m.f.editorial」、大きいサイズを扱う「GRAND-BACK」など、全国で合計114店舗を運営しています。
売上構成はメンズが90%、レディースが10%となっており、スーツやドレスシャツなどのビジネスアイテムが売上全体の約半分を占めています。かつてはセレクトショップの先駆けとしても知られていましたが、スーツ中心のイメージが強くなり、お客様も40代から50代が中心となっていきました。現在は、より幅広い年齢層に向けてアプローチするべく、商品開発に取り組んでいるところです。
ーー貴社に入社してから、どのようなことに取り組んでいますか?
伊藤健治:
まず、商品の改革に着手しました。顧問として着任した際に感じたのは、商品力の弱さです。ドレスシャツやスーツは種類こそ豊富だったもののデザインに偏りがあり、お客様に対する訴求が弱いと感じました。これは、当時の弊社がバイヤー中心で運営されており、細かい修正ができていないことに起因しています。その課題に対して、職種名をバイヤーから企画やデザイナーに変更し、基本アイテムの見直しから取り組んでいきました。
また、店舗環境も課題でした。ある店舗を視察に行った際、商品の陳列が乱雑で、壁にほこりが溜まっている状況を目の当たりにしたのです。これではいくら商品の価値を上げても、意味がありません。そこで「美しい店で売上を獲得する」ことを目標に掲げ、全国の店舗に対して陳列や清掃のルールを設定していきました。同時に会員制度も見直し、これまでの値引き中心の販売から脱却し、商品の価値で勝負する方向へと転換しています。
その他にも改革を進めており、在庫コントロールやマネジメント、教育、評価制度など、その数は16項目に及びます。これらを12のプロジェクトに分類して、各5人程度のチームを組み、若い社員の意見も取り入れながら推進しているところです。
自らデザインに関わる、若年層に向けた新しいブランド戦略
ーー今後の展望をお聞かせください。
伊藤健治:
2025年8月から、ECサイトを主軸とした新ブランド「DRAW」をスタートさせる予定です。私自身が直接デザインに関わっているこのブランドは、20〜30代の若い世代、特に弊社を知らない層をメインターゲットにしています。
現在、弊社のECサイトの売上は全体の12%ほどですが、大手では40~50%に達しているところもあると聞いています。この差を埋めるためにも、ECサイトを中心とした新ブランドの育成は必須といえるでしょう。「DRAW」を通じて弊社を知ってもらい、年齢を重ねたときにスーツなどのアイテムも手にとってもらえたら嬉しいですね。
また、数値目標として110億円の売上高と10%の営業利益率を設定しています。これは単なる数字の追求ではなく、その利益を社員に還元することを重視したものです。しっかりと売上を確保し、社員の給与水準を引き上げられる体制を構築したいと考えています。アパレル企業にとって最大の資産は「人」ですから、社員が安心して働ける環境を整えることが、会社の成長につながると確信しています。
編集後記
幼少期から服づくりを間近に見て育ち、デザイナーから経営者へとキャリアを重ねてきた伊藤氏。その経験が、今、75年を越える歴史を持つタカキューの改革に注がれている。商品1つひとつを見直し、「美しい店」を追求する姿勢からは、ものづくりへの情熱と経営者としての冷静な視点が感じられた。タカキューが新たな時代へと舵を切る様子を、今後も注目していきたい。

伊藤健治/1966年、大阪府生まれ。1987年、株式会社ファイブフォックスに入社。1997年に自身のブランド「KENJIITO COMME CA COLLECTION」をスタートし、東京コレクションで発表。その後、2016年に取締役本部長、2020年に取締役副社長を歴任し、2022年に退社。2024年に顧問として株式会社タカキューへ入社。同年に代表取締役 社長執行役員に就任。