
1939年創業の大洋電熱株式会社は、東京都足立区に本社工場を置く、工業用ヒーターの製造・販売を手がけてきたメーカーだ。今回は同社の4代目の代表取締役である天河弘典氏に、就任までの流れや企業の強み、今後の展望についてうかがった。
技術と伝統をつなぎ次代のものづくりを開拓
ーーご経歴をお話しいただけますか。
天河弘典:
大学卒業後は、父の会社でアルバイトをしながら英語を勉強し、資金を貯めて、1年間イギリスへ留学しました。大学で構造力学を勉強していたことから、ヨーロッパで専門的に学びたいと思ったのです。
留学先では自動車の構造力学を専攻し、自動車の強度が車体に及ぼす影響などを学びました。現地で出会った仲間の多くは技術者となり、私も自動車メーカーに就職するつもりでした。
しかし、いざ進路を決めるにあたって、祖父が設立し、祖母から父に受け継がれた大洋電熱のことが頭に浮かんだのです。そして、「いつも忙しそうな父を助けたい」という思いが生まれ、家業に入ることを決意しました。入社後は10年ほど製造部に所属し、ヒーターの設計や理論を習得するなど技術を磨くうちに、自然な流れで後継者になる覚悟ができたといえます。
溶接技術が光る多種多様な工業用ヒーターを展開
ーー製品の特徴を教えてください。
天河弘典:
弊社では、さまざまな工場で使用するヒーターを設計・製造しています。工業用ヒーターは、工場の装置内にあるパネル・配管・パイプといった物体から気体・液体まで、あらゆるものを温められる機器です。
金型の加熱に使用される平面状の「スペースヒータ」をはじめ、パイプや配管に巻き付けるバンド状の「バンドヒータ」、液体に浸せる「カートリッジヒータ」、発熱線を曲げたシンプルな「エアーヒータ」など、製品の形状は実にさまざまです。
ーー独自の強みもお聞かせください。
天河弘典:
溶接機を使った金属ヒーターの製造は手作業が中心です。優秀な溶接技能者を多く抱えていることから、お客様の要望に応じて製品をカスタマイズできるだけでなく、多品種かつ少ロットに対応可能なことが大きな強みだと言えるでしょう。
取引先が、商社を中心に多岐にわたることも強みの一つですね。大型の建設機械に組み込むヒーターを、自動車部品や建設機のメーカーに提供することもあります。
「製造工程のDX」をテーマに社員が満足できる会社づくり

ーー企業や業界内の課題はありますか?
天河弘典:
社長に就任してからは、「受注量をコントロールする難しさ」を実感しています。半導体の製造装置に用いるヒーターを多数取り扱っているため、お取引先の業況をダイレクトに受けてしまうという問題です。半導体メーカーが大型投資を行った際に受注が急増し、弊社の稼働キャパシティを越えてしまうことがありました。
その一方で、受注が落ち着いた時の反動が大きいのです。正社員雇用を基本とするからこそ、業況が読めなくても簡単に人員を増やしたり、減らしたりできません。
この問題の改善策として、「DXによる製造工程の効率化」を掲げるようになりました。今は、社員にヒアリングした現状とコンサルタントの意見を参考に、DXできるポイントを探っている最中です。業務効率化によって繁忙期の残業時間が減り、向上した利益を社員に還元できる状態がベストではないでしょうか。
ーー人材育成の方針も教えていただけますか。
天河弘典:
工場長などの幹部クラスを育てつつ、製造や経営管理のノウハウを次の世代に伝えていく必要があると考えています。個々のスキルアップをサポートするシステムを築き、従業員全体のレベルを上げることで、より製造部の技術を高めたいですね。
新しい技術を生み出すべく、ヒーターを設計できる人材を増やすと共に、製造担当者の教育にも力を入れています。マイカを使用したヒーターをはじめ、専門的な学校でも習わない、特殊な設計に携われることは弊社の魅力です。また、電気機器の組み立て・配線に詳しい人を中途採用し、即戦力として活躍してもらう教育体制を整えていくところです。
ーー今後の展望をお聞かせください。
天河弘典:
あらゆるヒーターを「柔軟かつ、スピーディーに提供できる」という最大の強みを生かしながら、新しい素材にも積極的に挑戦していく予定です。開発部門をつくり、環境に配慮した素材や、断熱性・熱伝導性能が優れた素材、少ない電力で発熱する素材など、多彩なテーマに着手する構想もあります。設計者の増加と育成は、会社の成長に欠かせない要素だといえるでしょう。
そして一番の目標は、なんといっても「業務効率化と利益率の向上」です。業績が良い時にはボーナスを数回支給する取り組みを継続するなど、社員たちが「長く働きたい」と思える会社にしていきたいですね。
編集後記
家庭用とは用途が異なる、工業用ヒーターの製造業に触れた今回のインタビュー。受注量に波がある現状の打開策として、非正規雇用によって「人手の増加・削減」を図ろうとする企業は少なくないが、天河社長は従業員の「成長」と「満足度」を第一に考える。社内外で厚い人望を得ながら、企業の理想を形にしていける人物だと感じた。

天河弘典/1969年、鹿児島県生まれ。早稲田大学理工学部を卒業。1年間のイギリス留学を経て、1996年に大洋電熱株式会社へ入社。2009年、同社の代表取締役に就任。