※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

表彰式や社員総会、施設運営など、ビジネスイベントの企画・運営を一手に引き受け、30年以上にわたり業界の第一線で活躍を続けている株式会社ホットスケープ。同社はイベントを通じた社会課題解決や街づくりへの貢献など、事業領域を広げながら着実に成長を遂げてきた。年間120件以上のイベントを手がけ、施設運営のコンサルティングまで行う同社の成長戦略と今後の展望について、代表取締役の前野伸幸氏に話をうかがった。

前職の閉業が転機をもたらす

ーー起業した経緯をお聞かせください。

前野伸幸:
私はもともと専門学校で音響工学を学んでおり、卒業後はエンタメ業界で音響オペレーターとして働いていました。コンサートを中心に音響の仕事をしていたのですが、その中でさまざまなビジネスイベントにも関わるようになりました。そうした経験を重ねるうちに、イベント業界全体への関心が高まり、「30歳を超えたら起業したい」と考えるようになったのです。

ところが、私が27歳を迎えた1991年に思いがけない転機が訪れました。当時勤めていた会社が突然閉業してしまい、新たな道を模索することになったのです。

この時期はちょうど商法が改正される過渡期でもあり、1991年4月の法改正後は、株式会社を設立するために必要な資本金が1,000万円に引き上げられることになっていました。改正前は40万円程度で設立できるので、「このタイミングを逃してはいけない」と直感的に思いましたね。

改正前に会社を設立するためにはすぐに動く必要がありましたが、当時は今のようなスタートアップ支援もなく、資金面でも事業計画の面でもすべて自分で進めるしかありませんでした。しかし、「今やらなければ、もうチャンスは来ないかもしれない」と考え、行動を続けた結果、1991年3月に会社を立ち上げることができたのです。

イベントのトータルサポートで街づくりにも貢献

ーー貴社の事業の特徴を教えてください。

前野伸幸:
弊社は、広告宣伝を目的としないビジネスイベントの企画・運営を受託しております。主な実績として、表彰式、社員総会、入社式、周年行事などが挙げられます。イベントを開催するための会場づくりのお手伝いをしているほか、セミナー講師の手配、コンテンツ制作などを多岐にわたる業務を弊社1社で引き受けているところが特徴です。

ビジネス系のイベントであれば、会場選びから予算・スケジュールのコントロールまで、すべて弊社で対応できる体制をとっています。このような多様な業務を受託する中で、弊社は「直接取引を目指す」ということにこだわっています。一般的に企業からの受注が広告代理店を経由して行われることが多い中で、弊社のようなイベント会社は非常に珍しいといえるでしょう。

弊社の仕事は、ほとんどが既存顧客からの紹介によって受注しています。たとえば、ある団体・企業でBtoBの大規模なイベントを開催すると、そのイベントをきっかけに別の企業の方が弊社に関心をもってくださるというケースが非常に多いのです。既存顧客が新規顧客を紹介してくれることは、受注に結びつきやすいという利点があります。

ーー他社にはない強みや差別化ポイントはどのようなところですか?

前野伸幸:
弊社は年間約120〜150件のイベントを受託しており、さまざまなイベント会場の長所と短所に精通しています。このようなイベント現場での知見を会場選びのノウハウとして蓄積するだけではなく、弊社から施設の運営管理をするデベロッパーさんにフィードバックすることで、イベント施設が新しく建築される際には、設計段階からお声がけいただけるようになりました。

「イベント施設をどのように活かすか」「価格はいくらにするのか」というコンセプトづくりの段階から関わり、最終的には弊社の社員が施設に常駐して、お客様対応や見積もりの作成などを任されるまでになったのです。

現在はそれらに加えて、イベント会場にコンテンツを入れることや、社会課題をみんなで考える場をつくることを始めています。さらにそこから発展して、「この街にはどういう人たちが集まればいいのか」という街づくりにもイベントが活用され始めている状態です。

イベント会場を運営する同業他社はたくさんありますが、その中でも街づくりのフレームワークとしてイベントを活用できるのは、弊社ならではの強みではないかと自負しています。

自社のノウハウを業界全体に浸透させたい

ーー最後に、貴社の今後の展望を教えてください。

前野伸幸:
コロナショック以降、オンラインのイベントが増えたことでDXが加速し、来場者数や離脱率などのデータが非常にとりやすくなりました。今後はこのデータを活用してイベントマーケティングを行い、業務の効率化を図りたいですね。リアルイベントではこういったデータはとりにくいのですが、AIカメラを活用すれば不可能ではありません。

今後ますます深刻化する人材不足という課題にも、最新の技術を上手く活用して業務を効率化し、ビジネスを上手く回していきたいと考えています。また、弊社は2019年から「アイランダーサミット石垣」というイベントを毎年主催しており、2024年の11月に6回目を開催しました。これは、さまざまな立場の人が石垣島に集まり、社会を好転させるためのアイデアを出し合うことを目的としたイベントです。

直接的な売上には結びついていないのですが、このイベントを通じて知り合った方を弊社のセミナーに講師としてお迎えするなど、貴重な人脈を得る機会になっています。今後も、石垣島という小規模な環境で、大きな環境問題や社会課題について考える場を設けていきたいです。

私は今年で61歳になり、5年後、10年後には自分の仕事の締めくくりの時期に入っていると考えています。これまで、セミナーなどを通じて、弊社のノウハウを広く他社に提供していますが、これは「業界内に弊社のノウハウを広めたい」という考えがあってのことです。今後もスタッフの働きやすい環境づくりも含めて、弊社の知見を業界に浸透させ、イベント業界の活性化につなげていきたいですね。

編集後記

音響オペレーターから起業家へ。そして今やイベント業界の最前線で、街づくりにまで事業領域を広げる前野氏の軌跡には、圧倒される思いだった。27歳での起業を決意させた閉業という危機、法改正前のラストチャンスを逃すまいとした決断力。そして30年以上かけて築き上げた顧客との信頼関係。

すべてが今の同社の強みとなり、新たな挑戦の原動力となっている。同社はイベントを通じて、これからもさまざまな形で社会に価値を生み出していくことだろう。

前野伸幸/1964年千葉県出身。音響オペレーター・施設運営を経て、1991年に株式会社ホットスケープを創業。創業当初より、多くの大手企業からのミーティング・インセンティブ・各種セミナー・イベントを直接受注。企画・進行・運営をワンストップで数多く手がけている。その一方で、イベント・MICE施設のコンサルタント・運営でも多くの実績を残す。昨今はイベントのDXや地域創生・社会課題解決をテーマにしたイベントも多く手がける。