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2017年に設立されたNEL株式会社は、ブランドとお客様を“推し”でつなげるプラットフォーム「osina(おしな)」をはじめとしたマーケティングソリューションを提供している企業である。「osina」は、オンラインとオフラインを融合させた新たな購買体験を提供し、消費行動に革新をもたらしている。今回は、代表取締役社長の西田陸氏に、創業の背景や「osina」の仕組み、そして今後の展望についてお話をうかがった。

創業の原点と創業初期の試行錯誤と成長の軌跡

ーー起業のきっかけをお聞かせください。

西田陸:
私が起業を意識し始めたのは、大学時代にアパレル関連のEC事業に取り組んだ経験が大きく影響しています。当時、売上を伸ばそうとさまざまな工夫を試みましたが、なかなか期待通りにはいかず、難しさを痛感したのです。

大学4年生になり、夏にアメリカ・サンフランシスコでのインターンシップへ参加し、日本のある有名企業から内定をいただきました。ただ、現地の社長と本社の社長との連携がうまくいっていない様子を見て、組織体制に疑問を抱くようになったため、最終的に内定を辞退することにしたのです。

帰国後すぐに起業する道も考えましたが、EC事業で思うような成果を得られなかった反省から、まずは実践の場で力を蓄える必要があると考えました。そこで、新卒として大阪の広告代理店に入社し、経験と知識を積むことにしたのです。

入社後は、東京支社の立ち上げメンバーとして役員直下で働き、約1年半にわたりマーケティング戦略の立案や施策提案を担当しました。この経験を通じて実践的な知識を深めるとともに、「やはり、自分で事業を興したい」という思いが徐々に強まっていったのです。

起業を決意する転機となったのは2016年末のことでした。アメリカでのインターンシップ時代に出会い、帰国後すぐに起業した友人と再会したのです。友人に「あなたは会社に属するタイプではない。うちに入社するか、自分で起業するか、どちらかを選びなさい」と言われた私は、その言葉に背中を押されて起業を即決。2017年にNEL株式会社を設立することで、私の挑戦がスタートしたのです。

ーー創業当初に直面した課題とはどのようなものでしたか?

西田陸:
事業の方向性がなかなか定まらなかったことです。定めるまでに試行錯誤を繰り返しましたね。20以上のプロジェクトを立ち上げましたが、その多くは期待した成果を上げることができず、創業してから4期目、5期目くらいまでは事業が低迷し、方向性に悩む時期が続きました。

そんな時、人との出会いが転機となりました。当時まだ認知度の低かったTikTokのクリエイターと知人を通じて出会い、その方の強い意志に共感したことから、TikTokの広告案件を受注して事業をスタート。そこからTikTok市場は数十倍に成長し、現在も取引が続いています。この経験から、誰かの強い意志が状況を大きく変えることを実感したのです。

もうひとつ、苦境の中で見えてきたことがあります。それは「消費者、小売業者、メーカーを結びつける仕組みが不可欠だ」ということでした。

私たちがその必要性を強く意識するようになった背景には、日本の流通環境があります。オンラインショッピングの普及が進む一方で、ドラッグストアや専門店などの実店舗での購入が依然として大きな割合を占めています。

このことを踏まえて、店舗やメーカーが持つ販売データと、消費者の購入履歴などを連動させれば、より適切な品揃えやサービスが実現できるはずだと考えました。オンラインとオフラインの垣根を越えて、需要と供給を結びつける仕組みを作ることで、新しい価値を提供できると確信したのです。

ーー「需要と供給を結びつける仕組み」とはどのようなものでしょうか。

西田陸:
そこで、オンラインとオフラインを統合する「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方に基づき、購買データを活用したプラットフォーム「osina」の開発を進めました。「OMO」とは、インターネットと実店舗を結びつけて、一貫性のある購買体験を提供する考え方です。たとえば、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ったり、店頭のデータをオンラインに活用したりする仕組みを指します。

「osina」では、消費者に利便性と購入金額の一部が還元される仕組みを提供し、小売業者やメーカーには効率的な在庫管理や販売戦略の支援を行います。この仕組みによって、三者全てが利益を享受できる関係を構築することができたのです。

「osina(おしな)」が提供する価値

ーー「osina」の仕組みについてお聞かせください。

西田陸:
「osina」は、消費者が購入した商品を登録することでさまざまな還元を受けられる仕組みです。具体的には、購入した商品のレシートをアップロードすると、購入金額の一部がキャッシュバックされます。また、SNSで商品の感想を投稿することで追加の報酬を得られる点も特徴です。この仕組みを活用し、「osina」だけで生計をたてられるほど稼ぐ人もいます。

「osina」は、消費者にお得な買い物体験をもたらし、小売業者やメーカーには効率的な宣伝や販売戦略を可能にする仕組みです。特に、集めた購買データを活用して在庫管理や販売戦略を最適化できる点が大きな強みといえます。

さらに、従来の広告や販促に比べて成果がはっきり見えるため、費用対効果が高いことも特長です。こうした仕組みによって、消費者・小売業者・メーカーの三者がそれぞれ恩恵を受け、これまでにないかたちで購買行動を発展させています。

成長を支える採用戦略とビジョン

ーー採用活動において重視しているポイントはどのような点でしょうか?

西田陸:
私たちは、「ナンバーズ採用」と「トレジャー採用」という二つの独自の採用方針を採用しています。

「ナンバーズ採用」は、経営の中核を担う人材を対象とし、会社内の役職に番号を割り振る仕組みです。現在、ナンバースリーやナンバーフォーといったポジションが空席であり、リーダーシップを発揮できる人材を求めています。この仕組みを通じて、突出した能力と意欲を持った優秀な人材を集め、会社全体の成長を加速させる狙いです。

一方、「トレジャー採用」では、経験やスキルが不足していても、意欲と熱意を重視して採用する方針を打ち出しています。ポテンシャルの高い人材を見出し、会社としてその成長を支援することで、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を実現しています。

ーー今後の目標について具体的にお聞かせください。

西田陸:
私たちは5年後に時価総額1,000億円の達成を目指しています。そのために、主力サービス「osina」を核とした事業拡大を進め、購買データを活用して消費行動を効率化することで、日本経済も活性化したいと考えています。

単なるサービス基盤にとどまらず、暮らしと経済に欠かせない存在を目指す所存です。業界全体の発展に寄与する企業を目指し、次世代の消費基盤としての地位を確立していきたいと思っています。

編集後記

西田社長の言葉で最も心に残ったのは、「人との縁」の重要性という言葉だ。会社の成長の裏には、常に「人とのつながり」があったからこそ乗り越えられた数々の困難があったと感じる。

その結果として生まれた「osina」は、単なる購買プラットフォームを超えて、消費者、小売業者、メーカーをつなぐ共存共栄の仕組みを実現した。これからのNEL株式会社が、会社の枠を超えて日本社会全体に変革をもたらす存在となることを心から期待している。

西田陸/NEL株式会社、代表取締役社長。関西学院大学在学中にEC運営を開始し、その後国内大手企業、ベンチャー企業、そしてシリコンバレーでのインターン経験を経て、広告代理店にてマーケティング戦略の企画・提案、進行管理、品質管理に携わる。2017年12月にNEL株式会社を創業し、代表取締役に就任。クライアントの顧客価値最大化を実現するリテールテックカンパニーとして、ブランドとお客様を“推し”でつなげるプラットフォーム「osina」運営やマーケティングソリューション事業を展開。